"のっぺらぼう"と罵られようとも、自分の道を突き進むベルの姿から、勇気やパワーを受け取ってほしい|『ばいばい、アース』ラブラック=ベル役・ファイルーズあいさん、クエスティオン=アドニス役・内山昂輝さんインタビュー
2000年に刊行された冲方丁先生のファンタジー小説『ばいばい、アース』。「映像化不可能」と言われてきた本作が、ついにアニメ化を果たし、2024年7月12日(金)よりWOWOWプライムほかにて放送・配信中です。
『ばいばい、アース』は、様々な動物の姿をまとう獣人が暮らす異世界で、唯一“人間"として生まれた少女・ラブラック=ベルが自身のルーツを探す旅を描いたファンタジーストーリー。
牙も毛皮も鱗もない"のっぺらぼう"として疎外感を感じながらも、力強く道を切り開いていく主人公・ラブラック=ベル役のファイルーズあいさんと、ベルと関わりを持つことになる月瞳族(キャッツアイズ)の青年・クエスティオン=アドニス役の内山昂輝さんにインタビューを実施!
世界観やキャラクターの魅力、演じる上で意識したこと、お互いのお芝居を聞いて感じたことなどを語っていただきました。
ファンタジー作品でありながらも、現代にも響くテーマがある
――原作を読まれたり、演じてみて感じた作品の印象と魅力をお聞かせください。
ファイルーズあいさん(以下、ファイルーズ):まず、キャラクターたちの考えていることや生きている世界の常識が、私たちがいるこの世界とはまったく違うところに魅力を感じました。それと同時に、どうやって自分の中で咀嚼して、視聴者の皆さんへ、この作品の良さを伝えればいいのかと模索しながら台本を読ませていただきました。
原作の冲方(丁)先生が体験されたことであったり、人生経験が反映されている作品でもあり、24年前に執筆された作品なのに、現代のテーマにマッチしているところも含めて、今この瞬間に自分が声優でいて、この作品に出会えたことに大きな喜びを感じています。
内山昂輝さん(以下、内山):やはりファンタジー作品ならではの良さがあると思っていて、例えば自分たちが普段生きている世界とは違う秩序で動いている、いろいろな種族がいたり、独特なルールがあったりと『ばいばい、アース』ならではの世界を楽しめること自体がまず魅力的だなと。
そして、『ばいばい、アース』の世界で描かれていることを現実世界に置き換えて考えてみると、「これは今の世界にもつながっているのでは?」と原作を読んだり、アニメを観ていく中でわかっていくこともあって。僕自身も演じていく中で、「今の僕らの世界と重なる部分もあるな」と思えてきたり、いろいろな楽しみ方ができる作品だと思いました。
――人間が動物の姿をしている世界で、主人公のベルは石の卵から生まれ、一人だけ人間の姿のままだったことで、差別的な見方をされるという設定が衝撃的でした。
ファイルーズ:とても異質なはずなのに、「こういう世界もあるかも」と思わされる説得力があって。綿密に作り込まれているからこそ、矛盾を感じなくて、「これぞ作家さんのなせる業(わざ)なんだな」と感心しましたし、「冲方先生はすごい作家だな」と尊敬せずにはいられませんでした。
あと、アフレコをしていたときには気付けなかった部分や専門的な用語も、映像として見たときに「こういうことだったのか!」と視聴者目線でわかったこともあったので、収録では役者として楽しませていただいて、オンエアで視聴者としても楽しませていただけるので、得した気分になります(笑)、何度でも観返したくなりました。
――聞きなれない専門用語が出てきた瞬間に字幕が表示されるので、ニュアンスがすぐに理解できましたし、SFならではの敷居の高さを感じることなく楽しめました。
ファイルーズ:確かに字幕のガイダンスが出るところも親切ですね。
――冲方さんらしい、セリフ回しも特徴的だなと思いました。
内山:キャラクターの感情について考えると、あの世界の人たちの心の動きは、僕らの生きている世界のそれとは少し違うんだろうなと思いましたし、彼らならではの葛藤や悩みがあって、「この世界の仕組みでいうと、こういうことで悩むんだな」という展開もあるので、慎重に考えて、注意しながら演じました。
ベルの境遇にファイルーズさんは深く共感。「彼女の姿にパワーをもらっています」
――ご自身の演じるキャラクターの印象と、演じる際に心がけていることや収録時に受けたディレクションの中で印象に残っているものを教えてください。
ファイルーズ:ベルのキャラクター設定を読ませていただいたときの最初の印象は、「自分に重なるところがあるな」と思いました。彼女は自分の居場所はこの世界にはないと感じていて、ノマド(旅の者)になる決意をして旅に出た意志の強い女の子ですが、第1楽章の収録のときに、音響監督の久保(宗一郎)さんから「オーディションでファイルーズさんを選んだ理由は、ファイルーズさんならベルの気持ちがわかると思ったからです」とお聞きして、「ああ、私が理解していたベルで間違っていなかったんだな」とすごく勇気づけられました。
私もベルくらいの年頃のときや幼い頃は、すごく疎外感を感じていて。ベルが周りから言われていた「のっぺらぼう」のような気持ちで生きていた時期もあったので、このアニメでベルの姿を見て、私と同じように疎外感や自分がマイノリティだと悩んでいる人たちを勇気づけられたらいいなと思ったし、私もベル役として寄り添ってあげたいなと強く思いました。
――自分一人だけが姿が違って、「のっぺらぼう」と周りから呼ばれるのはとても辛いことですよね。
ファイルーズ:落ち込んだ時期もあったけれど、悲観せずにむしろ前向きにとらえて、「言いたいヤツには言わせておけばいい。私は私。自分の道を切り開いてやるぜ。この唸る剣(ルンディング)で」という姿勢はとてもたくましいと思うし、地に足をしっかりつけて突き進んでいく彼女の姿に、私も演じながらたくさんパワーをもらっています。
――では続いて、アドニスについてお願いします。
内山:アドニスは話が進めば進むほど、いろいろな面が見えてくるキャラクターで、序盤はまだまだ秘密が多くて。きっと視聴者の方は「なんであんなに暗い雰囲気をまとっているんだろう?」とか「悩みがたくさんありそうだな」と感じると思いますが、その理由や抱えているものが徐々に明らかになっていくので、段々と魅力や奥行きが増していくキャラクターだと思っています。なので収録では、彼の抱える葛藤を序盤から意識して取り組んでいました。
――演じる前に西片(康人)監督や音響監督の久保さんからディレクションやオーダーはあったんでしょうか?
内山:アフレコが始まる際、世界観の説明などは丁寧にしてくださいましたが、キャラクターについては最初から細かく指定するというよりは、シーンごとに丁寧に繊細に演出されていました。
――確かにアドニスは、シーンによって立ち位置や見え方が違うキャラクターですからね。
内山:そうですね。