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『響け!ユーフォニアム3』石原立也監督が最後の演奏シーンに込めた想いとは【連載07】

最後の演奏シーンに込めた北宇治高校吹奏楽部の「今までと未来」――『響け!ユーフォニアム3』石原立也監督インタビュー|アニメの中に残すことができた宇治の情景も楽しみながら、これからも何度も観返してほしい【連載第7回】

 

北宇治高校吹奏楽部の「今までと未来」を描いた演奏シーン

――第1回放送後に公開した、小川太一副監督との対談では、まだ語れることが少なかった黒江真由についても、改めて、特に大事にしていたことなどを教えてください。

石原:最終回の真由を観て、たぶん皆さんもそう感じてくれたと思うのですが、本当に普通の子なんですよ(笑)。久美子にとっては、自分を映す鏡のような存在であったり、ライバルであったりするんですけどね。

そのあたりは、真由も意識していて、「このままだと、久美子ちゃんとぶつかっちゃうかもしれない」と思っていたから、最初から一生懸命ああいうことを言っていた。物語の中での役割としては、そういうライバル的な役割を持っているんですけど、単なる物語上の仕掛けではなく、一人の女の子として描かなくてはいけないと思っていました。そのあたりは、小川もすごく気をつけていましたね。

 

 

――オーディションで争うことになった、同じユーフォニアム奏者の久美子と奏以外の部員にとっては、本当に何の問題も無い良い部員なわけですし。

石原:そうなんですよ(笑)。そういう意味では、たぶん大変だったのはユーフォニアムだけではなくて。新1年生の(義井)沙里は、クラリネットがすごく上手い子で、(第6回で)「クラはバチバチですよ」みたいな奏のセリフもあったし、たぶんクラリネットとか他のパートの中でもいろいろなことはあったのだろうなと思います。

――ちなみに、3期の奏は「すごく可愛い」とファンの間でも話題でしたね。私も、登場時から好きなキャラクターでしたが、3期でより好きになりました。

石原:今回、奏は一貫して、ずっと久美子の味方なんです。それは可愛くもなりますよね(笑)。

――第13回は、石原監督が絵コンテと演出も担当されています。特にこだわったポイントなどを教えてください。

石原:久美子の気持ちのクライマックスとしては、だいたい第12回で終わっているんですよ。なので第13回では、全国金賞というハッピーエンドに向かって行くだけだし、僕は、湿っぽい最終回はあまり好きではないので、とにかく明るくというか。上昇していくような感じで盛り上げていって、「これで金賞を取れなきゃ嘘だろう」みたいな気持ちでコンテを描いていきました。

最初は、桜を見ているような静かなシーンから始まるんですけど。名古屋へ行って、(加藤)葉月の「よし、やるぞー」に、みんなが「おー」ってやったりと、どんどん盛り上がっていって。その後、本番直前にみんなの前で久美子と麗奈が話をするとき、部員全員を順番に見せていくところを、僕は「部員紹介シーン」と呼んでいるんですけど。その部員紹介でも本番に向けて盛り上がっていくと良いなと思って、音楽もそのシーン用に新しく作ってもらいました。

 

 

――その後の演奏シーンに関しては、どのような点にこだわったのでしょうか?

石原:(自由曲の)「一年の詩、吹奏楽のための」は、劇中では、作曲者が亡くなったお父さんと最後に過ごした1年間を描いた曲と説明されていますが、最終回の演奏の中での「一年の詩」では、久美子たちが入学してからの3年間で経験してきたことを順番に見せています。これは原作にもあった描写ですので、そういう形にしたいということを、まずは考えました。

それに加えて、この最後の演奏に込めたいと思ったのは、北宇治高校の吹奏楽部は、ここで終わりではなく、これからも続いていくということ。曲の展開としては、まず春が来て、夏と秋が来て、冬が来て、そしてまた春が来て、という流れなのですが、最後の方で、求や1年生たち、下の世代が頑張っているところを少し見せているんです。そういう形で北宇治の今までと、これからの未来を、あのシーンの中に描けると良いなと思いながらコンテを描きました。

 

この10年での宇治の変化も盛り込むことができた作品

――北宇治の未来といえば、久美子は卒業後の進路として、教師を目指すことを決めました。担任で副顧問の(松本)美知恵先生は、久美子の決断を聞いて、「予想通り過ぎて、つまらん」と言いましたが、石原監督は原作を読んでこの展開を知ったとき、どう思いましたか?

石原:「ああ、なるほど」と。北宇治高校に教師として帰ってくることに感動しました。原作は叙述トリックになっていて。武田先生に聞いたわけではないですが、何も知らずに前編を読んだ人は、冒頭で話している教師は、滝(昇)先生だと思うように書かれているはずなんですよ。でも、後編の最後のページを開いたら、「北宇治高校吹奏楽部の副顧問をしています、黄前久美子です」と書かれていて、「最初の教師は、久美子だったのか!」と分かる。面白いし、上手な仕掛けだなと思いました。

 

 

――石原監督は、教師になって北宇治に戻って来た久美子は、どんな指導者になっていると思いますか? 想像で良いので教えてください。

石原:もちろん、立派な先生になっていて欲しいです。でもこれは、僕の希望でもあるんですけど、あまり立派すぎると、僕たちから遠いところに行ってしまったみたいで、若干寂しいじゃないですか(笑)。なので、きっとまだちょっとドジなところもあるのだろうなと。最後のエピローグで、カッコ良いシーンなのに、音楽室のドアをガラッと開けたら途中で引っかかって。「開かない、開かない」ってやるところを入れたのも、そんな気持ちがあったからです。

――最終回のコンテに本編のカットとは関係なく描かれている黄前先生の絵があって。横に「黄前先生。今でも美知恵先生にしかられる」と書かれていたのですが、石原監督の中では、大人の久美子にもそういうイメージがあったのですね。

石原:はい。そんな先生だったら、面白いだろうなと思っています。

――また、個人的に印象に残ったのですが、久美子、奏、真由の3人の校舎裏での会話シ-ンで、奏が“立て付けの悪い窓”を開けたとき、奏は久美子と同じで、この窓を上手に開けられる子なんだなと思いました。

石原:そうなんですよ! あそこで、久美子に「奏ちゃん、窓開けるの上手いね」と言ってもらおうかなとも思ったんですよ。最終的にはしませんでしたが。

――では、総括的な質問になっていくのですが、『響け!ユーフォニアム』という作品は、石原監督のキャリアの中で、どういう存在の作品になりましたか? あるいは、これからなっていくと思いますか?

石原:アニメを作るときの一つの夢として、僕は、キャラクターが本当にそこにいるような映像を作りたいんです。なので、初めて監督をやらせてもらった作品(『AIR』)から、ロケハンをやらせてもらって、それを作品に活かしていました。それをもう少し具体的に押し進めたのが、『ハルヒ』(『涼宮ハルヒの憂鬱』)で。物語の舞台が、原作者の谷川(流)先生の出身地の(兵庫県)西宮市だったので、そのあたりを実際に取材させてもらって、作中で描いたりしました。

 

 

――西宮には、今でも多くのファンが舞台となった場所を訪れているそうですね。

石原:そういう意味で言うと、『響け!ユーフォニアム』は、すごく幸せなことに舞台が(京都府の)宇治で、(京都アニメーションから)すごく近かったんです。なので、コンテを描いてるときに「こんな絵が欲しい」と思ったら、すぐに写真を撮りに行けたんですよ。そのおかげで、先ほどお話しした、そこにキャラクターがいるような映像作りをかなり高い精度で進めることができたし、自分としては、やりたいことがかなりできた作品になりました。

あと、これは結果的にそうなったという話ですが。今までに10年近くかかっているんですけど、今回、この10年という時間も利用することができたと思っているんです。どういうことかと言うと、最終回のエピローグは、劇中では本編の数年先の話ですが、あそこに描かれているのは、現在の宇治なんですよ。

――コンテでも、神社の鳥居が新しくなっていたり、2本あった煙突が1本になったりといった現実の宇治の変化を反映した指示が書かれていました。

石原:そういう意味で、舞台と時間も利用することができた作品。僕自身、かなり面白い経験をしながら作ることができました。

――最後に、この連載を読んでいる『響け!ユーフォニアム』ファンの皆さんに、メッセージをお願いします。

石原:何度かお話ししたように、10年近く作ってきた作品で、その中には、いろいろな意味において、本当にたくさんのスタッフの思いが詰まっています。今回、『響け!ユーフォニアム3』も監督させてもらい、その思いなどが詰まった作品をやっと最終楽章まで描くことができて、本当にホッとしています。

宇治という作品の舞台もすごく良い感じに描けたと思っていて。今はもう存在しない情景が作品の中には描かれたりしているんです。そういった、アニメの中に残すことができた情景も楽しみながら、これからも何度も観返してもらえると、とても嬉しいです。

 
[取材・文=丸本大輔]

 

作品概要

響け!ユーフォニアム3

あらすじ

高校3年生になり、部員90人超となった北宇治高校吹奏楽部の部長に就任した、黄前久美子。久美子たち3年生にとっては最後となる吹奏楽コンクールを控え、練習にも熱が入る。悲願の「全国大会金賞」は達成できるのか? 部長として踏み出した久美子、高校生活最後の熱い青春を描く!

キャスト

黄前久美子:黒沢ともよ
加藤葉月:朝井彩加
川島緑輝:豊田萌絵
高坂麗奈:安済知佳
黒江真由:戸松遥
塚本秀一:石谷春貴
釜屋つばめ:大橋彩香
久石奏:雨宮天
鈴木美玲:七瀬彩夏
鈴木さつき:久野美咲
月永求:土屋神葉
剣崎梨々花:杉浦しおり
釜屋すずめ:夏川椎菜
上石弥生:松田彩音
針谷佳穂:寺澤百花
義井沙里:陶山恵実里
滝昇:櫻井孝宏

(C)武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

 

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