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『マケイン』遠野ひかるが一番時間をかけて収録したセリフとは【連載04】

檸檬&小鞠、それぞれの恋に思うこと。そして全話を通じて一番時間をかけて収録したセリフとは――『負けヒロインが多すぎる!』連載 第4回:遠野ひかるさん(八奈見杏菜 役)インタビュー

 

温水くんは、言葉が足りない……だからこそ起こったすれ違い

――第4話の途中まで小鞠の話が続きますが、第4話はそれだけではなく、実は杏菜の話でもありました。ここを台本で見たときはいかがでしたか?

遠野:最初の印象として、この1話に詰め込んだなぁと思いました。温水くんとはすれ違うし、草介と向き合うところまでいくし。かなり濃度が高い話数だなと素直に感じました。

温水くんって、いつもは達観してるじゃないですか。モノローグではツッコミ要員でもあるから、常識人でちゃんとしている印象があったんですけど、やっぱり不器用だなと思ってしまいました。言葉が足りないなぁって。

――やっぱり足りないですか。

遠野:足りない! 全然足りないですよ。もちろん台本を読めば、温水くんなりに、ちゃんと杏菜を思いやって切り出したことだっていうのはわかりますし、視聴者としても、女の子たちの会話を温水くんが聞いているのを知っているんですけど、だからこそ惜しいなというか…。

もうちょっと何かあったでしょ?と(笑)。杏菜からしたら、唐突に拒絶された感じだし、自分なりに大事だった、楽しくて居心地が良かった場所や関係を、急に止めようって言われたら、そりゃあわからないよねっていう。

――確かにそうですね。

 

 
遠野:杏菜って、これまで楽しそうにしているところは描かれていましたけど、マイナスな感情を表に出すタイプではないんです。気持ちは素直に出しているけど、あまり怒ってるところは出してこなかったから、初めて見る表情でもあったかなと思います。

――「今までありがとう、割と楽しかったよ。じゃあね」は冷たすぎて、これは温水くんのダメージがすごいのではないかと心配になりました。

遠野:でも、一度クッションはおいてあげているんですよ。ちょっと、私わかんないって。「そういう雑な終わりって嫌かな、少し」って挟んだけど、「俺と変な風に思われると、八奈見さんも嫌だろ」って返ってきたから、せっかく投げたパスが上手く機能していなくて、温水くん!ってなりました。

――温水くんには、杏菜が草介のことをまだ好きだと知っているから、変な噂がたったら杏菜に申し訳ないっていう気持ちもあるんですけどね。

遠野:ただただ良い子で、杏菜のことを思っているだけなんだけど、それでは伝わらないよねっていう。だから「割と楽しかったよ」のところも、ト書きには「捨て台詞的に言い残す」って書いてあったんです。実際「冷たさを出してほしい」というディレクションもありました。

それだけ感情をあらわにしてしまうほど、杏菜にとって言われたことがショックだったんだと思うんです。どうでもよかったら気に留めないでしょうし、温水くんと過ごす非常階段での時間を大事にしていた裏返しなんだろうなと感じました。

 

 

――そのセリフのあとに大きくなるセミの鳴き声がツラくてツラくて。

遠野:1話からずっとセミが良い仕事をされているんですよ(笑)。で、そのあと温水くんは檸檬ちゃんに心配されて、アドバイスまでもらっていましたね。

――そこから文芸部の部室で会って、お弁当を一緒に食べていたのは楽しかったと八奈見に伝えました。そこは勇気のある行動ではあったのかなと思ったのですが。

遠野:でも言葉が足りない! 足りない!楽しかったなら何で?ってなっちゃうし、それと止めるというのが杏菜の中では両立しないから、余計どうして?ってなりますよね。女の子は、ちゃんと言葉で言ってあげないとわからないよ!って思いました。

――今ずっと、なるほどなと思いながら聞いています(笑)。

遠野:やっぱり女子高生ですから。言われた言葉を真っ直ぐ素直に受け取りますよ。

 

全話を通じて一番時間がかかったシーンを振り返る

――そこから、温水が草介に呼び出されます。小鞠のアシストもあって、杏菜も駆けつけるわけですが、ここでのやり取りで、杏菜が草介のことをまだ好きだと、温水があっさり言っちゃうんですよね。

遠野:温水くんが、言っちゃうんですよね(笑)。

そこからの杏菜の「振られた、振られた、言うな!」のシーンは、全話を通じて、一番時間をかけて収録をしたところなんです。いろいろな見せ方だったり、セリフの変更もあって、いろんなことを試していただいたんですね。

 

 
演じていて、本当になんて苦しいことを言っているんだろうと思いました。草介のことがずっと好きなのに、「まだまだあなたのこと好きだから! だから、姫宮華恋と幸せになれ! 勝手に幸せになっちまえ!」って。…………これはキツイよと思って。ツラすぎる気持ちがどうしてもあったんです。

でも、杏菜は最終的に満足そうな顔になるんですよ。「よし。許してあげる」って、そこでいつもの調子に戻らなければいけないんですけど、テイクを重ねるうちに、1回1回ふくらませているツラい気持ちだけが増大してしまって。「泣きすぎて、違うね」となったり、全然満足そうな顔にならないんですよね…。

――最後の杏菜の気持ちに繋がらないんですね。

遠野:そうなんです。アニメのテンポ的にも結構気持ちの切り替えが早いから、スッキリした顔に間に合わなくて。もちろん、杏菜も実際は心の底から吹っ切れているわけではないんですけど。

――特に杏菜はシリアスなところが、それまでではそんなにあったわけでないですからね。

遠野:「残念だよね」っていう部分を多く見せていたから、恋愛においての切ない展開の見せ方の塩梅が本当に難しくて……。アフレコでカットが入り、一度シーンを確認している間も私は涙が止まらないし、嗚咽するくらいだったんです。隣にいた梅田さんには本当に申し訳なかったんですけど。

――そんなことになっていたのですね。

 

 
遠野:最終的に、気持ちをリセットするためにも一度休憩をはさんでいただいて再開してから録ったものがOKテイクになっているんです。でも、わぁっと泣いて時間を置く、なんでもない時間を過ごすことが必要なことだったのかなって今は思います。

杏菜は、アニメで描かれていない部分でツラいことがいっぱいあったんだろうなって。ここまで、振られてからどうしようもない気持ちをずっと抱え続けているわけだし、それこそ生活のほとんどを占める学校で、毎日、草介と華恋ちゃんを見ているわけで、それって本当にキツイじゃないですか。それでも笑顔で過ごしている強さは見せていたけど、流した涙もあったと思うんですね。

だから、私がここでツラいと思っていっぱい泣いたことで、やっと杏菜の気持ちに追いついたんじゃないかなって。彼女がいっぱい積み重ねてきた想いを、ここで一度体感したことによって出たお芝居が最後のテイクだったのではないかなって思いました。

――アニメで描かれている時間のほうが、圧倒的に短いわけですからね。でも、「お前に幸せになって欲しいんだ」という草介の言葉は本当に言っちゃいけない言葉だったと思います。

遠野:ホントに! 何が幸せになってほしいやねん! 悪意なく、本当に幸せになってほしいと思っているんだろうけど、それを本人に言うのは絶対にダメだろうって。じゃあ、君が幸せにしてくれよってなるじゃないですか。あなたに振られて幸せじゃないんだよ、こっちは!と。

でもそれを言っちゃダメだろって杏菜自身が言うのも違うから、あそこで温水くんが言ってくれたのは、良かったなって思います。

いつも非常階段で話していて、まためんどくさいのが始まったぞって思いながらもちゃんと聞いていてくれて、受け止めてくれていたんだなって。それもすごく温水くんらしいですよね。むせちゃうくらい慣れないことをしてでも、伝えなきゃ、俺が言わなきゃって思ってくれた温水くんは本当に優しいなと思いましたし、杏菜とは、ただのクラスメイトとも違う関係値になっているんだなと感じられるシーンでした。

 

 

――何にしても、温水をぽかぽか殴って、最後にチョップをする杏菜が、ものすごくかわいかったです。

遠野:ははは(笑)。杏菜って見てて面白いですよね! 気持ちがどう揺れ動いてそうなるんだろうって。でもいっぱいいっぱいなんでしょうね。実は綺麗にまとまってはいないんだけど、それはそれでリアルだなと思ったし、そんな単純なものじゃないという意味で、人間味も感じられるのが杏菜の好きなところです。

――ここの一連は、本当に感動的で、皆さんのお芝居も素晴らしかったです。

遠野:ありがとうございます。私としてはとても苦戦したシーンでしたが、とことん向き合ってくださるスタッフさんが出してくれたOKテイク自体は不安なく信じられました。ただ、どう形になるんだろう……という気持ちはあったんです。でも、完成した映像で、BGMや絵と合わさったシーンを見て、すごく納得しました。

――ではラストの「友達になってくれないか」のシーンですが、温水くんは、告白してないのに振られた状態になりました。

遠野:振られ人の世界へようこそ(笑)。やっぱり温水くんも負けヒロインだったのかと思いました。

でもここは、いつもの調子に戻った2人が見れてホッとしましたね。ずっとそうやってわちゃわちゃしててほしいし、杏菜がイジって、いや〜〜ってなってる温水くんを見ていたいです。でも、まだ友達だと思っていなかったんだなって。

――それは最初から、杏菜が友達でも知り合いでもないとか言うから……。

遠野:そうでしたね(笑)。じゃあ何なんだろうっていう。

――だから、しっかり伝えなければいけなかったんでしょうね。

 

 
遠野:でも、友達になりたいって思う温水くん、めっちゃかわいくないですか! 杏菜と友達になりたかったんだ!かわいい――って。

――しかも2〜3年お互いを知って、好意がわかってから告白するのが筋らしいですからね。

遠野:堅実な考えを持っていてすごくいいと思います。それに温水くんの場合は、(温水)佳樹面接もあると思うから、そのくらい段階を踏まないといけないんでしょうね。でもやっぱりかわいかったし、この2人、愛しいですよね。よくわからないところからスタートした出会いで、恋愛関係でもないけど、2人にしかわからないところで通じ合っているのが、とてもいいです。

――個人的にはAパートで杏菜が言った、「私に告白するの? 断るけど」とか、ちょくちょく予防線を張っているところに、恋愛上級者で、モテを感じましたけどね。

遠野:だって杏菜はかわいいですもん。こんなに残念だけど、かわいいし、絶対に杏菜のことを想っている男の子はいるはずなんですよ。演じている上で、負けは負けなんだけど、ヒロインであるというところも実は大事にしていて。ヒロインってあざとくないじゃないですか。

あざといキャラクター性であっても、本人が計算してやっているわけではないというのは守りたかったところというか。ヒロインなんだけど、ヒロインに見せよう!っていう意図は見えないようにしようと意識してやっていたんです。

――この作品では、間違いなくヒロインですしね。

遠野:そうなんです! だから杏菜ってモテるんです!

 

 

――最後に、全然関係がないシーンの話になるのですが、もぐもぐしながらしゃべっているAパートのシーンもかわいかったです。

遠野:「月之木先輩が荷物まとめて出て行っちゃったの!」のシーンですね(笑)。ここ、台本を見ても、実際に言っている文が書いてあるわけでなく、ただ「ふひほひへんはひはっ/ひへはひへほはひんはっはふ/ほほほひんっ!」って書いてあったんですよ。一言めの「月之木先輩が」以外は、原作とも当てはまらず解読が難しかったので音響監督の吉田光平さんに聞いてみたりしました。注目していただけて嬉しいです。

――確かに全く当てはまってないですし、実際のシーンも何言ってるか全く解読できなくて面白かったです。最後に第5話以降で楽しみにしてほしいことを教えてください。

遠野:第4話で、杏菜の中でひと区切りついたところはあったので、第5話からは、また「らしい感じ」になっていきます。いつもの調子だなってところもありますし、スッキリした顔をしていたけど、全然スッキリしてないぞ、こいつっていうところもあるので、思う存分笑っていただきたいです。あと、ここからまた新キャラも出てくるので、まだまだ賑やかになっていきますよ!

杏菜はここで自分の恋愛に向き合うタイミングがありましたが、ほかの2人のマケインはどうなのかな?っていうところも期待して、楽しみに待っていただけたらと思います。

――佳樹推しとしては、公式で公開されている各話の予告映像も楽しみですね。

遠野:あれ、すごくいいですよね! 台本は共有されていなくて、何をお話ししてくれるのかは、私も皆さんと同じタイミングで知るので、ワクワクしながら待ってます。毎回恐ろしいことを言ってる気がするんですけど、お兄様への愛重ためで、すごくいいです(笑)。

 
[文・塚越淳一]

 

作品概要

負けヒロインが多すぎる!

あらすじ

第15回 小学館ライトノベル大賞《ガガガ賞》受賞作、待望のTVアニメ化!想い人の恋人の座を勝ち取れなかった女の子——「負けヒロイン」。食いしん坊な幼なじみ系ヒロイン・八奈見杏菜。元気いっぱいのスポーツ系ヒロイン・焼塩檸檬。人見知りの小動物系ヒロイン・小鞠知花。ちょっと残念な負けヒロイン——マケインたちに絡まれる、新感覚・はちゃめちゃ敗走系青春ストーリーがここに幕を開ける!負けて輝け、マケインたち!

キャスト

温水和彦:梅田修一朗
八奈見杏菜:遠野ひかる
焼塩檸檬:若山詩音
小鞠知花:寺澤百花
温水佳樹:田中美海
月之木古都:種﨑敦美
玉木慎太郎:小林裕介
袴田草介:逢坂良太
姫宮華恋:和氣あず未
綾野光希:小林千晃
朝雲千早:上田麗奈
甘夏古奈美:上坂すみれ
権藤アサミ:関根明良
放虎原ひばり:七海ひろき
馬剃天愛星:諸星すみれ

(C)雨森たきび/小学館/マケイン応援委員会

 

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