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神谷浩史(薬売り役)が解き明かす『劇場版モノノ怪』の真と理【インタビュー】

『劇場版モノノ怪 唐傘』神谷浩史さんが紐解く、劇場版・薬売りの真(まこと)と情念渦巻く大奥の理(ことわり)【インタビュー】

独特なカット割りに込められた、中村監督のこだわり

ーー今、劇場版の台本をお持ちですが、かなり分厚いですね(台本2冊で、電話帳1冊分くらい)。

神谷:こんなに厚い台本はなかなか無いですよ(笑)。中村監督の作品に参加させていただくのは初めてですが、監督の作品のオーディションを受けさせていただいて、関わるチャンスは何度もありましたが叶わず。いつか監督の作品に関わらせていただけたら嬉しいなと思っていたところ、今作で念願叶って出演させていただくことになって、役者仲間やスタッフさんから監督の作品の収録のエピソードを色々とお聞きして……半分グチみたいな感じでしたけど(笑)。例えば現場に行ったら台本がないとか。「そんな収録の仕方をするなんて、本当に日本の作品ですか!?」と尋ねたかったくらい。多分おもしろエピソードとしてかなり盛っているんでしょうけど(笑)。僕は「そんなことはありえない!」と信じられませんでした。

今作の音響監督を務める長崎(行男)さんからは、監督から役者ひとりひとりに作品について説明する時間があって、長い時は1~2時間になることもあるという話を聞いていました。だから事務所から収録スケジュールを聞いたとき、「そんな時間で終わるはずがないから、その後のスケジュールは入れないようにしてください」とお願いしたんです。監督のいろいろな技も聞いているし、台本もこの厚さだし(笑)。「この日は『モノノ怪』のアフレコに捧げよう」としっかり覚悟して現場に行ったら、あっという間にアフレコに入って、むしろ「もうやるの?」と。僕自身も薬売りを演じるにあたっての方向性を提案できるくらいまで作っていきましたが、どこで着地してもいいような映像になっていたので、「どこに着地させますか?」と僕から聞いたり、監督の提案を受けながらやれればいいかなと。いざ始まったら過度なダメ出しもなく、スムーズに進んでいきました。

ーーカット割りが速くて大変だと思いましたが、そのあたりはいかがでしたか?

神谷:例えば、「おアサ殿」というセリフは「おアサど・の」と短い間に細かくカットが区切られていて。普通であれば、セリフがカット間にまたがる場合、「こぼし(次のカットまで伸ばして読む)」という指定が入るわけですが、ただ監督の中では「の」だけこぼしたいわけで、そういうふうに書いてある以上はそうしなくていけません。

(台本をめくりながら)このセリフもすごいですよ。淡島のセリフで、「私だって、捨てたくなかった。許・し・て」とか、薬売りのセリフなんて「モノノ・怪・が……・くる!!」と一行の短いセリフに4カットも使っていますから。そんなのばっかりです(笑)。こんなカット割り、普通はありません。そこに監督のこだわりを感じました。

他の作品を引き合いに出すのは恐縮ですが、『化物語』という作品も特殊カット割りで、一文字だけをカットにあてていく形も経験しています。個人的にそういうこだわりは、ウェルカムなんです。収録前のアイドリングとして新房(昭之)監督には「こんなの、あてられないよ」と言いますが(笑)。監督は作品にとって必要な情報をすべて開示してくださるので、こちらができないこと、難しいことは最初に伝えますが、ただ「そうですか」と言うだけで、結局やることになります。ただ、僕も言いたいことを言った後だから、納得して収録に入れるわけです。今回もそんな気持ちでやらせていただきました。

大奥に詳しくないからこそ薬売りを演じられた

ーー今回は大奥が舞台ですが、女性間の嫉妬や恨みなど、怨念が渦巻く様子が見えて恐ろしかったです。

神谷:僕自身は大奥について、女性しかいない、男性にとっては禁断の地というくらいの知識しかなかったんです。そんな大奥を舞台にするにあたって、中村監督は「入れないところに自ら入っていこうという意志がある人しか問題を解決できません。だから神谷さんにやっていただく薬売りも、能動的に人を助けよう、例え自分の身を犠牲にしてでも盾になって守ろうという意志がなければ入っていけません」とおっしゃっていました。

この時代の男性は絶対に入れない場所だという共通認識があるけど、薬売りには関係なくて、スキあらば入っていこうと。普通の考え方だと「入れない=入らない」だから近寄らないし、スキがあっても入ろうとはしません。そんな常識を持ち合わせていないことが薬売りを演じるにあたっては大切だなと。もし僕が大奥に詳しかったら、「男性は入れないところ」という認識が「入らない」という思考として挟まってしまいますが、そういう考えや認識がないからこそ、何も考えずに入っていけると思うんです。だから僕が大奥への造詣がないことはプラスに働いているかなと思いました。

また僕は人間が一番怖いと思っていて。怪異現象も怖いけど、「不思議だね」で終わるので、そんなにおびえることもなくて。一番怖いのは悪意を持った人間で、そういう人の手助けをするのがモノノ怪という存在です。この物語においては、人間の理解できない事象は、ほとんどモノノ怪のせいです。ただ、現実において理解できないものは、人間がやっていることだと思っています。

物語として見せるために、モノノ怪の姿形をしているけど、実際は人間が理解できないくらい、恨んで行動してしまう人は少なからずいて、そういうものに対して理由をつけるために、「モノノ怪だから」というしかないのかなと。それをエンターテインメントに昇華するとこういう作品になりますよということだと思っています。

ーー劇場版のキーキャラクターであるアサとカメを中心に描かれるパートでは、薬売りはあまり登場せず、セリフも少なめですが、終盤になると一気に展開が変わり、物語全体の熱量が増していきます。その部分に関してはどう演じられましたか?

神谷:“ハイパーモード”と呼ばれている、退魔の剣を抜いた時の絶対的な強さと、そうじゃないところの差をどうつけるかという話ですが、そういうふうに絵が作ってあるので、そこまで意識してないんですよね。今回の薬売りは人を助けるために能動的に行動するがゆえに、更にパワーアップして強い力を振るうという点で差が出なくなるんじゃないかと考えたこともありましたが、実際にやってみたらそんなこともなかったです。

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