TVアニメ『天穂のサクナヒメ』吉原正行さん(監督)×相馬紹二さん(ラインプロデューサー)インタビュー|キャラクター設定にかけた労力は通常の3倍!? 制作陣が目指したアニメならではの“サクナヒメの物語”
7月に放送がスタートしたTVアニメ『天穂のサクナヒメ』。国産インディーゲームが原作という時点で特徴的だが、リアルな稲作が物語に深く関わり、農林水産省とのコラボレーション企画も発表されるなど、稀有な要素の多い作品として注目を集めている。
一方、ストーリーはとても王道。働くことを知らない若き女神・サクナヒメが、手足を泥に浸けての稲作や、人間たちとの交流を通じて一人前の豊穣神になる姿が描かれる。
原作で描かれた物語、キャラクターの魅力、SNSでも話題になったリアルな稲作の描写など、アニメで期待される要素は多い。そんな原作を全13話でTVアニメ化するにあたり、制作陣はどう作品と向き合ったのだろうか? 本稿では、監督・吉原正行さんとラインプロデューサー・相馬紹二さんに本作が目指したものを語っていただいた。
アニメとして一番面白い形で物語を届けたい
ーーアニメ化の経緯や、最初に企画を受けての感想をお聞かせください。
吉原正行さん(以下、吉原さん):東宝さんから企画書をいただいたんですが、これが上手い作りになっていたんですよ。P.A.WORKS代表の堀川(憲司)が兼業農家なので、「相性の良いP.A.WORKSに是非」って(笑)。そういう意味では、すんなりと「これはウチがやるべきだろうね」と決まっていきました。
相馬紹二さん(以下、相馬さん):企画書を受け取ったのは、原作が発売した翌年だったと記憶しています。すでにSNSでは話題になってはいましたが、それでも非常に早いタイミングだったので驚きました。かなり早い段階から動いてらっしゃるなと。
単に早いだけでなく、企画の内容もウチでやる意義を感じさせるもので、とても丁寧に作られていたんです。国内外から大きな反響を受けた作品なので、正直プレッシャーもありましたが……ぜひ挑戦したいと思いました。
ーー原作に触れたときの印象はいかがでしたか?
吉原:僕の場合は、アニメを作るにあたって、スタッフがゲームを遊んでいる様子を見ながら、ストーリーラインを理解していく形でした。自分でやっていると時間が掛かりすぎちゃって、間に合わないと思いまして(笑)。
最初に感じたのは、やはりボリューム感の大きさです。えーでるわいすさんが作品に仕込んでいる情報量や要素が凄まじく、これをワンクールで描き切るのは難しいと言わざるを得ない。これをいかに消化して、アニメ作品として成立させるかがキモになるだろうなと。
相馬:SNSでは稲作の部分に話題が集まっていて、最初は自分もそこに注目していました。ただ、企画が進んでいく中で認識が変わっていったんです。稲作の作り込みはもちろんすごいのですが、あくまで基礎にあるのはアクションゲームであり、サクナヒメたちが紡ぐ物語なんです。
吉原:ストーリーラインが素敵ですよね。そうであれば、アニメで見せるべきは物語だろう、というのがスタート地点だったかな。
だからこそ、アニメは完全にメインストーリーありきの構成にしています。横道に逸れることなく「『天穂のサクナヒメ』の物語をアニメとして一番面白い形で届ける」というのが、僕らに与えられた課題だと思うんです。
ーー一方で、サクナヒメがヒノエ島に行く動機が説明されるなど、原作とはストーリーの展開が変化している部分もありますよね。そういった変更点で心がけたことはありますか?
吉原:これはウチの「お仕事シリーズ」もそうなんですけど、こういった物語を描くうえでは、キャラクターの“ビフォーアフター”が重要なんです。「最初の状態から、最終的にこう成長しました」とハッキリと提示する必要がある。今回の場合は「サクナヒメが」「どんな状態から」「何を目的にして」「どうなったのか」を明示するわけです。
動機の提示なんかは、最初の状態を明確にする工夫のひとつですよね。実際に纏めてくれたのは、僕ではなくライターの花田さん(花田十輝さん)ですが、それをうまく構成してくださいました。
ーーゲームとアニメでは、それぞれ適した物語の描き方が異なると思います。そういった調整するにあたって、難しかった点はありますか?
吉原:ゲームとアニメの明確な違いは“時間”です。プレイヤーが自由に行動したり、回答を探したり、課題を解決したりする時間があるからこそのゲームですから。提示される疑問と回答に、時間が空いても問題ないんです。
一方で、アニメに“プレイヤー”はいないから、疑問と回答の間が瞬時に繋がってしまう。そこを面白くするには、映像として楽しむための工夫が必要になります。
最初の稲作に失敗して、次の稲作で工夫して、パワーアップして……というサイクルをそのままやると、1年も時間がズレてしまうじゃないですか。それを上手く消化しつつ、隙間のないキレイなストーリーラインを作ることには、かなり注力しました。そのうえで、物語や演出における「これは絶対に落とせない」という部分も、しっかりと脚本に仕込まれているのでご安心を。