夏アニメ『義妹生活』・上野壮大監督に聞く制作秘話・裏話・見どころ
第7話「感情 と 夏休み」
――第7話を制作する上で、意識したところやこだわりのポイントをお聞かせください。
上野壮大監督:2回目の日記回でした。
少し記憶が曖昧なのですが、確か最初の構成時からボリューム的にも7話のAパートを日記パートにしよう、と広田(光毅)さんが設計してくれていたと思います。
ラストに答えを持ってくる見事な構成も広田さんの発案でした。これまでの感情を抱えたまますり合わせできずに揺れる沙季に日記パートの問いが掛かっていく構成。すさまじいものがありましたね……。
日記パートでもそうですが、沙季の表情を撮るカットがどんどん増えてきた回でもありました。日記パートでは、実在感やその時の心情を一番表現できるカメラ位置を探った結果、とても難しいアングルのカット、表情の塩梅が難しいカットも多かったように記憶しています。
冒頭の屋上で寝転ぶ沙季を頭の方から撮るカットや、お風呂で天井を見つめる沙季、ドライヤーを乾かしながら思い詰める沙季、酢豚、嬉しい、嬉しい、けれど…と俯く沙季、エレベーターで嘘をついた鏡の内と外の沙季、日記を読み返す沙季、水底で目を覚ました幼い沙季を見下ろす現在の沙季……。Bパートでも、バイトの帰り道にどうして微笑む沙季、悠太にプールの話を知られて動揺しつつもそれを隠す沙季、「……落ちたら、恥ずかしかったから」と嘘をついた沙季。どれも素晴らしい作画でしたが、原画さんや作画監督さんのお力もさることながら、仁井(学)さんによる尽力が本当に大きいです。
仁井さんと共有していた方針として、「顔で感情を語りすぎない」ということがありました。それぞれの表情設定も感情の最大値ではなく平均値を描いてもらいました。本編制作が始まってからも1話から、繊細な、難しいそのバランスを、ずっと守り続けてくれていました。
アフレコ用の映像でも、役者さん達に少しでも心情が伝わるように、役者さん達が持っている想像力を最大限発揮できるように、と絵を入れ続けてくれたこと、本当に頭の上がらないハードワークでした。
コンテ発注の時も良く話していたことは、「感情の変化によって動く表情」を撮るのではなく、「感情は、心情は、確かに揺れている、動いている。けれど、変化しない表情」を撮ることが大事かもしれない、ということでした。
ここから、8話、9話ととんでもなく大きな波が、ふたりに訪れます。その時の、変化しない表情、けれど内側で揺れているという表情、素晴らしい作画の数々、楽しんでいただけると幸いです。
――第7話は、沙季が水の中を歩いているシーンや、まるで部屋が水槽になっているかのようなシーンなど「水」を使った演出が印象的です。この演出について監督のこだわりをお聞かせください。
上野壮大監督:「今回、向き合うこの綾瀬沙季さんって方は、どんな人なんだろう。」
と、原作を何度も何度も読み、渋谷に通って色んな人を見て、話を聞いてみて、沙季に近い年の実妹にもインタビューしたりしました……。もしかしたら近いかも、と思う小説や音楽、漫画、ファッション、演劇、映画などにもふれて、考えて、その度に原作を読み返して、考えて……、考えて……。
結論、「沙季は、「水」の人だなぁ。」と思った。それだけな気がします。
EDの「 水槽のブランコ」と7話の表現のシンクロは本当に偶然で、とても驚き感動したと共に、やっぱりそうだよね、と安堵したことも覚えています。
──バイトからの帰り道、ディスプレイに並ぶ服の変化について会話するシーンがあります。原作では「そのあとの綾瀬さんは何故だか少しだけ機嫌が良かった気がする」と沙季の様子が明記されていますが、「少しだけ機嫌が良い」沙季をアニメで表現する際にこだわった点をお聞かせください。
上野壮大監督:今回悠太のモノローグをここまで排しているアニメーションの方では、沙季がどうして「少しだけ機嫌が良い」ニュアンスでお芝居してもらい、その表情を撮る、けれど理由は分からない、というバランスにしています。
3話や7話のAパートを経験してきた皆さんだったら、それでもみつづけてくれている皆さんだったら、理由が分からないことも、理由は分からないけどそういうことがあった、とそのまま受け止めて抱えて続きをみてもらえるだろう、という期待があったということを、ここに書き残しておきます。