アニメ
『ふたきれ』監督・中西基樹インタビュー

告白ゴールの対極、“告白スタート”のラブコメ。純を通してリアルな恋愛を描くーー『恋は双子で割り切れない』インタビュー連載第8回:監督・中西基樹さん

純に決断を求めてはいけない

ーー本作は3人の様子を第三者目線で見守ったり、純目線で楽しむこともできますね。

中西:どう見るかは視聴者次第ではありますが、アニメの感想を見ていて、誰に感情移入するのかは結構人によって違うんだなって思いました。以前のインタビューで坂田さんもおっしゃっていましたが、純にはモノローグがないんですよ。僕自身、そこがこの作品の一番の特徴だと思っていて。

ーーこういった作品で主人公のモノローグがないのは珍しいことですよね。

中西:そうですね。第1話で琉実が「純は私の言いたいことを察してくれる」と言うんですけど、もうそれが純というキャラクターを最大限に表していて。人によっていろいろな見方をされそうなキャラクターではありますが、彼は彼でふたりと真剣に向き合っているんですよね。

最初に琉実を選んで那織を泣かせることがありましたけど、それは目の前のことに誠実に向き合った結果であって。ふたりが言われたいことを言ってあげることが彼にとっての“尽くす”ことであって、だからこそモノローグがないんですよね。

ーー行動で考えを示しているからこそ、モノローグが必要ないんですね。

中西:でも正直、スタッフの中でも純のどっちつかずな態度に賛否両論なところがあって……。僕としてもその気持ちはわかるんです。純が「俺はこうしたい」と言ってしまえば三角関係に決着がつきますし、言わないから関係がこじれているところはありますし。

でも純の誠意の形は、関係を長期的に考えた上で結論を出すのではなく、その瞬間瞬間、目の前の人が言ってほしいことを言ってあげることなんですよ。これはこれで一貫していますし、結局、琉実と那織はそんな純が好きというお話なんですよね。

ーーそもそも年相応な優柔不断さなのではないかなと思いました。

中西:そうかもしれませんね。やはり純というキャラクターには決断を求めてはいけないんですよね。むしろ三角関係ものの主人公って最終的な決断を求められがちですけど、実際の恋愛はそうではないと思うんです。AとBどっちも好きだけど、なんらかの事情で片方としか付き合えなくなったからそうする、ってことはよくあるはずなんです。そういう意味ではこの作品はリアルですし、告白がゴールのラブコメとは対極を行く“告白がスタート”のラブコメだなと。

ーーたしかに対極ですね(笑)。

中西:結局、誰を選ぶとかではなく、どうやってこの環境を維持していくのかがこの作品なんですよね。そこが純の特徴や魅力に繋がるんじゃないかなと僕は思っています。

ーー監督は流行りのラブコメ作品にも多数参加されています。今作においてなにか流行りを取り入れたりはしたのでしょうか?

中西:この作品はこれまでになかった設定があるわけではないので、特別なことはしていないです。先ほどのお話にもありましたが、この作品、タイトルだけ見ると双子のどちらかを選ぶ内容だと想像する人が多いと思うんですけど、実際は両方と付き合ってみた先にドロドロがあって。少し先まで見てもらえるときっとその意味はわかってもらえるはずですし、僕自身、「実際の人間関係は告白してバンザイ、では終わらないんだよ」というところは狙って描いています。

第1話にすべてが詰まっている!?

ーーここからは物語を振り返ったお話を伺っていきます。監督としてはどんな物語構成を想定していたのでしょうか?

中西:まず第1〜5話はひとまとまりで考えています。第1話で琉実と付き合う、第2話で那織と付き合う、そして第3話、第4話、第5話で一旦その関係を整理して、第5話でリセットするような構成になっていました。

ーー第5話で一区切りという構成だったんですね。

中西:そうですね。第6話から慈衣菜が登場して、季節は夏になることから、全体的に明るい雰囲気になるタイミングなんですよね。ただ、そこを抜けた後、終盤にかけてまた再び湿度は上がっていきます。

ーー思い入れの深いシーンはありますか?

中西:実はこの作品の第1話は全体を総括するようなことをポロッと言っているんですよ。琉実の「純は私の言いたいことを察してくれる」や、那織の「曖昧で柔らかく生ぬるい関係が大切」とか。あれはそのキャラクターの本質であり、この作品をどういうスタンスで見れば良いのかを提示していて。見返してみるとまた違った面白さがこの第1話にはあるんじゃないかなと思っています。

ーー視聴者の心を掴む仕掛けなどはありましたか?

中西:やはりスタンダードな作りではあるので、特別な飛び道具を用意していたりはしないですね。ただ、前半は琉実目線、後半は那織目線という構成は面白いんじゃないかなと。本編に至るまでの幼馴染としてのお話もギュッとまとまっていて、見ごたえのある内容だったと思います。

ーー第2話は那織とのデートを通して映画ネタがたくさん描かれていました。

中西:やはり『バック・トゥ・ザ・フューチャー』ですよね。そしてなによりも、デート中の那織がかわいかったです(笑)。

ーーギスギスも少なめでしたね。

中西:思い返すと平和な回でしたね。ただ冒頭、純と別れたはずの琉実が彼を起こしに来ていましたが、冷静に考えると「どの面下げて」と(笑)。

ーーフッたはずなのに、あれでしたからね(笑)。

中西:そうなんです。そういえば琉実が純のベッドの匂いを嗅いでいたとき、純が戻ってきて慌てているシーンがありましたが、実はあそこの琉実はスマホを逆さに持っているんですよ。

ーーへぇ!

中西:作画ミスではなく、焦って姿勢を戻したからああなったんです。細かい部分ではありますが、結構こだわった部分ですね。

ーーお次に第3話についてはいかがでしょうか?

中西:宮西哲也さんが絵コンテを描いてくださった回なんですけど、すごく独特のカット割りをしてくださって。宮西さんの個性が詰まっていますし、物語全体を通しても異色の回になったんじゃないかなと思います。視聴者の反応にも「アングルが面白い」という声が結構ありました。

ーー第3話は登場キャラクターが多い印象があります。

中西:一気に友達キャラクターが出てきましたね。純には森脇、琉実には麗良、那織には亀嵩がいる構図がハッキリしたんじゃないかなと思います。

ーーそして第4話、再び那織とのデート回です。

中西:演出の安川央里さんが非常に上手な方で、那織をかわいくしていただきました。ただ、デートをエンジョイしているように見えますけど、行き先は琉実とも行った葛西マリンパークという。ここをあえて被せた那織の行動が吉と出るか凶と出るか、みたいなドキドキがあったんじゃないかなと思います。

ーーそのデート中、那織のスカートが大胆に捲れたところが印象的です。

中西:あのシーンは白倉純さんという上手なアニメーターさんに描いていただきました。ほかにも那織のかわいいリアクションは白倉さんにお任せしています。

ーーあのシーンは事故でしたが、那織は色気を利用したアプローチをするところがありますよね。

中西:そうですね。ただ、ああいう言い寄り方って、実は断りやすいんですよね。

ーーあぁ!

中西:那織自身、それをわかっているんですよね。そもそも本気で純を口説くならほかに方法があるはずなので。

ーー先ほどの「関係を維持するため」というお話に繋がるわけですね。

中西:そうです。だから那織はバランス調整でああいうことをするんじゃないかなと。というのも琉実と那織は純と付き合いたいと思ってはいますが、それよりも3人の関係値のほうが大事なんですよね。だからこそ本当に純を口説けそうになったら怖くなってやめちゃうんじゃないかなと思いますし、第4話でその辺りの心情が見えてきたんじゃないでしょうか。

ーー第5話ではそんな3人の関係値に変化がありました。

中西:Aパートでは、純は手玉に取られていただけみたいなことを那織が言っていましたが、先ほどお話ししたようにこれは虚勢なんですね。あの会話中の那織は、純にどう思われてしまうのか、とか、そろそろ琉実との関係を整理しなきゃ、とかいろいろなことを必死に考えていて。そして今後、純と琉実に強がった結果、自分が苦しくなってしまう展開になってくるんですよね。

ーーそこは今後のお楽しみですね。続く第6話は新キャラクターが登場しました。

中西:慈衣菜が登場したことで作品の雰囲気がガラッと変わりました。ただ、やっぱり純、琉実、那織の絆が固すぎるので、彼女は恋愛レースを見守る立場となりそうですね。可哀想だけどかわいい負けヒロインという。でもすごく良い子なんですよね。3人の輪に無理矢理入ろうとはしないですし。

そういう意味では、この作品、本当に全員が良い奴なんですよね。自分の幸せより他人の幸せを考えちゃう子ばっかりで。ただ、そのせいで人間関係がぐちゃぐちゃになってしまうところがあるんですけど、その中で慈衣菜はある意味、美味しいポジションにいるんじゃないかなと思います。

あとこの回は、純たちの学校での日々が多く描かれていたんじゃないかなと。麗良や亀嵩といった友達たちの出番が増えていたりもするので、視聴者の方にとって一呼吸つける回になっていたら嬉しいです。あと、純の友達の坂口くんがしれっと登場していますが、彼のことはぜひ覚えていてください(笑)。

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