センセーにハマるアネットに「私もすごく心配です(笑)」 無気力過ぎるセンセーから学ぶ、“生きていく”ということ――夏アニメ『異世界失格』アネット役・大久保瑠美さんが第2話を振り返る【インタビュー連載第2回】
第2話で印象的だったのは、棺桶をひきずるアネットの「ああっ!」
――映像をご覧になった感想をお聞かせください。
大久保:まずOP&ED主題歌がすごく良くて。OP主題歌は伊東歌詞太郎さんで、ED主題歌は前島麻由さんが歌われていますが、伊東さんは私たちの世代のニコニコ動画好きなら知らない人はいないくらいの方です。初めて聴いた時は、異世界感がめっちゃあるのに、どこか懐かしい感覚がありました。センセーのモデルになっているであろう文豪が昭和初期、古き良き時代に活躍されたことからあの雰囲気なのかなと思ったら、作品の世界観にもとても合っていて、すごくカッコよかったです。またOP主題歌は第1話の最後で流れたこともあって、とても印象的だったと思います。
ED主題歌もしっとりくるかなと思いきや、異世界冒険譚だとわかった上で、激しくはないけど、決して暗い曲でもなく。それぞれの音源が早く欲しい、フルで聴きたいと思いました。
――異世界感たっぷりの世界観の中に、センセーが転移してきた時の最初の違和感が強烈で。でも徐々になじんでいったのが不思議でした。
大久保:転移者の皆さんが異世界になじみ過ぎていて(笑)。さらに、第1話でアネットが「この世界へ転移した人間は例外なく、超人的な力を持つ資格を与えられるのだから」と言っていたように、これから転移者の方が続々と登場します。みんな、まあクセが強くて(笑)。
他の転移者が出てくることによって、何の力も持たないセンセーが転移した経緯が明らかになっていくので、第3話以降更に面白い展開になっていきます。第2話の最後に、初登場のイーシャが倒れたアネットを抱き起こすシーンがありましたが、あそこは何かがあったことを示唆していて。私もその先の話数を収録しながら「すごい展開だな」と惹きつけられました。
――改めて先日放送された第2話を振り返ってみていかがでしょうか。
大久保:アネット的には、タマとのやり取りが好きでした。第1話の最後で、センセーが棺桶に入る前に「ではおやすみ。アネット君、タマ」と言って自ら棺桶を閉めたシーンが印象的です。アネットがくすっと笑って、「ちゃんと正しい名で呼んでもらえました」と言ったのが面白くて。ここからアネットが段々と壊れていくんだなと思いましたし(笑)、第2話の冒頭でもセンセーが入った棺桶をタマと一緒に引きずっていくところも面白かったです。
あと王様から詩人のオットーと武人のゴメスのどちらかと結婚するように命令されて、困っていたお姫様のシャルロットがセンセーに相談した時、「悩み多き人生だったけど、どう生きてゆくべきかの選択を他人に委ねたことはない」と返答したセリフは説得力を感じて。「そうだよね。自分の人生だもんね」とすごく納得できました。
その言葉を曲解して、センセーと心中するというトンデモない選択をするわけですけど(笑)。あのセリフは誰にでも言える言葉ではないと思いますし、自分の人生は自分で決めるものだと刺さる人も多かったんじゃないかなと思います。
――それとゴメスがモンスターになった時、アネットはちょっと変な人だと第1話で思った視聴者に、「実はすごい能力がある人なんだ」とわかった人も多かったと思います。
大久保:実はザウバーベルグの各神官は魔法も使えるし、ちゃんと戦えるんです。アネットもレベル18なので、意外と強いです(笑)。タマも強いので、なんで第1話でデスツリーに捕まっていたのかはわかりません(笑)。基本的にセンセーが無力なので、戦いはアネットとタマが担うことになります。
ただ転移者にはそれぞれ力があって、すべてが戦いに特化したものではないんですよね。「こんなのルール違反でしょ!?」という力もたくさんあるので、今後それぞれがどういう能力で、どのように立ち回っていくのか注目していただきたいです。
――今後、センセーがどのような活躍をしていくのか楽しみです。
大久保:第1話で、ザウバーベルグから飛び出したら、システム音声のレベルアップ報告があって、「誰だか知らないが頭の中に直接話しかけるのはやめたまえ。僕は偏頭痛持ちなんだ」と言うシーンも好きですね。眠剤を大量に飲んでアネットが解毒を施したあと、寝そべりながら、また眠剤をぼりぼり食べるシーンも「細かいな~」と思いましたし、寝そべっている姿も「まるで日曜日のお父さんじゃん! どれだけやる気がないんだよ」と(笑)。
――あのシーンを見て、センセーはどれだけ眠剤とタバコを持っているんだろうと気になりました。
大久保:実はその疑問もしっかり解決しています。第1話であんなに眠剤をすごいスピードで食べてたらなくなっちゃうじゃん!と私も思っていましたが、その疑問もちゃんと回収されるので。「そこまで考えられていたのか」とビックリしました。原作の野田先生はすごいですね。
――ここまでもお話いただきましたが、改めて第2話の中でお気に入りのシーンを挙げるとしたら?
大久保:第2話ではタマと棺桶を普通に引きずっていますが、第1話だとなかなか引きずれなくて、「ああ~っ! ああっ!」と言っているんですよね。収録では最初「う~ん」とか「うぐぐ」というリアクションだったんですが、「違う、違う! 大きなモノを持ち上げる感じではなく、大きな声で『ああっ!』って言ってみて」というオーダーがあって。私も驚きましたし、共演者の方もざわついていました(笑)。でも求められたことをやるのが役者の使命なので、言われた通りに精一杯やったんです。
収録が終わった後、ずっと「あのシーンはどうなるんだろう?」と心配していましたが、本編を見てめちゃめちゃ笑いました(笑)。野田先生なのか河合(滋樹)監督なのか、音響監督の明田川(仁)さんによる指示なのかわかりませんが、ギャグに対して真摯ですし、すごい感性だと思って。その追求する姿勢がすごくて、収録のエピソードとあわせてとても印象に残っています。
――あの「ああっ」は、言葉を選ばずに言うととてもバカっぽくて良かったです(笑)。
大久保:あのシーンで、アネットがどのくらいおバカさんなのかもわかるという。頭が良くて、強い女性じゃないことが一目でわかる、いいシーンだなと思いました。
鈴代紗弓さんにオススメしたい文学作品とは?
――この連載では、次に登場するキャストさんへのオススメの文学作品をお聞きしています。前回の神谷さんから大久保さんへのオススメは、江戸川乱歩の『D坂の殺人事件』でした。この作品はご存じでしたか?
大久保:読んだことはありませんが、知っています。明智小五郎シリーズは何作か読んでいるので。
――女性へ猟奇的な作品を薦めるのはどうかなと思ったんですけど……。
大久保:私もそれがあって読んでいないんです。少しグロテスク過ぎて。江戸川乱歩作品は毒々しいものが多いですよね。とはいえ、明智小五郎シリーズで読んでいない作品をオススメしていただいたので、読んでみようかなと思います。
――神谷さんは「入門編としていいかな」と言っていました。
大久保:いや、絶対に入門編じゃないと思うんですよ(笑)。
――そして次回はタマ役の鈴代紗弓さんが登場しますので、オススメの文学作品をお願いします。
大久保:いやあ、実は私も江戸川乱歩なんですよ。まさかかぶるとは(笑)。江戸川乱歩の『人間椅子』をオススメしたいと思います。
――実は神谷さんもオススメ候補の1つとして『人間椅子』を挙げていました。変態的な作品だと。
大久保:本当ですか!? 『人間椅子』は私が初めて読んだ江戸川乱歩作品です。選択肢が3つくらいあって読み手に選ばせるような作品なんですよね。正直、女性が読んで気持ち悪いと思う作品です(笑)。
でも私の中では、この作品が江戸川乱歩作品の入門編にいいかなと思うんですよね。本以外でも無料のネット図書館の『青空文庫』などで読めるし、短編でさくっと読めるのに、読み終わった後、「これって結局、どういうことだったんだろう?」と考える余地があるので、面白いです。でもまさか神谷さんとかぶるとは……。
――でも江戸川乱歩作品は、かなり信頼している人じゃないとオススメできないと思いますよ。気を遣わなければいけなくて、ましてや女性には薦めにくいでしょうから。
大久保:そうだといいですね。あと近年の作品ですと東野圭吾さんの「加賀恭一郎シリーズ」の『悪意』がオススメです。全部読み終わった後に「ああ、こういうことか」って。私はそういう作品が好きなので。シリーズ4作目ですが、加賀恭一郎が刑事だということがわかっていれば、だいたい読むことができるので、これもオススメの作品です。
もし紗弓ちゃんが作品を読んでくれたら、その感想も楽しみですし、次の方にどんな文学作品をオススメするのかも楽しみですね。
――最後に今後の見どころと皆さんへのメッセージをお願いします。
大久保:第2話まで見ていただけたら、絵の美しさも体感されていると思いますし、ギャグシーンも作り手側がどれだけ力を入れて、愛情を込めて作っているのか、わかっていただけたはずです。
原作も面白く、センセーが何のスキルも持たずに……猛毒は持っていますけど(笑)、HP1、MP1というダメダメな状態で転移してきましたが、実はセンセーが召喚されたタイミングでザウバーベルグではあることが起こっています。それが今後、センセーが召喚された理由に関わってくるところが見どころです。
そしてセンセーが探しているさっちゃんがどうなったのか、アネットがどれだけダメな女なのか、とか(笑)。あと公式サイトのキャラクター紹介に掲載されていながらも、まだ登場していないニアくんはめちゃめちゃかわいくて、しっかりしているので、あとは彼に任せていいのでは、と思うくらい(笑)。
魅力的な要素がたくさんありますし、センセーが生きる気力を持っていないからこそ、生きていくことがどれだけ難しくて大変なことなのかも気付かせてくれます。私自身、「生きてきてつらくなかったことはない」というセンセーのセリフを聞いて、「生きていくって辛いことが多いよな」と改めて実感しました。
でも、辛い人やダメになった人が、これから先もそうなのかといえば気持ち次第で、人生はこれからも続いていくんだよと教えてくれるお話もあります。面白いし、笑えるけど、結構泣けて。作品としてバランスが良くて、誰が見ても楽しいと思えますし、お話によってはせつなく感じることはありますが、後味が悪すぎず、辛い気持ちで見終えることはないと思います。私も両親に薦めたいアニメだと思っていますので、見て面白かったら、お友達やご家族にも薦めてくださると嬉しいです。特に文学が好きな人はハマるのではないでしょうか。
連載バックナンバー
『異世界失格』作品情報
あらすじ
憂い多き人生の如く渦を巻く激流へと身を投げ...るよりも早く、猛スピードで突っ込んできた〝例のトラック〟によって。
文豪が目を覚ますとそこは、異世界の教会。案内人は、慈愛に満ちた瞳で微笑みかける。
「ようこそ冒険者よ。あなたは選ばれ、転移したのです」
御多分に洩れず、勇者の使命を背負わされてしまう文豪。だが、彼は転移者の誰もが与えられる〝あるもの〟を持たなかった......。
「...ふふ。恥の多い生涯だ」
この世でも、異世界(あの世)でも <失格者>の烙印を押された文豪(センセー)の冒険が幕を開ける。
きっと、どこかにいるはずの「さっちゃん」を見つけ出し、今度こそ、あの日の本懐——心中を遂げるために。
キャスト
(C)野田 宏・若松卓宏・小学館/「異世界失格」製作委員会