「好きなものは好き」という気持ちはエバーグリーンなもの。「年齢や性別とかまったく関係なく、心(しん)で通じ合えるものってあると思うんです」ーー『きみの色』で伝えたい、山田尚子監督が描いたメッセージ【インタビュー】
奇跡のようにピッタリな方々と出会えた
ーーキャスティングについてもお伺いさせてください。鈴川紗由さん、髙石あかりさん、木戸大聖さんたちは、1600人のオーディションでの抜擢となりました。山田監督から、何かリクエストしたことはあったのでしょうか?
山田:特に私からリクエストはしていないんです。委員会のみなさんや音響監督の方と一緒に話し合って選ばせていただきました。
ーーメインキャスト3人に取材させてもらったのですが、みなさん愛を語ってくれて。
山田:そうでしたか! 可愛いですよねえ……。
ーー特に鈴川さんはトツ子そのままだと思いました。
山田:びっくりしました。鈴川さんは最初に声を聞いたときから「トツ子だ!」と思っていて、本当にすごくピッタリだなって。(キャスティングは)すごくすごく、悩んだんです。オリジナルはゼロから生んでいく作業なので、ひとりの人に決めるプレッシャーもありましたが、今では奇跡のようにピッタリ合う方々に出会えたと思っています。
ーー初号の試写で完成した映像を観て、とても感動したと仰っていて。あの映像の美しさと言いますか。色の配色というのは、どのようなバランスで生まれていったのでしょうか。
山田:何て言うんでしょう。中にはトツ子にとって苦手な色味があったりするんですよ。同じ種類の色の中で、嫌いじゃない色にしていくためにはどうしたら良いだろうかと相談していったんです。色彩設計の小針裕子さんが才能ある方なので、そのお力を借りつつという感じでした。
ーー好きな色味で構築するのではなく、苦手な色を排除していくというプロセスは興味深いです。
山田:苦手な色味というと語弊があるかもしれませんが、特定した色というよりも「この画面の中では、この色が苦手に映るな」と思うことがあって。でも、それは焼き魚の骨を取るような作業ではあります(笑)。
ーーところで山田監督はご自身の作品を最初から最後までご覧になったとき、客観的に観られるものなのでしょうか。
山田:観られません(笑)。観られないんです。これはいつもそうなんですよ。3年後くらいに「大したもんだ」と思う瞬間が来るかもしれませんが、今は全く観られないですね。だから今は全然。「みんなどう思っているのかな?」って気持ちばかりがあります。スタッフの方に感想を教えてもらうのですが、「本当ですか。気を遣っていませんか」と(笑)。でも、みんなの大切な時間を使って作った作品ですし「嘘はつかないか」という感じで、三歩進んで二歩下がる的な気持ちでやっていますね(笑)。でも、私自身、すごく好きな作品です。
ーーそんな中で、最初に観たときってどのような感情が溢れるものなのでしょうか。
山田:きょとーんって感じでした。作業がすべて終わったあとに、最後まで通して観るのは初号試写で、他のスタッフや委員会の方々と一緒だったんです。みんなのムードを感じ取るのに必死でしたね。「この作品をやって良かったって思ってもらえているかな?」ってハラハラしていました(笑)。
ーー山田監督のような方でも、そう思われるなんて。今は公開を前にドキドキしている感覚なんですね。
山田:はい、恐ろしいです。海外逃亡したいです……遠くに逃げてしまいたい……。
ーー(笑)。
本作を彩る音楽
ーー牛尾さんと山田監督のタッグならではの音楽が作品を彩っています。中でも、劇中歌「水金地火木土天アーメン」はテクノ、ニューウェーブを感じさせる曲ですが、私は山田監督と同年代で、私もパンクをきっかけに後追いをしてそこにたどり着いていて……。
山田:ありますよね!(笑) どんどん追いかけていって、生まれる前のムーブメントにたどり着くという。自分が聴いているものも後追いしたものですし、いつの時代も「カッコいい」って思える音楽って、どの世代の人が聴いてもカッコいいのではないだろうかって。だからクラシックを作るような感覚ではありましたね。カッコいいものはカッコいいから。若い子たちにも、カッコいいと思ってもらえるはずだ!って。自分もそうでしたから。
ーーいつの時代においても「好き」ってすごく大切な気持ちですよね。
山田:そんな気がするんです。ずっとエバーグリーンなものというか。
ーーだからこそ今、思春期を送っている人たちに大切にしてもらいたい気持ちでもある。
山田:今の子たちはもっと情報が多いので「こういった文法で行くとこの音楽にたどり着く」などはなく、もっと気軽にいろんな音楽に触れられるようになっていると思うんです。自分であれば、バンドTシャツを着るにしても「なぜこのTシャツを着るか」の文法を考えてしまうのですが……。
ーーああ、分かります。このバンドを背中に背負うということは……ということを考えて。
山田:そうそう!(笑) でも今の子たちって、例えが合っているか分からないですけども、テクノのパーティにメタリカTを着ていくことも、アニメのTシャツを着てロックバンドのライブに行くことも全然問題じゃないというか。すごく良いことじゃないですか。もっともっと、カッコいいことをしやすくなっているような気がするんです。そんな願いも込めて、今回、そういう音楽を選びました。懐古主義というわけではなくて。
ーーどの時代も良いものは良いし、それを主張したって良いよねと。
山田:まさにそうです。
ーー自分もそうだったのですが……個を認められる時代に変化しつつあるけれど、それでも生きにくいなと感じてしまっている子も、好きなものを好きと言えない子もいると思うんです。そういう人たちに、ぜひ感じてもらいたいメッセージが詰まっている作品だと感じています。
山田:それは本当に。実はその一心なんですよね。今、人の性格や骨格をグループ分けしたり、イエベやブルベなど色で分けたりするじゃないですか。自分が人と違うとか、一緒じゃなきゃだめとか、ああなりたいって気持ちとかが……すごく具現化されすぎてしまっていて、結果的に窮屈になってしまっていることが多いんじゃないかなって。そこに当てはまらないといけないんだろうか、と焦ってしまうというか……そういった不安が少し楽になるような作品になれたらいいなって私は思っています。