賢プロダクション主催「KENPROCK Festival 2024」開催記念! 増元拓也さん、三川華月さん、大熊和奏さんインタビュー|声優事務所の中でも賢プロは熱い体育会系!?【前編】
大熊を見ておいた方が良い
ーー大熊さんはいかがでしたか?
大熊:私は基礎クラスから通っていたので、デュオには3年間在籍していました。ただ、私の時も2年目から入ってくる人が多かった印象があります。
増元:今も、2年目から入る人が結構いるんですね。
大熊:そうですね。むしろその方が多かったかも……。
三川:期によりますけど、基礎クラスから上がる方も一握りだったりしますね。だから年次が上がる時はクラス替えみたいな感じで、楽しいんですよ。
ーーそうなんですね!
大熊:私が通っていた時期は、コロナの流行が始まったタイミングでした。2年目で本格的なパンデミックになってしまって、クラスが細かく別れたり、合宿も中止になりましたね。
みんなマスクを着けているし、パーテーションを挟んでお芝居をしなければいけなかったりしたので、演技を汲み取るのが大変でした。今となっては懐かしい思い出ですが。
増元:もしかして、スタジオにたくさん人がいる状態の現場は、まだ体験していない?
大熊:ないですね。一気に録るっていう現場はなくて、別れて録ることの方が多いです。デュオの稽古や授業の際にも、物や人に触れちゃいけないという決まりがあったくらいなので……。
三川:面と向かってお芝居なんて、できなかったよね。
大熊:できなかったですね。すごくもどかしかったです。
ーーそれであれば、KENPROCKが初めての大人数参加イベントになるんですね。
大熊:参加できるのが嬉しいです。デビューしてからも大人数でアフレコすることはなかったですし、先輩方、後輩のみんなとも関わる機会は中々なかったので、KENPROCKは貴重な時間だなと思います。
ーー感染症による壁が、本当に大きかった代なんですね。
大熊:みんなそれぞれ思うことはあったと思います。それでも、コロナがあったからこその団結力だったり、和のようなものを感じていました。先輩方のようにバチバチしている雰囲気だったのかと言われると、そうでないような気もしますね。
三川:それも期によるね。実は私は、1年目の大熊ちゃんのレッスンを見に行っていたんです。社長に「大熊を見ておいた方が良い」と言われて。
ーーそうだったんですね!
内海:大熊は人と違う感性を持っていて、色々なアプローチでお芝居をするんです。見ていて面白いんですよ。
ーー別のアプローチとは、どのようなものなのでしょうか?
内海:授業内容的に同じ演目を何年も見ているのですが、今まで誰もやっていなかったような役の捉え方をしていました。個性が……クセが強いんでしょうね。
大熊:クセですか(笑)。
ーー褒め言葉ですよね(笑)。
内海:もちろんです。その時、まだ高校3年生だったので、将来が楽しみだなと思っていました。
三川:大熊ちゃんのことを教えてもらって見に行って、衝撃を受けましたね。「ヤバい」と思いました。個性も、爆発力もすごくて「私も頑張らないと!」と思わされましたね。
内海:大熊の演技にみんなが引っ張られていくんですよ。それによって相乗効果が生まれていて、面白い代でしたね。
ーー大熊さんとしては、「みんなを引っ張っていく」意識はありましたか?
大熊:全くなかったです。個性という意味では、舞台担当の先生に「俺の考えを超えた演技だった」と褒めていただいたことがあって、それは嬉しかったですね。
ーーそれは最高の褒め言葉ですね!
内海:落語の授業があるんですけど、完璧だったんですよ。
ーー見てみたいです! ちなみに、当時噺れたのは古典のネタですか?
大熊:なんだっけ……? 先生のお噺を完全コピーした記憶はあるのですが……。
杉本:講師の三遊亭圓窓師匠に、声優を辞めて、弟子になるように勧められていましたね。
ーーヘッドハンティングじゃないですか!
増元:これは、周りを引っ張る気質がありますね!
ーー三川さんが大熊さんのレッスンをご覧になって「ヤバい」と思ったのも、納得のお話でしたね……!
三川:私は約2年先輩ですが、「勝てない」と思いましたね。高校生ですごく輝いている様子を見て、どうしたものか……とも思いました(笑)。自分の尻を叩く良いきっかけになったので、ありがたかったです。
ーー内海社長は、どのような意図で三川さんに見学を勧めたのですか?
内海:下からの突き上げです。「すごい子がいるから、頑張って」と。
三川:そこから「大熊ちゃん」を意識するようになりました。
増元:ドラマがありますね。ライバルって、現実的に見るといて欲しくないけど、いると心強い存在ですから。僕にとっての益山みたいに、得難いものですよ。
ーー養成所を経て、みなさんはプロになられたわけですが、プロとして走り出した時の気持ちや思い出はありますか?
増元:最初は失敗だらけでしたね。一言しかないセリフを思いっきり噛んでしまって、10回以上リテイクを重ねたりしました。緊張で喉が閉まっちゃったんでしょうね。その状況から抜け出したくて思いっきり演技をしたら、衣擦れの音が入ったり……何をやっても上手くいかなかったんです。初めてのお仕事で「やらかした」と思いましたね。
ーー「やらかした」と思うと、余計に焦りが出たりしますよね……。
増元:本当にそうでした。人間って緊張するとこうなるんだ……と思いましたね。現場としては人がたくさんいるわけでもなく、事務所の先輩が一人いらっしゃるからむしろ安心できるはずなのに、それすら緊張の原因になってしまって。本来、5分もかからない仕事だったはずなんですけどね(笑)。
ーー当時の増元さんは、どのように乗り越えられたのでしょうか?
増元:一回休憩を挟んでいただいたんです。そうしたらスッと言えて、何とかなりました。すごく優しいディレクターの方だったんです。「今日、初現場だもんね?」と慰めていただいて、謝って帰りました。
デュオの授業でも、実際にスタジオ収録をすることがあったのですが、お仕事だと思うと1段階緊張のレベルが上がってしまいましたね。
ーー三川さんは、ご自身の初現場のことを覚えていらっしゃいますか?
三川:覚えています。4月1日にやった仕事で、「こんなにすぐに、一人で仕事をするんだ……!」と思いましたね(笑)。まだ生徒気分も抜けていなかった状態で、事務所所属の声優という立場に変わって仕事をいただけて。「仕事ってどうすればいいの?」「どう喋ればいいの?」「そもそも仕事ってなんだ……?」と、頭がこんがらがってしまって……(笑)。
ーー初仕事の緊張は、本当にすさまじいものがありますよね。
三川:これでお金をもらう、と考えると、どのくらいの準備が必要なのかと悩んでしまって。「もしかしたら、急に別の役をやることになるかもしれない!」と思って、主役のセリフまで練習したりして……。今ではあり得ないことだってわかるのですが(笑)。どんなことでも打ち返さなきゃと思っていたので、できる限りの対策をしないと不安でした。
増元:わかるなぁ……。
三川:ですよね! ただその現場には仲の良い先輩がいらっしゃって、いろいろと教えていただけたので、どうにか乗り越えられました。
ーードキドキが伝わってきました……! お芝居の方はいかがでしたか?
三川:用意したものは持っていけたかな、と思います。驚きの「えっ?」というセリフしかなかったのですが、色々なパターンを考えて練習して現場に行ったこともあって、リテイクはなかったですね。
ーーなるほど……。大熊さんはいかがでしょうか。なんだか悲しげな表情ですが……?
増元:さらっと仕事できたんでしょ?(笑)
大熊:とんでもない! 吹き替えが初仕事だったのですが、その時もパーテーションがある現場だったことを覚えています。
お仕事としては、テストも本番も一発OKだったのですが、個人的にとても悔しい思いをしたんです。「私はこの一回で100%の力を出し切れたのか?」と不安になってしまいました。
ーー確かに、瞬発力が必要なお仕事ですよね。
大熊:そうですね。一回だけで100%を出しきらなければいけないという心意気を、現場で学びました。何回もやらせてもらえないんだって。
増元:自分が演じたものが商品として世に出て聴けるようになるまで時間もかかりますし、最初の頃は客観視ができないんですよ。後から聴いて「あの時こうやればよかった!」という反省を半年くらい続けていましたね。自分の完成度を客観視できるようになるまで、時間が必要なんです。自分らしさをどうやって出すのかを考える時期は、みんな苦しいんじゃないかなと思います。
ーーその苦境を乗り越える瞬間、タイミングはわかるものなのですか?
増元:いやらしい話ですが、「次も呼んでもらえたら、悪くはなかった」ということですから、そういう経験の繰り返しだと思いますね。僕の場合、自分が演じたものはどうしても違和感を覚えてしまうんです。自分がやったことに対して「よくやった!」と手を叩きながら言いたいのですが、中々そういうわけにもいかないので……。その中で、同じ現場に呼んでいただけたり、別の作品に呼んでいただけたりすると、合格ラインにいることがわかる感じですかね。
ーーこのお仕事の楽しさを感じ始めたタイミングはありましたか?
増元:ずっと楽しかったですね。
三川:根本に楽しさがありますよね。
増元:そうだね。僕は始めたての頃、吹き替えのお仕事が多かったのですが、俳優さんとどれだけシンクロしたように見せられるかが勝負だと思っていました。テキストだけ読んでいても絵に合わない部分が出てくるのを、自分なりに試行錯誤することが楽しくて。「合わせにくいな」「このセリフとこのセリフが逆だったらな」と思いながらも、いただいた文章をしっかりとはめるという楽しさを見出してからは、「辞められないな」と思いましたね。
大熊:私は元々、自分のことがあまり好きではありませんでした。なので、自分ではない何者かになりたいと思っていたんです。そこで出会ったのが、声優のお仕事でした。
声優は、自分ではない誰かになって、その誰かの感情をお客さんに伝えて、共感してもらうお仕事だと思っています。私の演技を見聞きしてくれた方に感動を共有できる瞬間が美しいし、嬉しさを感じますね。そのお客さんの生活を彩れたんだな、と思って。
ーー成長の中で様々な思いがあるんだな、と感じました。このような成長を長く見守っていると、やはり感慨深いですよね。
杉本:プロになって順調に仕事をしている様子を見ると、本当に……頑張ってくれて良かったなって思います。