『怪獣8号』怪獣9号役 吉野裕行さんインタビュー|「僕の中で作りたかったのは、違和感、不快感。そういうものをちゃんと表現したい」
集英社のマンガ誌アプリ『少年ジャンプ+』にて連載中の『怪獣8号』(著・松本直也)。同作のTVアニメが、2024年4月13日(土)よりテレ東系列ほかにて放送中/X(Twitter)にて全世界リアルタイム配信中だ。
第7話では本作の最強の敵、怪獣9号がいよいよ登場となった。他の怪獣を指揮したり、言語を理解していたりと、高い知能を有する前代未聞の怪獣である。掴みどころがなく飄々とした雰囲気。しかし圧倒的な強さと存在感を放っている。
怪獣9号を演じるのは吉野裕行さん。原作を読んだ時から、怪獣9号を「演じたい」と思っていたという。その理由、こだわりについて教えてもらった。
怪獣9号に惹かれた理由
――怪獣9号を演じることになった経緯を教えてください。
吉野裕行さん(以下、吉野):オーディションだったんです。オーディションに合わせて原作を読んで、怪獣9号をやりたいなと思っていたので、決まったときはうれしかったですね。
実は、最初は日比野カフカ役のオーディションのお話があったんです。他にもいくつか候補があったので「じゃあ見せて」と、作品について調べていくうちに「いや、コッチ(怪獣9号)でしょ」って。そのほうが可能性がひろがるよって。
――怪獣9号に可能性を感じた理由というのは、感覚的なものなのでしょうか。
吉野:声の質ですかね。漫画を読んだときに、自分の中で声が聞こえる人っているじゃないですか。僕らもそうやって、役と向き合ってきていて。「僕の中での9号はこう聴こえてるんですけど、どうでしょう?」という提案ができそうだなと思っていました。僕は声を楽器と捉えているのですが、カフカについては、自分の納得できるような楽器として出ない。だからちょっと違うよねって。
――原作を読まれた時、声以外の印象としてはどのようなものがありましたか。
吉野:面白いなと。オーディションをきっかけに出会う前に「『怪獣8号』という漫画が面白いよ」っていう記事をなにかのメディアで見ていたんですね。だから名前は知っていて。でもそれは連載がスタートしてすぐの頃だったと思います。
――連載当初から話題を呼んでいましたものね。
吉野:早かったですよね。だから今アニメ化なんだ、っていう気持ちもありつつ、改めて読ませてもらって「確かに面白いな」って。いろいろな要素が盛り込まれているので、具体的にどこがと聞かれると少し困ってしまうのですが(笑)、とにかく面白いなと思いました。
――自分の楽器としての声に、怪獣9号が合うなと思った理由についても教えてください。
吉野:例えば怪獣10号の場合、多くの人が低くて強い声をイメージするように思うんです。他方で、8号にはいろいろな可能性がありますよね。正統派でも重低音でもいける気がしますし、もっと他の可能性もあるでしょうし。その中でも9号がいちばん……胡散臭いんですよね(笑)。
僕の中で作りたかったのは、違和感、不快感。そういう部分です。彼の中で思考はしているようですけど、10号ほど矜持のようなものがあるものではなく、無責任な犯罪者というイメージがあります。そういうものをちゃんと表現できると良いかなって。それは僕の楽器と、自分がキャラクターを作るための技術を使えば、新たな提案ができるかもなと。それをまずはテープで出させてもらったっていう。スタジオオーディションも、その声のまま挑んで、そしたらOKをいただけたっていう。
――その当時の質感と、現在放送されている声とで違いはあるのでしょうか。
吉野:現場では「ああして、こうして」って大きな注文はなかったんですよ。ちょっと変わっているとしたら、、漫画では9号が喋っている文言にカタカナの表記が入っているので、そのあたりはどうしようかなと。テープを録ってる時もある程度意識して入れていて。ただ現場では「それを意識してください」という感じではなかったんですよね。でもまあ、やったほうが面白いなと。でも極端には際立たせず、スルーされるくらいのところを狙いながら、ちょっとずつ増やしていくっていう(笑)。
――さすが……!
吉野:ズルいやり方ですね(笑)。普通に抑揚をつけてしっかり喋るというよりかは、ベターっと喋りつつ、カタカナの部分で差をつけてメリハリをつけるようにしています。いちばん意識したのは、気持ち悪い部分ですよね。そういうものをちゃんと表現できれば良いなと思っています。
――その中で、吉野さんとして挑戦と感じるところはありましたか。
吉野:もうオーディションがそれなんですよね。なんて言うんだろう。キャラクターがマイペースで、表面上会話はしているんですけども、情報を集めて分析しているだけ。キャッチボールが成立していないような感じなんですよね。「本当に人の話を聞いてます?」っていうか。そういう意味でも、普通の人間の生理に基づいた抑揚や感情の動きからは外したいなと。とは言え、外しすぎてしまうと成立しなくなっちゃうから、そこの塩梅をどうしようかなっていうのは、自分の課題でもあり、常に気にしながらやるところかなっていう。でもスタッフがジャッジしてくれますから。そこは大丈夫でしょうっていう。
――その塩梅の調整というのは、まさに吉野さんならではの技術ですね。
吉野:そうかもしれないですね。ただ、これもまたズルいやり方ではあるんですけども、ズレてるとか、不安定さを作るっていう意味で言うと、ズレてるんだし、不安定なんだから、毎回同じ芝居じゃなくても良いんじゃないかなと(笑)。
――そこをむしろメリットにして。
吉野:かっちり正統派なセンターをやる人はブレてはいけない、っていうのがあると思うんですよ。その中に、こういうズルいキャラクターっているんですよね。何をやっても「ああ、そうかもしれないな」って思わせてしまうようなキャラクターが。私はそういうのが大好きです(笑)。多分、何回も同じことをやっていると飽きちゃうからだとは思うんですけども。
――そういう意味では、ものすごく可能性の広いキャラクターとも言えるのですね。
吉野:って思います。だから、スタッフの皆さんから「そこをもっとこうして」って言われるのも、新しい可能性だなと思いますし。と言っても、現段階ではそれこそそんなに細かく言われていることはないのですけども。
――吉野さんとしては演じがいのあるキャラクターでもありますか。
吉野:もちろん。答えが無限にありすぎる気がするので、その中からどんなものを当てはめるのかは、やはり自分のセンスになる。怖いは怖いですけどね。本来はズレてるキャラクターだけど、違和感を覚えない瞬間やめちゃくちゃ真っ当な噛み合い方をする瞬間がある方が、全体を見たときにはそこが違和感になるでしょうし。そこを考えてやると、「さて、今どこが正解かな」と考えながらやっていますね。
――松本直也先生も積極的にアフレコ現場にいらっしゃるとうかがいました。
吉野:いらっしゃいましたね。僕は最初にご挨拶させていただきました。スタッフ陣もものすごく力が入っているんですよ。どの作品もそうなんですけども、特にそう感じています。キャスト陣も気合いが入りますよね。防衛隊側にチームワークが生まれている印象がありました。
僕は自分が絡んでいるチームとの収録が多かったので、全部の収録は見ていないんです。杉田くんとは一回一緒に録ったくらいかな。同じキャラクターを演じているわけだから、掛け合いはできないですし(笑)。