誰しもが探している“なにか”を見つけてほしい――音楽朗読劇『モノクロームのシンデレラ』中田裕二さん&中村誠さんインタビュー|歌と語りのセッションが生み出す、全く新しいエンターテインメント
誰しもが探している“なにか”を見つけてほしい
ーー中村さんはこれまで数々の脚本を手掛けられていますが、今回の音楽朗読劇ならではのこだわりはありましたか?
中村:今回の音楽朗読劇は中田さんの楽曲を題材にしているので、とにかく中田さんの楽曲からもらったイメージを物語に落とし込むイメージで、小説のような話にできれば良いなという想いで作っていきました。
ーー今作は“僕”のセリフが台本のほとんどを占めていますよね。
中村:そうですよね。書き上がってから役者さんに申し訳ないなと(笑)。
一同:(笑)
中村:でも、中田さんのライブを聴いている段階で、深夜にひとりでウィスキーを少しずつ飲んでいるような空間をイメージしていて。言い方は悪いですが、心地良くて寝てしまうような雰囲気を目指しました。
ーーストーリーと相まって、心地良い空間となりそうですね。
中村:夢と現実の狭間のような気分で聴いてもらって、終わったときには「あれは夢だった?」と感じてもらえるようなイメージでしょうか。その空間作りはこだわったポイントなんじゃないかなと思います。
ーー“彼女”の存在がその夢と現実の狭間のような世界観を引き立てているなと。
中村:自分のことって100%はわからないじゃないですか。そんな自分が気付いていない“何か”って、他人を通して発見したりするんですよね。この物語においての“彼女”は、“僕”の中にあるなにかを反射しているような存在として登場します。“僕”にとっての謎な部分を表しているからこそ、なんだか分からない人に見える訳です。
ーー“僕”があってこその“彼女”だと。“僕”というキャラクターは、日常の中でなにかに思い悩んでいるような普通の男性ですよね。
中村:誰もが曖昧な不安を抱えていると思うんです。“僕”というキャラクターはその中のひとりとして、さらに、この物語において“彼女”に照らされる存在として作りました。描き方も曖昧になっているので、人によって“僕”というキャラクターの解釈が違ってくると思いますし、それが物語の余白というものに繋がるんじゃないかなと。みなさんには“僕”を通して、自分の中にある何かに対する正解を発見してほしいと思っています。
小説や映画でも、物語を楽しみながら「自分だったら?」と考えることがあると思いますが、この作品では“僕”を通してそれを描きたいなと。とはいえ、そんなに大層に構えず、気軽に楽しんでほしいです。
中田:表現作品って、最終的に作り手を離れて、受け手が答えを決めることが大事なんですよね。そういう意味では昨今の表現は、最初から答えを決め過ぎているんじゃないかなって。僕自身小説や映画は見終わったあと、余韻に浸ってから評価しているところがあるので、作詞をしていても自己完結はせず、受け手の想像の余地を残すことを意識しています。
中村:分かります。中田さんの曲を聴いていて、良い意味で流行りを追っていないと思ったんですよ。それでいて様々なテイストの曲があるから、気持ち良さやカッコ良さの方向性を提示してもらっているような気分になって。
中田:ありがとうございます。結局、表舞台でスポットライトを浴びている人だけがこの世界の全てではないじゃないですか。むしろ今ってそっちじゃない人のほうが普通の暮らしの中で偶発的な何かを生んでいたり、因縁を感じるようなドラマを起こしていたりして。昔の脚本家さんってその辺りをちゃんと拾っていたと思うんですよ。だから最近の僕は、ドキュメンタリー番組の方が好きだったりします。
中村:正直、今の時代ってオリジナルにはお金が集まらないことが多いんです。変わったことがし辛い状況ではありますね。
ーー音楽の世界でも同じようなことは?
中田:音楽は特にそうです。今、サブスクリプションの影響もあって、バリエーションが沢山あるように見えますが、僕としては減っているように思えて。みんな一定の方向に飲まれてしまい、自分の音楽を貫きづらい時代なのかなって。
中村:なにかの記事で、THE ALFEEの高見沢俊彦さんが、「昨今、ギターソロは飛ばされてしまうけど、でも俺は弾きたいんだよ」とおっしゃっていて。これは良いなと思いましたし、そういう意味では今回チャレンジをさせていただけたなと。
ーーこれだけチャレンジングな企画が成立したこと自体も面白いですよね。
中村:普通は最初にストーリーがあったうえで企画にOKが出ますからね。本当にこのご時世でいろいろと提案しながら作品を作れたのは幸運なことだと思います。
中田:作り手にそう思っていただけるのは本当にありがたいお話です。
ライブに行くような朗読劇
ーー中村さんは演出も担当されていますが、役者さんたちにどんなオーダーを?
中村:ここが難しくて、稽古が始まったばかりということもあり、僕自身もまだ見えていないところではあるんですが。
中田:「ここは滑舌が良くなくても大丈夫」とお話されていましたよね。
中村:そうですね。朗読劇は動作がない分、本当は言葉でハッキリと言わないといけないんだと思うんですけど、この作品に限っては、ストーリーとの兼ね合いがあるから難しいです。普段から滑舌良く、ハキハキと喋っている人って中々いないじゃないですか。加えて、今回はお客さんにリラックスしながらお話を聞いてほしいので、誰かが優しく話しているのを聞いているような演出にできたらなと。
中田:中村さんが少し指示されているのを見ていたんですけど、役者さんたちも掴むのが早いんですよね。そこは見ていて驚いたところです。
ーー中村さんはキャスト陣の演技をご覧になっていかがでしたか?
中村:こちらから指示することもあまりないんじゃないかなと。実際、読み合わせに聞き入ってしまって、演出を忘れそうになることもありました(笑)。
ーー(笑)。濱野さんも中田さんの演奏に聞き入ってしまったとお話されていました。
中村:本番では歌い終わる度に拍手が起こると思います。
中田:そうですね。そこはライブ感がありそうで楽しみです。
ーー観客の反応が楽しみですね。中田さんはどんなアプローチをするのか決められているのでしょうか?
中田:僕は基本的にお任せするスタンスなので、役者さんとの絡みもプロにお任せしています。強いて言えば、セリフに合った曲を少しだけ提案したくらいでしょうか。
ーー今作は朗読劇を初めて観劇する方もたくさんいると思うので、改めて今作の楽しみ方をお聞かせください。
中村:朗読劇って色々な形がありますよね。お話も色々な種類のものがあると思うんですけど、今回は中田さんの楽曲ありきで作られている点が唯一無二の特徴です。そういう意味では、ライブのような盛り上がりを楽しんでもらえると思います。
中田:おっしゃる通り、今作はライブの新しい形だなと思います。観劇というよりも、ライブに行くような気持ちでいてもらえると嬉しいですね。ぜひ語りと歌のセッションに期待してください。