センセーにハマるアネットに「私もすごく心配です(笑)」 無気力過ぎるセンセーから学ぶ、“生きていく”ということ――夏アニメ『異世界失格』アネット役・大久保瑠美さんが第2話を振り返る【インタビュー連載第2回】
「とある文豪」が異世界に転移してモンスターを倒す……わけでもなく、ダメな作家のまま、しかし確実に異世界に影響を与えていく異色作『異世界失格』(野田 宏さん原作、若松卓宏さん作画。小学館『やわらかスピリッツ』連載中)のアニメが7月から放送中!
さっちゃんを探してロート城にたどり着いたセンセー、アネット、タマ一行。トマス国王から娘である王女、シャルロットが吟遊詩人のオットーと戦士のゴメスのどちらと結婚するのか決めかねていると相談を受けることに。
センセーの「自分の人生を他人に委ねたことはない」という言葉に感化されたシャルロットは、センセーとの心中を選ぶが、ひょんなことからゴメスは実は魔物だったことが発覚。襲いかかるゴメス、しかしシャルロットの「自分はまだ生きたい」という本音を受け、センセーは彼女を突き飛ばして助けます。
間一髪のところ、アネットとタマが共闘してゴメスを倒し、シャルロットは結婚せずに女王として民のために尽くすことを誓ったのでした。しかし、その後、ひどいケガを負ったアネットがイーシャの元を訪れて、重症と思しきセンセーの治癒を求めました。いったいセンセーたちに何があったのでしょうか?
アニメイトタイムズでは、声優陣のインタビュー連載を実施。第2回は、転移者たちの水先案内人である神官、アネット役の大久保瑠美さん。
作品の印象、放送されたばかりの第2話の振り返りと今後の見どころ、アネットが大久保さんの新たな扉を開けてくれたこと、そして次回登場するタマ役の鈴代紗弓さんへオススメの文学作品の紹介など、今回もたっぷり1万字でお届けします。
一つひとつのセリフのチョイスに感じたセンスの良さ
――原作を読んだり、演じられて感じた作品の印象と魅力をお聞かせください。
アネット役 大久保瑠美さん(以下、大久保):まず『異世界失格』というタイトルのインパクトが大きくて。今まで様々な異世界転生ものや異世界冒険作品に出演させていただきましたが、「何が失格なんだろう?」とすごく気になりました。
私が演じるアネットは、現世で「異世界当選トラック」に撥ねられて異世界に転移した人たちを最初に迎え入れる立場です。それは魔王を倒すために必要なことなんですけど、彼女は、繰り返していくうちにマンネリ化して感覚が緩くなってしまって。そんな「仕事だから」とテンプレで対応するようになった経緯がまず面白かったです。
あと第1話の序盤で、転移してきたセンセーがアネットの説明中にいきなり眠剤を大量に飲みだしたり、センセーの言動にアネットがずっとツッコミまくりだったり。私が笑ってしまったのが、眠剤を飲んだセンセーをアネットが解毒したのに、後でセンセーのステータスを見てみたら、「HP1、MP1、もうどく」と書いてあって、「画面も真っ赤な上に猛毒……!? 解毒したのに!? え!? この人 もう死ぬの?」と驚くシーン。1つひとつのシーンの言葉のチョイスがすごく面白かったです。
そんな無気力なセンセーと、ツッコミが多くてやかましいアネット、輪をかけてツッコミが激しくてやかましいタマ、意外に大人のニアという4人のパーティで基本的に進んでいくので、バランスもいいですし、老若男女、誰が読んでも楽しめる、そんな魅力を持った原作だなと思いました。
――アネットはセリフ数も多いですし、表情がコロコロ変わるキャラクターだからこそ演じるにあたって大変なことはありましたか?
大久保:どちらかといえば、私は表情がコロコロ変わったり、「わ~っ!」とにぎやかだったり、腹黒だったり、何かを企んでいそうな子の役が多いほうで(笑)。だから台本を読んだときは「こんなにきれいで、清廉潔白そうな神官の女性を演じさせてもらえるのか?」という驚きがありました。でも後々読み進めていくと、「だから私だったんだ」と納得して(笑)。
第1話の台本を見たら、前半はほとんどアネットがしゃべっていました。センセーは生きる気力がないので(笑)。あんなに台本が真っ赤(自分の役に赤ペンでチェックを入れるため)になったのは初めてかもと思うくらい、ずっと長ゼリフで、ページを何度めくれども私のセリフでした。
でも、その中に緩急も必要で、「もっと緩急つけて」とか、「え~」という驚きのセリフも「もっと汚い声でやって」などのディレクションが続出で。本来なら第1話でキャラが固まるべきだと思いますが、アネットは収録を重ねるたびに「あっ、ここまではいいんだ!」「これもいいんだ!」を繰り返して。第4話あたりから自分でやってみてたものでOKが出て、「これで良かったんだ」と。
――演じるアネットの印象とご自身と似ている点や魅力を感じる点をお聞かせください。
大久保:アネット自身が第1話の前半でも言っていましたが、転移者を迎え入れる仕事を続けていくうちに流れ作業のようになってきて、毎回「さしすせそ(さすが・知らなかった・すごい・センスある・そうなんだ)」をただ繰り返すようになってしまって。まるで合コンに参加している女の子みたいな(笑)。
でもセンセーと出会った時に「この人は今までの転移者とは違う」とときめいたんです。センセーが説明中に眠剤を飲み始めたり、HP1、MP1というステータスを見て、「ここにいてください」と言うアネットに、センセーは「僕は死に場所を探しているだけなんだから」と。「この人は違う」と感じたアネットが更に「待って! せめて……せめて職業を身につけていって……!!」と引き止めようとしたら「……ふふ。職業だって? 僕は生まれながらに作家だよ。それ以上でも以下でもない」と言ったセンセーに、「私はこの方が来るのを待っていたんだ!!」と言い放って。
この時のアネットは、たぶん、当たり前のように与えられた使命を果たしてきたけど、それが本当に自分の人生なのだろうかと考えて、そして、センセーに惹かれてしまったんじゃないかなと。私自身、その考えをもとに役を組み立てていきました。そして、今まで清廉潔白で真面目な神官だったのに、その瞬間からただの女性になったことで、アネットの中にある嫉妬心など内面があふれ出てきたのだと思います。
あと第2話で、お姫様のシャルロットがセンセーと心中すると言ったとき。アネットが「神などいない」と言いながら失神してしまうシーンがありましたが、実は最初はもっときれいな言い方で、すっと倒れたんです。でも、「違う、違う! ば~んと倒れて!」とディレクションをいただいて。後でそのシーンの完成版を見たら、とても面白く仕上がっていました。「いい芝居を引き出してもらったな。自分の中にこんな引き出しもあったのか」と嬉しくなりました。
また、第1話の終盤で、タマに対して「このドロボウ猫……」と言ったシーン、アニメでは周りにどんよりと暗い空気がついて、おどろおどろしくなっていたのですが、それに対してタマがポツリと「あんためんどくさいわね」という流れがすごく面白かったです。私も日常生活では割とツッコむことが多いですが、役者としてはこの言葉遊びは普段はなかなかできないので、やりがいがあるぞと。
そう思う反面、オンエアを見るまでは「これで本当にいいのかな? あんな汚い言い方でよかったのかな?」と不安になることもあって。でも第1~2話のオンエアを見たらホッとするどころか、「もっとやったほうがよかったのかもしれない」と思うくらい。絵もきれいで面白かったです。