夏アニメ『義妹生活』・上野壮大監督に聞く制作秘話・裏話・見どころ
第5話「レイトショー と ガチなやつ」
――第5話を制作する上で、意識したところやこだわりのポイントをお聞かせください。
上野壮大監督:5話もまた、特別な話数でした。公園のシーン、自販機に遮られてしまう「あの……!」。次の日の、「やあ、後輩君」。アフレコ時、鈴木(みのり)さんのお芝居に幾度も震えました。素晴らしかったです。
5話は正直に話すと、公園のシーンを筆頭に、「自分には描けないなぁ……」と思うシーンが多く……脚本の笹野(恵)さんやコンテ・演出の小林(美月)さんの力が本当に大きいです。笹野さんの脚本は、いつも読む前よりすっと背すじが伸びるような読後感があって、何となく新緑の風みたいな魅力があり素敵でした。
小林さんのコンテは、まっすぐで真摯なカットの積み方が丁寧で、栞先輩の視線のあり方、その瞳の描き方が美しく(だからこそ切なく……)、実制作時も粘り強く話数の大事なところを守ってくれました。
そして、劇中劇「蒼い夜の隙間」ですが、最初はあそこまで描く予定ではなかったです。が……笹野さんの初稿を読んで、「これは栞先輩のためにも、ちゃんと描いてあげた方がいいな」と思い、追加していただきました。
笹野さんにはまるまる1本映画が作れるくらいの細かい設定を作っていただき、キャラクター原案のpotg(ぴおてぐ)さんにはキャラクターの細部から、世界観を拡げてもらいました。自分はpotgさんのイラストの、光に表情があるところが好きで、そこにいる少女たちをいつもぼーっと見つめてしまうのですが……コンセプトボードでもそれぞれ物語の隙間を表情豊かに、魅力的に描いてもらいました。
コンテでは、小林さんが原案やコンセプトボードからもう一歩……、二歩……、三歩、四歩、と踏み込んであの世界を作り上げ、それを元に各スタッフがあの完成形に持っていってくれています。
「蒼い夜の隙間」のキャラクターデザインを担当された村上(彩香)さんのお仕事も素晴らしかったです。村上さんの描くそれぞれの表情が自分は好きなのですが、「顔が良い」というよりは「良い顔をしてる」という絵が描ける、稀有なアニメーターさんだと思っています。
悠木(碧)さん、宮本(侑芽)さん、木内(太郎)さんのお芝居も、断片的だったこの映画に芯を通してくれていました。ラストシーンの笑う声、絵の力も合わさって、あまりに幸せで…あまりに辛かったです。
「映画」にするすべを知っている音響チームの力もさることながら、美術や色彩、撮影もこの劇中劇のためだけの処理を、本編と全く異なる方針で新しく設計し直してくれています。
……つまり、劇中に出てくる映画のためだけに1から新しい作品を作った、ということになります。SNSでの三河先生のコメントで指摘のある通り、それは栞先輩のためであり、言葉は最後まで言えなかったけれど……あの夜は確かにあったんだ、と描くためでした。
――前回(第4話)から、エンディング映像が流れています。制作時のコンセプトやこだわった部分などを教えてください。
上野壮大監督:基本的に、映像作家であるhewaさんに全てお任せしていました。日々の描き方やふたりのあり方、色彩、音楽とシンクロして風がこちらにまで通り抜けてくるような「空気感」、あまりに非凡な作家さんです。
Kitriさんの音楽も本当に作品に、沙季に寄り添って作っていただいて……初めてデモを聴いた日、秋風の屋上で嬉しくて小一時間ほど聴きながらくるくる踊っていました。目を回しました。その時、幾つも映像が浮かんだのですが、そのどれもが本編と繋がってしまい……これはマズイなと、ED映像を作っていただける他の方を慌てて探すことになりました。
hewaさんへの発注時は、いくつか簡単なコンセプトをお話ししたくらいです。「アニメーションで、自分たちが描いてきたふたりの日々の、撮ってきた日々のそのフレームの外側、そこに行ってスケッチ──素描してきて欲しいです。」というようなお話をしたと記憶しています。もしかしたら、その時に本編の世界観やED曲のコンセプトからも少し離れて欲しい、という旨も伝えたかもしれません。
どうして、本編から離れてもらったかについては明確にあるのですが、それは秘密にさせてください。