「音楽のノイズを色として捉えることができるんです。その色を使って……」音楽監督・牛尾憲輔さんが『きみの色』で彩った色が奏でる音、音が映し出す色。その共鳴のクリエイティブ【インタビュー】
場と感性の共鳴によって生まれるもの
ーー牛尾さんは別作品で、街の音も拾われていましたよね。場というのは以前から大切にされている印象がありますが、測定以外にも音を拾っていたのでしょうか。
牛尾:旧五輪教会堂では音響用の測定をすると同時に、その場の音をたくさん録ってきました。旧五輪教会堂は海辺に立っているので、ずっと海風に晒されているんですよ。木造建築なので、湿気によって木の質感が変わったり、窓ガラスが海風でカタカタ鳴ったり。その音は、3人が教会を思い出す時や教会にいる時、彼らの足音や手の動きとは別に、楽曲の中で窓の枠の音などがリズムに反映されていたり、導入されていたりはしていますね。
ーー旧五輪教会堂に行ったことで影響を受けたところもあるんでしょうか。
牛尾:そうですね。論理的に説明しづらいのですが……劇伴をやる時って、アニメの作品世界って作画した部分しかないんですよ。当然ですよね、絵の世界なわけですから。
でも、旧五輪教会堂には、そこに行くための海上タクシーの発着場があって、下履き入れがあって、その隣にお手洗いがあって……アニメーションの作画で背景として描かれた、その外側があるわけです。それを実際に見られたのは、自分の作曲に影響を与えていると思います。抽象的ですけどね。
例えば、ここはフレーズを弾くよりは白玉(しろたま)じゃないと、あの下履き入れの音ではないとか。それは感覚的に出てくる。もう少しアーティスティックにはなっているんですけど、そういうところでとっても影響を受けていると思います。
ーーお話を聞いているともう一度、劇場に足を運んで確かめたくなりますね。
牛尾:そう言ってもらえるとありがたいですね(笑)。ただ、こんなにも難しいことをして作っていますが、基本のストーリーラインも、山田さんの作品も、ガール・ミーツ・ガール・ミーツ・ボーイ的な、すごく素敵な読後感を持っていると思うんです。とても幸せな終わり方ではあるけれど、同時に心に残るものがある。その心に残るものには、名前がついていないような、山田さんの作家性が滲み出ていると思います。
だから小難しいことを考えるのは2周目以降にしていただいて(笑)。最初は素直に楽しんでいただけたらと思っています。
[インタビュー/逆井マリ 撮影/MoA]
『きみの色』作品情報
2024年8月30日(金)全国公開
あらすじ
高校生のトツ子は、人が「色」で見える。
嬉しい色、楽しい色、穏やかな色。そして、自分の好きな色。
そんなトツ子は、同じ学校に通っていた美しい色を放つ少女・きみと、
街の片隅にある古書店で出会った音楽好きの少年・ルイとバンドを組むことに。
学校に行かなくなってしまったことを、家族に打ち明けられていないきみ。
母親に医者になることを期待され、隠れて音楽活動をしているルイ。
トツ子をはじめ、それぞれが誰にも言えない悩みを抱えていた。
バンドの練習場所は離島の古教会。
音楽で心を通わせていく三人のあいだに、友情とほのかな恋のような感情が生まれ始める。
周りに合わせ過ぎたり、ひとりで傷ついたり、自分を偽ったり―
やがて訪れる学園祭、そして初めてのライブ。
会場に集まった観客の前で見せた三人の「色」とは。
2024年夏、好きになる。
キャスト
(C)2024「きみの色」製作委員会