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『ヨルクラ』まひるの“エゴ”を描く上で監督・脚本が意識したこと【連載10】

『夜のクラゲは泳げない』連載第10回:監督 竹下良平× 脚本 屋久ユウキ|「普通」という皮をかぶったクリエイター・まひるに“エゴ”を出してほしかった

みー子や小春は、「普通じゃない」と言われる人を肯定したい思いから生まれた

――今回は第1話ぶりのお二人での対談になりますが、ここまでで印象的だったシーンについて、語っていただきたいと思っています。

屋久:本当にいろいろあるんですよね(笑)。でもまず印象に残っているのは、第1話の、花音とまひるが、渋谷の夜の街を2人で歩きながら話しているときの映像感。夜の街の、ネオンのキラキラした感じとかは、良い映画を見ているみたいな気分になれてとても好きでした。

それとアイデアですごいなと思ったのは、第5話で、まひるが自分より上手いイラストレーターのファンアートに嫉妬しちゃうシーンの、回想の入り方です。花音が家までやってきて、まひるは自分の悩みを打ち明けるんですけど、そこで一旦時系列が過去に戻るんです。それをスマホに映し出された絵のいいね数で表現していたのは、すごいなと思いました。いいねの数が巻き戻ったことで時間も巻き戻ったことを示して、「私より上手い人が描かないでよ、邪魔だよ」ってまひるが思うところを見せるという。

そもそも第5話は、承認欲求(=いいねの数)みたいなところがテーマにあったから、そのテーマをモチーフに使いながら過去回想に入る……映像じゃないとできない表現方法だと思います。

――あそこはとても印象的でした。そして「邪魔だよ」は、まひるの黒さが出ていて、すごくいいセリフですよね。人間臭いというか。

屋久:ありがとうございます。あと、映像的なところで言うと第4話でのめいとキウイが歩いているところの身長差も好きです(笑)。JELEEで一番身長が高い子と低い子の組み合わせなので。

――その2人のコンビが10話でも奔走していましたからね。

竹下:第7話や第10話とかは、いつもと違うカップリングを描いてみようっていうのはありました。

屋久:ありましたね!

竹下:キウイと花音のコンビって珍しいよねとか、めいとまひるというコンビもいいなっていう。まひると花音が一緒にいるのは、ここまででかなり出来上がってきたので、あえて違うカップリングを作ろうというのは考えていました。

――その第7話だと、小春が整形を繰り返す美女だったり、第6話で、みー子が実は31歳バツイチで子持ちのアイドルだということが判明したり……。いわゆる「自分の好きを貫いて生きている大人」を出すことで、JELEEの4人が何かを受け取るという構図になっているのかなと思いました。

屋久:みー子と小春は、「大人を出そう」と思って出したというより、この話の中で、世間から「ちょっと変だよね」とか「なんか変わってるよね」みたいな感じで、普通じゃない扱いをされて、生きづらい思いをしている人を描いて肯定したいという気持ちが、みんなと一緒に作っていくうちに生まれたからなんです。

30歳を越えているけど、ずっと可愛いアイドルになりたいとか、整形を繰り返して、アウトローで自由に生きているけど、それは世間からは普通じゃないと言われる……そんなキャラを書きたいと思ったときに、自然と大人になったというか。現実的に子供だと整合性が取れないですから(笑)。

――きっと、小春やみー子も女子高生の頃、キウイたちと同じような悩みがあって、それを乗り越えた人なのかな?と感じました。

屋久:小春はキウイと出会った時点で、胸も入れてて、顔も整形していて、ある意味、リアル世界でVtuberをやっているみたいな人だったんですよね。なりたい自分にお金をかけて、自分の姿を変えちゃうという意味では、キウイは刺激を受けるだろうし、やってることとか感性が、やっぱり2人は似ているはずなんです。

そういう風に、なりたい自分になりたい!っていうのは、結構いまの時代のテーマになっている気がするので、それを体現して見せるという意味で、キウイと出会う必然性はあったのかなと思います。

竹下:整形を肯定的に描いてる作品も新しいなと思いました。今ではもう整形もポピュラーな選択肢の一つですし、そこは自分でも新鮮だなと。

みー子のエピソードは私もすごく気に入っているんですけど、最初のプロットでは、子持ちという設定はありませんでした。それを母親設定にしたのは屋久先生の手腕で、そこがすごく良かったなと思いました。

ライブの当日、みー子が飛び出して行き、その代わりにJELEEがライブをするという案はもとのプロットからあったんですが、みー子が出ていく理由を、子供のためにしたところが良かったですね!(第6話)

屋久:最初は恋愛で出ていく、みたいな感じも考えていたんですよね(笑)。

竹下:恋愛のいざこざで出ていくというのも、コミカルでぶっ飛んだ感じがあったけど、子供のためにしたことで、地に足のついた感じのキャラになりましたよね。

屋久:あははは(照)。

――いろんな「悩み」を描いている作品ですよね。特にクリエイティブなことをしている人には、すごく共感できる物語なのかなと思っています。

屋久:ただ、JELEEの4人でいうと、創作という部分で悩んでいるのって、実はまひるだけなんですよ。

めいは、自分の曲について悩むというより、自分の推しに対して押し付けていた理想とか、ミックスで周りと一緒になれない孤独とかに悩んでいるんです。その孤独感も推しがいることで乗り越えることができた。じゃあ今度は自分がみんなに推される側になって、希望を与えようと思っている。

キウイは身体的特徴の影響などもあって、本当になりたい自分になれていないから、だったらそういう自分を自分で作ってしまえ!という社会へのカウンターみたいなところがあるので、実は単純な創作ではなく、生き方に悩んでいる面が強かったりするんです。花音はまさに今描いているところですよね。

それに対してまひるは、自分より絵が上手い人がいて、周りから自分の絵を変だと言われて、それに自分で同調してしまう……。だから作ったものに関する悩みって、まひるが一番強いんです。

竹下:動画工房のスタッフは、まひるに共感する人が多いでしょうね。

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