愛情を通り越して情念が詰まった台本。非現実と共感が両立する世界観ーー『劇場版モノノ怪 唐傘』アサ役・黒沢ともよさん×カメ役・悠木碧さんインタビュー
武器を持たない人々がメンタルで殴り合うような作品
ーー台本をご覧になった感想をお聞かせください。
悠木:非現実感がありつつも、なぜか共感できてしまうところもあるんですよね。しかも、淡々と仕事をこなせてしまうアサの目線で進んでいくところが絶妙で。
黒沢:「なんでわかっているのに繰り返しちゃうんだろう?」って。
悠木:そうなんだよね……!
黒沢:でも、誰もがわかっていたはずのことを改めて突きつけられるんですよね。女子目線では、それに絶望していく様子がすごく伝わると思いますし、男子目線でどう映るのかも気になります。
悠木:気になる。仕事とか恋愛において、嫉妬の感情は男性にもあるはずだし。例えるなら、武器を持たない人々がメンタルで殴り合っているような作品なんですよね。その上で、後々登場する唐傘のモノノ怪が怖くて。様々な作品で描かれてきたモチーフですが、この作品が一番怖いです。
黒沢:たしかに。
悠木:作品全体が明るいホラーだからより怖さが引き立っています。『ミッドサマー』に通ずるところがあるなと思いました。
黒沢:あと、薬売りさんが言っている「形」「真」「理」がありますけど、それが女中たちの状況に名前をつけていく作業みたいで。「それが「理」に該当するんだ」という発見も面白かったですし、言語化ってこういうことなんだと思いました。
悠木:日本の文化は「大事なことは口にしない」という方向に進化していて、もしかしたら「名付けることで歪んでいく」という過程なのかも。作品の仕組みとしてはすごく納得できました。
黒沢:そうですね。どこかで好きなセリフを聞かれたとき、改めてこの作品は“名言がない”ことに気付いたんです。古き良き日本を描こうとするとこうなるんだと実感しました。
ーー監督は『モノノ怪』について「いろいろな常識を疑って作っている」とコメントされていました。おふたりから見て、今作でそれは感じられましたか?
悠木:常識に人を当て嵌める話が進む中で、「実は常識自体が狂っている」という展開になるんですよね。クッキーを型で作ったとき、「生地の余った部分はどうするの?」と全員に問い掛けるような。そしてその常識を人の仕草や在り方で疑わせるような演出になっていると思いました。だからこそ誰も観たことのない作品ができたんでしょうね。
黒沢:大奥という題材も相まって、監督を日本の代表にしたほうが良いんじゃないかなって。ぜひ今後も表舞台に立っていただきたいです。
ーー海外の反応も気になりますね。
黒沢:ちゃんと届いてほしいです。
悠木:言葉がわからなくても絵で面白いと感じられるくらいの情報量ですから。国ごとの感覚や文化に違いがあったとしても、映像を観るだけで楽しめるんじゃないかなと思っています。
黒沢:本当にそう思います。今、業界全体でリアリティを追求する流れですが、“演じる立場”としては全然リアリティではやっていないんですよ。だけど客席で見るとリアリティを感じてもらえる。フィクションをリアルに感じさせる錯覚といいますか。今作はその錯覚を巧みに使っています。
重心の移動や手足を動かすタイミングなど、ちょっとした差なんですけど、視線誘導がしっかりと計算されているんです。鑑賞される方は自然と観られると思いますし、逆にどこを観れば良いのかわからないシーンが急に出てくることもあります。その翻弄される感じは常識を疑って作った結果なのかなと思いました。