第1期・第2期でできなかったことを、この第3期でやりましょう――『シンカリオン チェンジ ザ ワールド』チーフプロデューサー・ジェイアール東日本企画 鈴木寿広さん×株式会社シグナル・エムディ 代表取締役社長 千野孝敏さんインタビュー
ジェイアール東日本企画・小学館集英社プロダクション・タカラトミーの3社が原案となる『シンカリオン』シリーズの最新作、TVアニメ『シンカリオン チェンジ ザ ワールド(以下、シンカリオンCW)』。第13話で主人公・大成タイセイが姉のイナを取り戻したことで、新たな局面を迎えています。
そんな徐々に作品の全貌が見えてきた本作について、チーフプロデューサーを務めるジェイアール東日本企画 鈴木寿広さんと、アニメ制作を担当する株式会社シグナル・エムディの代表取締役社長 千野孝敏さんの対談を実施。
初タッグを組むことになった経緯や、アニメとCGを違和感なく見せる技術面の話、更にはSNSで話題になった「五稜郭流・デスティーノ」の裏話など様々な話を伺いました!
一言で言えば「やっと来た」ですね(笑)
――まずはお2人の関係を読者に伝えるために、第3期となる本作からアニメ制作がシグナル・エムディさんに変わった経緯を教えていただけますか?
ジェイアール東日本企画 チーフプロデューサー 鈴木寿広さん(以下、鈴木):前回のインタビューでもお伝えしたように、今までの『シンカリオン』とは違うものをやりたいという想いがありました。
もともと『シンカリオン』はキッズものとして始めましたが、そういった部分は残しつつも、あまり枠に狭めないでやりたいと思っていたんです。もう少しターゲットも広げていかなければならないとイメージしていて、小プロ(小学館集英社プロダクション)さんとも話ながらご紹介いただいたのがシグナル・エムディさんでした。
ただ、まさかシグナル・エムディさんやProduction I.Gさんとご一緒できるとは思っていなかったので、僕としても嬉しかったですね。
――そんな千野さん率いるシグナル・エムディさんは、今作から『シンカリオン』シリーズのバトンを受け継いだわけですが、その時はどう思われましたか?
鈴木:それは僕も聞きたかったです。なんで受けてくださったんだろうって思っていました。
株式会社シグナル・エムディ 代表取締役社長 千野孝敏さん(以下、千野):一言で言えば「やっと来た」ですね(笑)。
もともと僕はXEBEC出身なんですが、その当時に山寺宏一さんが歌うテーマソングのPVを見せてもらって「こういうのどう?」と話をもらったことがあったんです。
XEBEC自体は古くはミニ四駆からゾイド、ロックマンシリーズなど、ハイエンドものとキッズものの両方を僕はやっていたので、こういう作品も良いなとはずっと思っていて。
ただ、第1期はアニメ制作がOLMさんになったので話が流れてしまい、第2期のタイミングで僕は今のシグナル・エムディに移ったのですが、会社を移ったら今回のお話が来たんです。もう二つ返事で、食い気味の勢いで「やります」と即答しましたね。
そもそもシグナル・エムディという会社としても、こういった『シンカリオン』のような子どもも楽しめる作品というのは、なかなかやりたくてもできない作品でもあるんです。また、本作の物語ともリンクしますが、会社の中や人を成長させたい想いがあって、それを一緒に共有できるタイトルがこれだなというのがありました。
――『シンカリオンCW』の制作に際して、鈴木さんからシグナル・エムディさんに要望を伝えたり、それを受けて千野さんの方から逆提案をするといったことはありましたか?
鈴木:具体的に何か個別にお伝えしたとかは多分なかったのですが、第1話の入り方はこうしたいという話は監督も含めてしたかもしれません。
第1期の時は、鉄道に詳しい人でないと分からないような「マルチプルタイタンパー」という車両を使った保線作業のシーンから始めたんです。
【シンカリオンの見どころ紹介】
— 『シンカリオン』シリーズ(公式) (@shinkalion) August 14, 2018
鉄道知識や描写へのこだわりは、第1話の冒頭から!
第1話は「マルタイ」こと「マルチプルタイタンパー」という機械を使った保線作業シーンから始まるのですが…一般的には知られていないマルタイを頭に持ってくるあたり、監督のこだわりを感じますね! pic.twitter.com/oOM1EQE1dj
あれは鉄道にちゃんと向き合って作っていくアニメだという意思表示のために出したんですが、第3期はもう一回ちゃんとやりたいと思って、あの新幹線を輸送するシーンから始まったんです。
あと、第1話の流れを今までとは違う感じにできたらと思ったので、その辺の話も少ししたかもしれません。
――そういったお話を受けて、千野さんからこうしてみたいといった逆提案はされましたか?
千野:キャラクターの年齢に関して、どこまで上げるかという話をした覚えはあります。新幹線に乗って全国あちこち行くのであれば、保護者が付かないなら高校生くらいの設定にしようとか、そんな話も実際に出たんです。
でも、人間を成長させるという意味での葛藤について考えると、中学生が一番面白いだろうなと。視聴者も自分が中学生だった頃の記憶などとシンクロしたり、共感できることが多いだろうと想定して、中学生という設定が良いんだろうなと思ったんです。
そうこうしているうちに、梅原さん(シリーズ構成・梅原英司)がキャラクター作りをどんどん進めていってくれたんです。
鈴木:駒屋監督(監督・駒屋健一郎)と梅原さんが本当にすばらしかったんです。
千野:そうですね。関係者が多い作品でもあるので、色々な制約やコントロールを受けつつ、ロングスパンのプロジェクトをできる人物として駒屋監督が一番いいだろうと思いました。鈴木さんがすばらしかったと言ってくれたのは、こちらの戦略通りで良かったです。
鈴木:別に鉄道が好きな人でなくても、興味を持ってくれる人であれば良いと思うんです。その点で、駒屋監督と梅原さんは興味を持って色々と調べていただいているのがありがたいです。
鉄道という実在のものを扱った作品で、色々と事情や都合もあるので、それをうまく整理整頓して進めていただいているのかなと思います。
大仁田厚風のアンノウン!? いま明かされる「五稜郭流・デスティーノ」の裏話
――『シンカリオン』シリーズというとジェイアール東日本企画をはじめとした製作委員会、アニメ制作会社、CG制作会社の3者の連携が重要になると思います。事前準備や打ち合わせも含めて、例えばこのシーンでCGを入れたいからアニメはこうしてください、みたいなやり取りがあるのでしょうか?
千野:それで言うと、ジェイアール東日本企画、タカラトミーさん、小プロさんの三社で検討した内容をいただいて、こちらからは「こんな風にしたい」というのを出して、ああしようこうしようと詰める感じですね。
CGアニメーション制作のSMDEさんに関しては、僕たちからああしてくれこうしてくれではなく、先方のスケジュールを邪魔しないようにするにはどうするかというのが第一です。スケジュールがあればもうワンテイクかツーテイクを頑張れたのに、という悔しい思いを今までのアニメ作りの中でされたこともあると思うんです。
そこの頑張りは、本読みやコンテ、アフレコの段階までに、僕らがどの状態までで持っていけるかにかかっていると思ってやっています。だから、スケジュールコントロールを間違えないようにとは、ずっと社内に言っていますね。
SMDEさんも良いもの上げてそれで終わりではなく、ちゃんとその後にリテイクを出してくるのが凄いなと思っていて。ちゃんとスケジュールコントロールをすることで、そういったリテイクを出せる状況にしてあげたいと思っています。
――アニメやCGのこだわりに関連して、SNSで話題になった第10話のことも少し伺いたいのですが、「シンカリオン H5はやぶさドーザーフォーム」の「五稜郭流・デスティーノ」を出したいと言われた時にどう思いましたか?
ありがとうございます😊
— 宮尾佳和 シンカリオン バトルアクション監修 TEKKEN イナズマイレブン マギのアニメ監督大家 (@sbs_miyao) June 9, 2024
全ての必殺技絵コンテを
担当させて頂いてます。
新日本プロレス様は毎週チェックし
何度かのドーム大会も見てたので
デスティーノもサクサクかけました。
コリエンド式は流石にやめました。
今後の必殺技も宜しくお願い致します。#シンカリオンCW #バトルアクション監修 https://t.co/aOWTIZTia5
千野:趣味の範囲なので全然良いなと思いました。アニメでロボットがバックドロップをするとかは10年以上前から普通にやっていたので、それは技法として面白ければ良いと思います。
鈴木:あれはどこから出た話なんでしたっけ?
千野:アンノウンを大仁田厚さん風にしたところからですよ。
――あのアンノウンは大仁田厚さんからヒントを得ていたんですね。
※編集部注:大仁田厚は政治家、タレント、俳優など様々な顔を持つプロレスラー。プロレス団体FMWを設立し、自らが考案した「ノーロープ有刺鉄線電流爆破」デスマッチで一時代を築く。また、引退と復帰を繰り返すことでも有名(2018年に7度目の復帰)。
千野:大仁田厚さんをイメージした屈強なアンノウンがいて、爆破があって、そこに「五稜郭流・デスティーノ」をやりたいという話が挙がったので、それなら新日さん(新日本プロレスリング株式会社)にちゃんと確認を取った方が良いんじゃないのとなったと思います。
――あの「五稜郭流・デスティーノ」は新日さんの確認を取ったものなんですね。
鈴木:クレジットにも載っているはずです。『シンカリオン』はそういうことをちゃんとやりますので(笑)。
編集部注:第10話のエンドクレジットの表記は「設定協力 新日本プロレス株式会社」
千野:ラフの絵はもっと顔が大仁田さんに似せていたんですよ(笑)。さすがにダメでしょうとなって、気がついたら顔立ちがシュッとしていて良かったです。
鈴木:子どもにはわからないネタでしょうが、それもシンカリオンらしさです(笑)。