「音楽のノイズを色として捉えることができるんです。その色を使って……」音楽監督・牛尾憲輔さんが『きみの色』で彩った色が奏でる音、音が映し出す色。その共鳴のクリエイティブ【インタビュー】
ヒロインのトツ子は、人が「色」で見える。 嬉しい色、楽しい色、穏やかな色。 そして、自分の好きな色――。
山田尚子監督の最新オリジナル長編アニメーション映画『きみの色』が2024年8月30日(金)に公開されます。
『映画けいおん!』『映画 聲の形』などを手掛けてきた山田監督ならではの「音楽×青春」物語。第 26 回上海国際映画祭では金爵賞アニメーション最優秀作品賞受賞、またフランスで行われたアヌシー国際アニメーション映画祭2024長編コンペティション部門へ出品されるなど、世界中から注目を集めています。
本作の音楽監督を務めたのは鬼才・牛尾憲輔さん。“agraph”名義での活動、電気グルーヴのライブサポートメンバーとしても活動する一方、『映画 聲の形』『リズと青い鳥』などの山田尚子監督作品をはじめ、TVアニメ「チェンソーマン」の劇伴など、多方面で活躍中です。
『きみの色』を彩った音楽について。そして、様々なクリエイターや作品とタッグを組み、新たな音を生み出してきた牛尾氏にとって、山田監督の存在とは?
※本記事は、物語を彩る音楽の核心部分に触れています。映画鑑賞後に読んでいただけますようお願いします。
山田監督と共通する「泥臭さ」
ーー先に公開されたインタビューで、山田監督作品の魅力として、登場人物に対する眼差しの優しさや泥臭さを挙げられていました。これらの要素は牛尾さんの音楽や哲学にも通じるところがあるように感じているのですが、牛尾さん自身は、山田監督および監督の作品のどのような部分にシンパシーを感じていますか?
牛尾憲輔さん(以下、牛尾):それはもう、おっしゃる通りで。山田さんと一緒にやっていて、共感を覚えたのもそういうところでした。泥臭さというのは抽象的な精神論ではなくて。例えば、僕はコンピューターで作曲をしていくんですけども、すごく大変なことばかり思いついてしまって、もう嫌々それをやるんですね。
ーー嫌々なんですね(笑)。
牛尾:だって面倒くさいですから(笑)。
ーーでもその通りだとは思います。それでも思いついてしまったからには、やるしかないという。
牛尾:すっごく大変。ミリセカンドの、0.0何秒の単位で、思いついたものを合わせながらやっていく。8小節を作るだけでも1日掛かってしまうのに、それを何十小節、何百小節と作っていくんです。そういう小さくて、細かいことを、夏場パンツ1丁で汗かきながら一生懸命やるみたいな(笑)。根性で這いつくばって匍匐(ほふく)前進する。そういうところが僕も山田さんも共通しています。
山田さんはすごく美しいものを作っているけど、そこに近道も何にもないっていうか。愚直にそれをやるだけっていうところに、シンパシーを感じていますね。
ーー華やかな世界にも見えますけど、地道に、実直に進んでいくしかないと。
牛尾:そう見えるんですけどね。実際、僕が山田ファンの時代は華やかに見えていたんですけど、今となっては「また大変なことやっているな」と……(笑)。身が引き締まる思いです。
ーー先日、山田監督にもお話を伺いさせてもらったんですけど、制作中はコロナ禍だったそうで、それが少なからず制作に影響があったというお話をされていて。牛尾さんの音楽制作においてはどうでしたか。
牛尾:基本的にひとりで家に引きこもって作っているので、そこまで大きな影響はなかったんです。ただ、やっぱり山田さんと顔を突き合わせる時に、山田さんに何かうつしちゃったらな……という精神的な心配はありましたけど。でも基本的に昔から友達もいないんで。
ーーいやいや(笑)。
牛尾:基本的に引きこもっているだけですから(笑)。何にしても、音楽制作はひとりでやることなので、そこにはそんなに影響はなかったですね。