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『異世界失格』センセー役・神谷浩史インタビュー【連載第1回】

転移したからって成功できるわけなんてない!? 異世界転生・転移作品として初の主人公は“アンチ異世界もの”な役どころ? 夏アニメ『異世界失格』センセー役・神谷浩史さんが第1話を振り返る【インタビュー連載第1回】

クセがない声質の自分だけど絵があるので割り切って。「ふふ」で喜怒哀楽のすべてを表現!?

――演じる際に意識された点や収録に際してディレクションで印象的だったものをお聞かせください。

神谷:ディレクションは特になかったんですけど、僕がこの役を任されるにあたって、原作を読んでみた印象からすると、「クセのある声質の方が成立しやすいんじゃないかな」と。僕の声質は特徴がないわけではないけど、クセがあるかといえばそうではないと思っていて、声優の中にはクセがあって僕よりも適切と思える役者さんが他にいる気がしました。

だからセンセー役を任せていただけるのはありがたいけど、どうしたらクセがある声質の役者さんがやるような、「主人公として真ん中に立っていて無視できないキャラ」という印象を持ってもらえるだろうかと。そして、「異世界にいて何で違和感があるのか」と気にしてもらうにあたって、「声質にクセがあるから無視できないよね」というのが適正だと思うけど、僕にはそういう武器がないので、どうしたらセンセーという人を無視できない存在にできるのだろうかと考えていました。

でも状況的に、中世ヨーロッパ風の衣装を身にまとっている人の中に、和服を着ているだけで違和感になっているんですよね。そう考えてからは、「そこにクセのある音を付けなくてもいいかな」と割り切って、無視できないセリフの要素として、「さっちゃん」や「心中せねば」などのセリフから愛する人と心中する瞬間を心待ちにしているところや心中しようという信念の強さが見えるけど、それ以外は無気力という落差で表現していこうかなと。

あとは原作を読んだ特徴的なセンセーのたたずまいとして、「…ふふ」とひらなが2つで笑うところを意識しました。「センセーといえば、ちょっと薄暗い目で、どこを見ているのかわからない感じの目線で笑うよね。でも、ただ楽しくて笑っている感じがしないし、何を考えているのかわからない笑い方……。喜怒哀楽をすべて『ふふ』で表現してしまうような人だよね」というところが特徴かなと思っていて。そこをとりあえずやってみて、(河合滋樹)監督や野田先生に「これでOKです」とおっしゃっていただければ、その方向性で役を作っていくという流れで、第1話の収録を迎えました。

――私は学生時代の国語の教科書で見た、「とある文豪」のイメージが残っていて、自虐的かつ退廃的であり、ユーモラスなところもある部分を、神谷さんの声やお芝居から感じてイメージ通りだなと思いました。

神谷:そうおっしゃっていただけるのならありがたいです。

――大久保瑠美さんと鈴代紗弓さんとは掛け合いが多かったと思いますので、お二人のお芝居についての感想をお聞かせください。

神谷:大久保さんも鈴代さんも本当に上手な人たちなので、言われたことをすぐできるというか、演出やディレクションなどのオーダーにすぐに反応できるビビッドさを含めて、「売れている人ってすごいな」と思いました。この作品はコメディであり、ギャグ要素もある作品なので、シリアスなシーンとギャグのシーンの落差が大きければ大きいほど、おもしろくなるわけですが、瞬間的に音質や声の大きさ、テンションを変えながら演じていくところがこのお二人はすごくて。コメディは難しくて、女性のコメディエンヌはなかなかいらっしゃらない中で、このお二人にはそういう要素があるんだろうなと見ていました。

――センセーがある意味、フラットまたはダウナーな感じゆえに、掛け合う人は針が振り切らないとその特異さや落差を感じにくくなり、おもしろさも半減するので重要ですよね。

神谷:僕は楽をさせてもらっていますよ(笑)。普段、ギャグやコメディに関わらせていただく時はアネットやタマのようなツッコミ役を演じることが多いんですけど、センセーは引き算のお芝居で、淡々とギャグには関わらないところにいるので、その役割は二人が担ってくれています。

例えばアネットはとても美しくて、品のある神官で、異世界に転移してきた人たちをたくさん迎えてきたけど、来るのがクソ野郎ばかりなので、いつしか失望のあまり気持ちが折れてきて、反射的にテンプレな言動を繰り返すだけになってしまって。でもセンセーはこれまでの転移者にはいなかったタイプだから心が揺り動かされて、自分の素のダメな部分がどんどん出てきてしまうという。ある意味、ダメな男に貢いでしまう女性の部分が瞬間的に出てきて。そんなアネットを演じるにあたって演出側から言われていたのが「もっと汚い声を出せるよね」という、よくわからないダメ出しで(笑)。そこに大久保さんが果敢に挑んでいるのがちょっとおもしろかったです(笑)。

――収録はどのような形で行われたのでしょうか?

神谷:収録したのが1年くらい前で、まだコロナ禍だったため、全員一緒にではなく、チーム分けしての収録でした。大久保さんと鈴代さんとは、絡むシーンが多かったので一緒に収録することが多かった気がします。話数によってはアネットとは別ということもありましたけど。

――裏話的なことはありますか?

神谷:あまり覚えていないんですよね(笑)。「これだけは守ってください」ということもなかったし、まだ絵が出来上がっていなかったので、セリフがこぼれても、多少早上がりしても「後で絵を調整します」と言ってもらえて。またスタジオ内で会話することがあまりよくない時期でもあったので、皆さんが期待されるほどおもしろいエピソードはなかったかもしれません。

――役者さんによっては、アフレコで絵ができていると口パクに絶対合わせないといけないというプレッシャーがあると聞いたこともありますが、やりやすかったのでは?

神谷:絵があったほうがいいかどうかは、人によると思いますけど、僕は絵があったほうが助かるほうの役者です。もちろん、絵がなくて「自由にやっていいですよ」と言われて実力を発揮できる人もいますが、僕は用意いただいたハードルをどのように跳び越えるかを考えるタイプなので。「自由にやってください」と言っていただけるのはありがたいことですが、どれだけジャンプしたらいいのかがわからなくて悩んでしまうので「できれば、もうちょっとヒントください」みたいな(笑)。

さっちゃんの芝居で“役者・上田麗奈”が唯一無二の存在であること再確認

――PV等で映像をご覧になった感想をお聞かせください。

神谷:原作の良いテイストはそのままに発揮しつつ、アニメならではの演出や音の効果もついて、より楽しんでいただけるのではないかなと思います。

――第1話を見た時、異世界に転移した時のセンセーと街並みやモンスターなどが同居する映像に強烈な違和感を感じましたが、そのうち段々慣れてきました(笑)。

神谷:このアニメには何重ものレイヤー(階層)があるんですよね。『指輪物語』から脈々と連なるファンタジー小説があって、そこを舞台にして現代世界から転移してくるお話が出来上がってきて。更にそれを元にしたゲームが作られたり、転生ものができている。そしてその転生ものをちょっとイジってやろうというのが『異世界失格』で。

だからどのレイヤーで楽しむのかは見てくださる方それぞれだと思いますが、見てくださる全員を楽しませようというのは至難の業なんです。だから中庸な(過不足なく調和がとれている)作り方をしないといけなくなってくるので、例えばこのレイヤーにアピールしようとなったらそこに特化したものが必要になるけど、この作品はそうではないので、全部を内包して成立させる作り方にならざるをえなくなります。

もし多少の違和感を覚えたのだとしたら、このレイヤーで楽しもうとしている意志があったということだと思うんです。でも最初に違和感があっても見ているうちに解消されているなら今回のアニメは成功していて。やり方としては間違っていなかったんだろうなという感覚は僕の中にはありました。

――掲載時点では第1話が放送済みとなりますが、振り返った感想をお聞かせください。

神谷:声優的な観点から言うと、冒頭にさっちゃんと心中しようとするシーンから始まりますが、さっちゃん役の上田麗奈さんと共演するのはほぼ初めてに近いし、共演している作品もコロナ禍の収録で直接お会いしたことなく、オンエアを見て「あっ、この役を上田さんがやっているんだ」と気付くことがありました。

だから今回一緒に収録して、同じシーンでセリフを交わす機会に恵まれて良かったなと。以前から気になっていて、彼女の演じられている作品を見ると「独特な存在感を放っていて素敵な役者さんだな」と思っていたので、一緒に収録するのが楽しみでした。

そして第1話の冒頭でセリフを交わしてみたら、全然聞こえないんです(笑)。端と端のマイクを使っていたことと、間にビニールシートも挟んでいたコロナ禍のアフレコ環境も大きいと思いますが、本当に耳をそばだてないと聞こえないくらいの音でセリフを言っているんです。

これは実はものすごいことで、僕がこの業界に入ったばかりの頃だったら必ずNGな音だったと思いますが、今は技術が進んで、あの音を拾えるようになって、なおかつ音の表現として成立できているのはマイクの性能の進化が大きいと思います。でもあそこまで思い切って声量を落として、なおかつ魅力的な音を構築するのはスタッフを信用していないとできないことだなと。

でも完成した映像を見ると、バキバキに芯のある音が出ているんです。小さいけど、響きのある音を彼女は作ることができて、なおかつ妖しさ……何を考えているのかまったくわからない魔性の感じを出すのに適した楽器を持っていて。アフレコの時は「聞こえない」とか「今、かすかに聞こえた」という気配だけで僕は芝居をするわけですが、それをマイクが拾ってオンエアにのせる時に調整するとああいう風になるわけです。

お互いに全然違う芝居のアプローチ、楽器と楽器の使い方の違いが猛烈に出ているのに、それを成立させるとああなるんだと思って、僕はすごくおもしろかったです。これはマニアックな観察以外の何物でもないので、この記事を読まれている方は「はあ? そうなんですか?」という感じだと思いますけど(笑)。でもそれだけ彼女が持つ楽器は素晴らしいですし、それを自在に操れることに驚いたと伝えたかったんです。

そして今、彼女はいろいろな作品に出演していますが、「上田さんじゃないと無理だね」という唯一無二の存在感を持つ役者さんであることは、あのシーンだけでわかりました。だから第1話の声優的なマニアックなポイントでいえば、冒頭のあのシーンが注目ポイントで、興味が湧いた方は配信等で見ていただければと思います。

(C)野田 宏・若松卓宏・小学館/「異世界失格」製作委員会
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