夏アニメ『真夜中ぱんチ』本間 修監督インタビュー|視聴者にとってキャラクターが友だちのような存在になってほしい【スタッフ・声優インタビュー連載第2回】
時代へのアンチテーゼを笑いの中に閉じ込める
──その中で、どのように作品のビジョンを決めていったのでしょうか?
本間:記憶が少しぼやけてしまっているところもあるんですけども……昨今、いい子が出てきて感動する話が多いように感じていたんです。僕自身はそういう話が好きで、普段から読んでいますが、少しだけ食傷気味だったところがありました。それこそ『パリピ孔明』もいい子たちの話です。それはそれでやりきって、その後に画コンテ・演出として参加させていただいていた『スキップとローファー』も、いい子たちの話で、実際にとても良いお話です。
ただ、いい子たちを好きな人たちもいれば、そういうメッセージを窮屈に受け取る方もいるのかな?と、SNSや世の中の雰囲気から感じることもありました。その窮屈感からの解放をテーマにして、SNSや現在の状況に対してのメッセージを込めたいと思いました。
──確かに現代社会では品行方正が当たり前とされていて、それ以外は「間違っている」と、白黒はっきりしたがる傾向がありますよね。
本間:そうなんですよね。
──はみ出しものが生きにくい世の中になっているな、というのは、はみ出しもののひとりとして感じています(苦笑)。では本作は本間監督の中では時代に対するアンチテーゼといいますか。
本間:そうですね。ただ難しいバランスではあります。昔が良かったということを言いたいわけではないんですよ。一昔前のおおらかな空気って、ともすればハラスメントになることもありますし、人を傷つけてしまうことはいつの時代だって良くないことですから。
でも、そのひと昔のよく言えばおおらかな価値観の中の一つに「互いに傷つけ合う中で一緒に生きていく」といったものがあると思っていて、それが癒やしになってる人もいるんじゃないかなと思っていて。
──なるほど。
本間:それに気づいたのが、文化人類学者の小川 さやかさんの著書『「その日暮らし」の人類学 もう一つの資本主義経済』や『チョンキンマンションのボスは知っている アングラ経済の人類学』などを読んだときのことで。世界には成果主義、資本主義とは異なる価値観で、少し力を抜いて生きている人たちもいる、だからこそその人たちは力強く生きている……ということが書かれていたんですね。正しさの押し付け感のようなものがこの世の中にある中で、それとは違う人たちがこの世にいる。それに癒しを感じました。そのことを思い出して、本のタイトルを含めて、白坂さんに共有していたんです。
──実際、主人公の真咲は一言で表すとクズで……。
本間:(笑)
──真咲役の長谷川育美さんからは「アフレコ初日にもしっかりとクズです。と説明されました」とコメントを寄せられていましたね(笑)。
本間:別にクズに癒やされているってわけじゃないんですよ(笑)。ただ、本当に嫌な人もいるかもしれないけど、自分とは違う価値観で生きている人もいるわけで。そして、そんな価値観の違う人たちもこの世界で生きているわけで、距離を取ったり、面白がったり、なんとか共存していくのが社会なんじゃないか、というのはずっと思っていました。
そういったものを根底におけば、癒やしになるかもしれないなと。実際、僕は真咲に一番感情移入しているんです。橋本さんからは「真咲に似てますよね」って言われるんですよ。それはちょっと解せないんですけども(笑)。