アニメ『狼と香辛料 MERCHANT MEETS THE WISE WOLF』第2クールOPテーマを歌うAimerさんにインタビュー! 「Sign」は“痕跡”があるからこそ深まっていく2人の関係性へフォーカスした楽曲に
2024年8月28日(水)に発売されたAimerさんの24枚目のシングル「Sign」。
表題曲は、2024年4月より放送スタートしているTVアニメ『狼と香辛料 MERCHANT MEETS THE WISE WOLF』の第2クールオープニングテーマ。孤独だった狼の化身・ホロと孤独だった行商人・ロレンス、二人の関係性や心情に寄り添うような楽曲となっています。
海外ワンマンライブツアーを経て、2024年10月からは全国10都市を回るホールツアーがスタートするAimerさん。
Aimerさんが原作『狼と香辛料』を読んで感じたこととは? 「Sign」やカップリング曲、それぞれに込めたメッセージなどお伺いしました。
ホロとロレンスの孤独感は私たちにも通じる部分がある
――今回、『狼と香辛料 MERCHANT MEETS THE WISE WOLF』第2クールOPテーマ「Sign」を制作するにあたり、原作の小説を読まれたとのことですが、どんな印象を抱きましたか?
Aimer:すごくおもしろかったです。私はいままでも中世ヨーロッパやその時代をモチーフにした世界観が舞台の作品に関わらせていただくことはあったのですが、こういう血のあまり流れないタイプの作品というのは初めてで。まずロレンスが行商人という設定がおもしろいですよね。作品を通して商人の考え方やコミュニケーションについて学びにもなりましたし、ホロとの関係性もエピソードを経るごとに変化していくので、読んでいて先が気になる作品でした。
――Aimerさんの音楽性と中世ヨーロッパ的な世界観の作品は相性が良い印象があります。『ヴィンランド・サガ』のEDテーマ「Torches」(2019年)もそうでしたが、北欧の音楽に近しい雰囲気を持った楽曲も多いですし。
Aimer:そう言っていただけると嬉しいです。抽象的な話になりますけど、私の歌声の雰囲気や、特に初期の楽曲は寒い感じがするので。もともとアイスランドの音楽が好きなこともあって、精神性としては通じるところがあるのかもしれないです。
――「Sign」もスケール感のあるメロディーとゆったりとしたテンポ感、ストリングスをフィーチャーした広がりのあるサウンドなどを含め、雄大な景色の浮かぶ楽曲に仕上がっていますが、『狼と香辛料』のどんな部分に寄り添って制作を進めたのでしょうか。
Aimer:私が担当する第2クールでは、主に原作の3巻辺りのお話、アマーティが登場することで、ホロとロレンスがすれ違って2人の関係性に亀裂が入りそうになるエピソードが描かれるのですが、そういう事件を通して絆はさらに深まりますし、2人の旅がさらに開けていく部分でもあるので、私もそこにスポットを当てて楽曲を制作しようと思いました。作品サイドからも「2人の関係性にフォーカスした楽曲」というリクエストをいただいていたので。
ただ、楽曲のテンポ感に関しては、2人が荷馬車で旅をしているお話なので、それに寄り添うのであれば、疾走感があるのではなく、歩くようなテンポがいいなと思って。プラスして2人が旅する壮大な景色が目に浮かぶようなメロディーとサウンドを意識して制作を進めました。
――旅の中で変化していくホロとロレンスの関係性を踏まえつつ、歌詞はどんなことを足掛かりに作っていったのでしょうか。
Aimer:原作を読んで印象に残ったのは、ホロが「独りぼっちはもうイヤだ」と言っていたり、ロレンスも行商人なので定住する居場所もないし、友達が少なくて「馬が喋れたらいいのに」とぼやくくらい、孤独感を感じているキャラクターということで。そんな2人が出会ったから、お互いかけがえのない存在になったんだろうなと思ったんですね。
2人は仲違いもするのですが、最終的に仲直りするのは、相手のことを信じているからで。作中では、ロレンスがホロのことを一瞬信じられなくなって不安になるけど、ホロはずっと相手のことを信じて動いている。それは、疑ってしまう瞬間はあったとしても、やっぱり繋がり合えているということを確かめ合う、ひとつの“痕跡”のような出来事だったと思うんです。良い出来事にせよ、一見すると苦い出来事にせよ、そういう“痕跡”があるからこそ深まっていくものがあることを感じたので、それをモチーフに歌詞を作っていきました。
――それでタイトルが「Sign」なのですね。
Aimer:仮にひとつ事件を乗り越えたとしても、生きている限りは山や谷があるわけで。『狼と香辛料』に限らず、現実の自分たちにとっても、思い返すとすごく嬉しい“しるし”もあると思うし、あるいは呪いのような“しるし”もあるかもしれないけど、それでもその中に大切にしたいものがあると思うんです。
人間というのは、どれだけ友達がいたとしても、ひとりで生まれて、ひとりでこの世界を離れていくものだから、そういう根源的な部分で、ホロとロレンスの孤独感は私たちにも通じる部分がある。そういう思いもありました。
――Aimerさんも、これまでのアーティスト活動や人生の歩みにおいて“痕跡”や“しるし”のようなものを意識することはありますか?
Aimer:すごくあります。それは形のあるものも無いものも、たくさんあって。それこそこの楽曲を作っているときも、私は音楽家なので、私の作った1曲1曲が誰かにとっての“しるし”になるよなと思ったんですね。だからこの曲も誰かにとっての“しるし”になればいいなと思いながら作りましたし、それ以外にも、いいもの・悪いものを含めたくさんの“しるし”が自分の中にあります。
私は悪い“しるし”も、自分の新しい“しるし”に繋がっていくものだと思うんです。その“しるし”がなぜついたのかを踏まえたうえで、新しい“しるし”に昇華したり浄化していくことが、自分の生きる意味にも繋がるくらい大きなことだと思っていて。むしろ逆に悪い“しるし”もないと、生きている醍醐味がないんじゃないかと思いますね。それってすごくポジティブな考え方ですけど(笑)。
――“しるし”となるべき思い出が何もない、無味乾燥な人生は寂しいですからね。
Aimer:でも、何もない人なんていないと思うんです。それぞれ生きていたらいろんな出来事があるし、誰かが“しるし”を負ったら、その“しるし”がきっかけで他の誰かにまた“しるし”を付けてしまうこともあると思うし。だから人というものは、それぞれがいろんなところに“サイン”を付け合うことをずっと続けながら生きているんだと思います。
――そういった悠久の時の流れと言いますか、人の繋がりの連鎖を感じさせるようなスケール感は、この楽曲の曲調や歌詞からも感じられるところで。
Aimer:そこは私も意識していました。この歌詞はちょっと俯瞰で見ている感じなんですよね。渦の最中にいる状態というよりも、いろんな絆や繋がりについて、ある意味、時系列から逸したところから歌っているイメージと言いますか。
――それは人間よりも遙かに長い時間を生きる「賢狼」のホロという存在に引っ張られた部分でもあるのでは?
Aimer:そうですね。ホロは不老不死ではないですけど、人間とは時の流れ方が全然違いますし、それが(ロレンスとの)仲違いの元凶にもなったわけなので。
私、小さい頃に手塚治虫の「火の鳥」を読んで、子供心にすごく怖くて印象に残っているシーンがあるんです。それは、主人公の男の人が不老不死になってしまって、周りの人がみんな死んでたったひとりになっても死ねないことに、後悔と絶望をして泣いているシーンで。
長く生きるというのは素敵なことのように見えるけど、終わりがあるということもまた大切なことだと思いますし、そういう部分も歌詞に反映されていると思います。
――これは自分の解釈になりますが、そのお話を踏まえてこの楽曲を聴くと、人間より長命なホロがロレンスと死に別れたあとの未来の視点と言いますか、かつてのロレンスとの思い出の“しるし”を大切に思い返す歌のようにも聴こえます。
Aimer:うんうん。『狼と香辛料』の結末がどうなるにせよ、その先のことを思ったら、どうしてもそういう想像をしてしまいますよね。人間は永遠じゃないので。どう捉えて聴くかは自由ですが、そう思って聴いていただけたら、この曲がもっと広がるなと思います。
――レコーディングではどんなイメージで歌われたのでしょうか。
Aimer:サウンドのスケール感としては、悠々と歌い上げるほうが合っていると思うのですが、言葉の内容としては切々としたものがあるので、歌も余裕をもって歌うのではなく拙さが残る感じ、自分の精一杯で歌っている感じで考えていきました。
孤独を抱えている2人が出会ったからこそ、お互いかけがえのない存在になったわけですけど、そういう相手を見つけてしまったことで、絶対に失いたくないという気持ちも生まれているはずなんですよね。そんな苦しさも表現したいと思ったんです。
――あえて“拙さ”を意識して歌うというのは、いままでの楽曲のアプローチと比べて、挑戦なり新鮮さがあったものですか?
Aimer:いままでのというよりは、最近の楽曲のなかでは新鮮味はあったかもしれないです。前のアルバム(2023年リリースの7thアルバム『Open α Door』)からいまに至るまでいくつかのシングルやEPをリリースしているのですが、こういう方向のバラードは自分の中では久しぶりだなと思っていて。
“拙さ”という意味では、「Sign」は楽曲の内容を含めて、デビュー当時の自分を思い出す感じがしたんです。自分が最初に歌い始めたときの気持ち、誰か聴いてくれる人に初めて出会ったときの感動が、ホロとロレンスが出会ったときの感動と似ているように思ったんですね。
自分はひとりだと思っていたのに、手を繋いでくれる人がいたということが、私にとってはすごく大きかった出来事で。だからこそ余計に、あの頃(デビュー当時)を思い出しながら歌った感じはありました。
この数年は楽曲によっていろんなアプローチで歌を考えることが多かったけど、この曲はアプローチとしても昔に近いというか。私の中の“拙さ”というのは、昔に近いという意味でもあるんです。
――その話からすると、デビュー当時のAimerさんは孤独を抱えていた部分があったと。
Aimer:そうですね。それに皆さんからのファンレターを読んでいると、私のファンの方は孤独を抱えている人が多いというのは、デビュー当時から感じていたことで。私の楽曲を見つけてくれる人はそういう人が多いと思っていたから、余計にホロを見てそういう部分を感じたのかもしれないです。
――先ほど、ご自身の作る楽曲自体が“しるし”になるというお話もありましたが、Aimerさんの抱えていた孤独とファンの方の孤独が、Aimerさんの楽曲を通じて繋がり合うという意味では、この「Sign」で描かれていることとまさにシンクロしますね。
Aimer:ですよね。シチュエーションは全然違いますけど、私もすごくシンパシーを感じていました。