『ATRI -My Dear Moments-』連載第9回:細谷佳正さん(野島竜司役)|小野賢章さん演じる主人公・斑鳩夏生が引き立つよう演じた竜司のお芝居へのこだわりとは
夏生と竜司の関係性が掘り下げられた第4話&5話については……!?
――物語を振り返る質問もさせていただければと思います。第4話と5話では学校に潮汐発電施設を作ることになりました。竜司の活躍が多いエピソードでしたが、ご覧になった感想をお願いします。
細谷:まだこの取材を受けている時点では拝見できてないんですけど、印象に残っているのは竜司の夏生に対する見方……みたいなものがすごく反映されていることです。
第4話の夏生と竜司のやり取りを見ていると、竜司はどちらかと言えば職人気質な現場主義で、自分がこれまで得てきた技術や知識に誇りを持っている。対する夏生は例えですけど、オフィスで仕事をするタイプで、理論上で可能なら危険があったとしても挑戦しようとする。
そんな夏生に竜司は実際の現場を知らないのに計算だけでわかったような気になるな、みたいなことを言う訳です。夏生に反対意見しか言わない竜司から、夏生にはあって自分にはない、学歴や頭の良さに対するコンプレックスみたいなものを色濃く感じました。
この時点での竜司の反対意見はそのコンプレックスからきているものだろうし、俗物的ではあるのですが夏生が間違っていてほしいと思っているきらいもありました。夏生が間違ってくれたら、自分が信じているものが正しいと証明されるから。夏生に負けたくない、自分だって負けていないんだという想いが竜司の中にあるんだろうなと思っていました。
――そんな竜司の言葉を受けた夏生が対立するのではなく、竜司のことを認めて協力していく流れは見どころでした。
細谷:あれは竜司が夏生に対して、一方的な人間性の決めつけをしていたからだと思います。不器用で感情が表に出やすい竜司みたいな役は、アニメでは賢くないキャラクターとして描かれることが多い。
でもそこには情熱があって、優しさと温かさがあるいい奴なんだよ、みたいな。
そう言う竜司みたいな人間からすると、冷静で大人びていて、論理的に物事を進められて、感情が表に出にくいから何考えてるかわからない夏生みたいな賢い人間って、何か嫌なんでしょうね(笑)。冷たい奴に見えるんだと思う。
夏生に対して、竜司は「島に対する愛がないだろう」とか、「そんなことを言うけれどお前は本土のエリートで俺たちを馬鹿にしているんだろう」みたいに、すごく感情的なことを言うんです。
でも話をしていく中で夏生は夏生なりに島の現状を良くしようと考えていることや、学校に電気を通すための作業を通じて、道筋は違えども自分の住む島やそこに住む人たちを愛していることを知る。そうやって自分と同じであることがわかったから、竜司も受け入れることができたんだろうなと思います。
――8話放送後になりますので、振り返ってみて気になったシーンも教えてください。
細谷:水菜萌に対しては、夏生に気持ちを伝えたほうが良いと言うし、夏生に対しては、アトリが初恋の人だと発覚して良かったという顔もする。中立ではあるけど、内心ではハッキリしてくれと思っているじゃないかと感じました。もしかしたら竜司は、想いを伝えずに後悔をした過去があるのかもしれないし、色んなことを想像できて面白いシーンだなと思いました。
――夏生に「俺のこと馬鹿だと思ってたんだろ?」と話すシーンがありましたが、むしろよく周りを見て気を遣えるキャラクターに思えました。
細谷:「俺のこと馬鹿だと思ってたのか?」のシーンも印象に残っています。あの明るい言い方でおそらく竜司は賢い人間なんだろうなという気がしました。本当に愚かだったら自分のコンプレックスを隠すために、ムッとしたりするだろうなと。でも竜司はそれを明るく言えてしまうから、夏生ほど大人びてはいなくても、竜司の中には少し精神的に成熟した部分があるんだろうなと感じましたね。
[取材&文・胃の上心臓]
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