愛情を通り越して情念が詰まった台本。非現実と共感が両立する世界観ーー『劇場版モノノ怪 唐傘』アサ役・黒沢ともよさん×カメ役・悠木碧さんインタビュー
とてつもない情報量によって、“敢えて”を選択できる
ーー自身のキャラクターをどう捉えて演じられたのでしょうか?
黒沢:アサに関しては、大奥に来るまで、髪の毛の色や身長、父親との複雑な関係のせいで長いこと暗い生活を歩んできたという裏設定を監督から伺っていて。その話を受けて、現代に生きる私たちから見た価値観とはまた違った言葉の捉え方をする子なんじゃないかなという予想を立てて現場に入りました。
あと、オーディションは長セリフばかりだったので、アサは喋りに特徴があった方が良いと思って。ほかの作品と比べて母音と子音のバランスをちょっと変えつつ、ハキハキ喋るような、古典的な喋り方を意識しました。
ーー監督からはどんなオーダーが?
黒沢:作中では描かれないものの、悲しい過去は覚えていてほしいと言われました。
ーー悠木さんはいかがですか?
悠木:カメという女の子は、アサとは違って、愛情いっぱいに甘やかされて育ってきました。そそっかしいところもありますが、それすらも可愛いと言われてきたんでしょうね。ただ、そんな自由な子が型にはまらないといけない、大人にならないといけないとき、一体どうするのかが本編の鍵を握るんだろうなと。
ーー制作陣からのオーダーはありましたか?
悠木:設定にも書いてあったんですけど、カメはちょっと女の子を苛立たせてしまうところがあります。一方で、「悪い人ではないからそこを強調し過ぎないように」と。恐れ知らずなところは大人からすると怖くも見えちゃうんですよね。それ以外は「自由にやっていい」と言っていただけました。
ーー台本を拝見したんですけど、その分厚さに驚きました。劇場アニメとしてセリフは多い方でしたか?
悠木:めちゃくちゃありました! しかも、ト書きがセリフよりも多いんですよ。さまざまなシーンで、喋っている間にこんなたくさんのことが起こっているのかと驚きました。これは監督が心の内をぶちまけて、ヒントとして載せてくれた愛の証でもあるんです。実際、「書いてあることは全部言わなくても良い。こんなことがあったんだと覚えていてくれればいいです」とおっしゃっていて。
劇場版の収録は長くても2日くらいなんですけど、私たちはその短い間にキャラクターのことを掴んで、作品の歯車のひとつにしないといけません。そうなると、スタッフさんたちとのヒアリングが重要になってきます。だけどこの作品は、ヒアリングが必要ないくらいの情報が台本に載っていましたし、それが“答え”だったというか。さらに、現場でもシーンの説明があったので、収録をしながら本当に熱量の高い作品だなと思いました。
黒沢:アニメの収録って、普通は手がかりが少ないんですよ。でもこの作品は手がかりが沢山あるから、“敢えて”を選択できるんです。
ーー“敢えて”ですか?
黒沢:これだけ情報があると解像度が高まって、「敢えて、ここをこうするのはどうでしょうか?」と自信を持って提案できます。そういうチャレンジができたのは、この作品の面白いところでした。
ーーチャレンジングな現場でもあったんですね。
黒沢:チャレンジしましたし、それを採用していただけたと思うことも多かったです。それは監督自身が私たちの提案をしっかり消化してくださったからこそなので、本当にありがたいですね。しかも、すごい速さで録っているのにちゃんと処理されていて。それだけ作品の下地をしっかり練られているからなのかもしれません。
ーー監督の中でイメージが出来上がっている一方で、そこにみなさんの意見も取り入れられる柔軟性もあったと。
黒沢:そうだと思います。絶対に監督の中でイメージは出来上がっているんですよね。もう自分でアフレコできちゃうくらい(笑)。
悠木:喋っていないキャラクターの心情までしっかりと描かれていて、すごいなと思います。ともよちゃんとも話していたんですけど、絶対に台本を商品化して、売ったほうがいいです。これは売れる!(笑)
一同:(笑)
悠木:初期から変更された点もあるので、見比べてそこにある意図を知ってほしいですね。それだけ愛情……いや、愛情を通り越して情念が詰まっています。私たち目線では情報が繋がったときの気持ち良さもありますし、プラスアルファで、先ほどのお話にもあった“敢えて”が上手くいったときの喜びもあって、本当にやりがいがあったなと。
黒沢:アニメの制作過程で役者が作品に触れられる期間は短いので、より濃密に感じられました。