P.A.WORKSの変わらない魅力と、新境地ともいえる挑戦とは? 『真夜中ぱんチ』編集・髙橋 歩さんインタビュー【スタッフ・声優インタビュー連載第11回】
『マヨぱん』の難しさはキャラの多さ!?
――制作にあたりメインスタッフの間ではどのような話し合いが行われていましたか?
髙橋:メインスタッフ間の話し合いに、編集が入ることはあまりないですね。編集現場で、監督と演出と僕とプロデューサーで話をすることはありますけど、事前に「編集はこういう方向でいきましょうか」みたいなことを、メインスタッフがみんなで集まってすることはありません。監督からは「テンポは掛け合いで速くしてほしい」とか「シリアスなシーンはしっかりシリアスに」という説明はありましたが、こちらは監督に見せて意見を伺う感じで、割と自由にやらせていただきました。
――監督とはどのようなやり取りを行っていたのでしょうか?
髙橋:本間さんとは長くやらせていただいているので、お互いに気を遣わずに言えるようになっていると思います。元々ないような提案をこちらからしても「それ、いいですね」と採用されたりと、本間さんは割と任せてくれます。
僕のほうでテンポを詰めたものを見ていただいて、ギャグとかシリアスの間が必要な場合は監督から「もう少しこうしてもらえますか?」というオーダーされることもありますが、基本的には僕がつないだものでOKをいただくことが多かったので、やりやすかったですし、とても楽しい作品でした。
――この作品では、ギャグやコメディシーンと、シリアスなシーンのギャップもありますが、こういうメリハリがある作品はやりやすいものなのでしょうか?
髙橋:これくらい極端だとやりやすいですね。普通のドラマにちょっとギャグが入ってくる場合は「作品のテイストにはたしてあっているのだろうか?」とか、間について考えることがありますが、『マヨぱん』は極端に見せられるし、おもしろいですね。キャラがセリフを言っている途中でもバッサリ切ったり(笑)。そういうことも許される作品……というか、許しているのは本間さんですけど(笑)。
――時々キャラのセリフがブツ切りになっているシーンがありますが、そういった部分も髙橋さんの裁量なのでしょうか?
髙橋:脚本、コンテの段階からそういう想定になっているものもありますが、セリフのブツ切りは僕がやることも多いですね。僕が好きなこともあって(笑)。
――苺子のセリフが切られたところも絶妙なタイミングで。
髙橋:もちろん、作品としてテンポを良くするために切ったものはありますが、そういうのは楽しいですよね。せっかく声優さんがしゃべってくれたのに(笑)。
――この作品の作業をしていく中で難しかった点や苦労した点はありますか?
髙橋:キャラクターが多いので、1つのカットの中で複数の人がしゃべるシーンは苦労しましたね。キャラクターが多いと、それぞれの感情のラインを作っていかないといけないので、いろいろと考える部分が増えてきますから、そこは結構悩みました。真咲が主人公という立ち位置ですが、マヨぱんのメンバーみんなにも主人公みたいな要素があるので、そこは大事にしたいなと思いました。
同席していた橋本真英プロデューサー(以下、橋本):第8話では、裏にまわすセリフとか大変だっただろうなと思いました。
髙橋:ステージ上のゲームのやつだよね。すごく大変だった(笑)。「だるまさんが転んだ」をやっている間に、いろいろなキャラがしゃべっているけど、ステージ上ではリアルタイムで「だ~る~まさんが~」と言っているから、だるまさんが転んだにならなくなっちゃうので、どうセリフの裏にまわすのかに苦戦しました。コンテの段階では、セリフと「だるまさんが転んだ」が分離されていたけど、「だるまさんが転んだ」というゲームをシームレスに見せている中で、どうセリフを入れていくのかは悩みました。
――他にも、特に編集にこだわられたところがあれば教えてください。
髙橋:真咲が動画撮影を通して、あるキャラクターと向き合うシーンです。コンテを「BuddyDaddies」などの作品で監督をされていた浅井(義之)さんが描かれていて、ものすごくいいコンテだったんですけど、コンテの段階よりもカメラを通してのアングルを編集で増やしました。
カメラ越しの会話にしてあげたほうが真咲に感情移入して見られるんじゃないかという考えがあったので。動画投稿サイトを題材にしているアニメですけど、基本的にはドラマじゃないですか。でもその題材を入れている以上、カメラ越しだったり、パソコンのモニター越しという絵作りがあったほうが、そこが強調されると思っていて。それを一番やったのがそのエピソードです。
――撮影シーンだけでなく、キャラクターが編集した動画が登場するのも本作ならではかと思います。第7話ではりぶが編集した動画も出てきますが、慣れていないぎこちなさの感じは髙橋さんの編集によるものなのでしょうか?
髙橋:ある程度の指示はあるのですが、「ここはもうちょっとテロップが出るまで間があったほうがうまくいってない感が出るんじゃないか」などは割と編集でやっています。特に(第7話の)「解散します」のシーンはかなり編集で尺を調整しています。極端に遅くすることで、うまくいってない様子を表わせればと思っていました。
デジタル編集はやりやすくなった半面、作業量も増加
――ちなみに髙橋さんが編集のお仕事をされるようになったのはフィルム時代からですか? デジタルになってからですか?
髙橋:フィルムもやってましたよ。僕がこの仕事を始めた頃は、他社の作品になりますが、『ポケットモンスター』はまだフィルムでした。実写もやっていたので、フィルムで完パケすることもできます。
――フィルムの場合は、ハサミで切らないといけないので、緻密で手間的にも大変そうですね。
髙橋:フィルムでは今みたいな編集はできないですね。切るのも大変だし、音を付ける作業も、デジタルだと音を付ける位置に印を付けたり割と簡単にできますけど、フィルムの場合は直接デルマ(別名:ダーマトグラフ=紙巻の軟質色鉛筆)で線を引いて、それに合わせてセリフを言ってもらわないといけなくて。
物理的にデジタルはデータの移動なので、手を入れるカット番号を検索するのが簡単ですが、フィルムの場合は「カット250見せてください」と言われたら、そこまでフィルムを巻いて探さないといけないので、時間がかかりますね。
――では今のデジタルでの編集はかなりやりやすくなったんでしょうね。
髙橋:やりやすくはなりましたが、デジタルになった分、編集でやる作業も増えました。例えば撮影でミスをしたらフィルムだと直しがききませんが、デジタルでは、線撮(コンテやレイアウトなど色が付いていない素材。アフレコに映像が間に合わないと線撮で収録することが多い)を作った時に、たまにちょっと動きのタイミングが違っている場合があって。デジタル上でキャラのところだけ切り抜いて移動させたり、口パクが合わない場合もこちらで調整できるようになりました。
フィルム時代であれば録り直ししなければいけなかったこともデジタルだと編集でできるので、作業的には増えていますが、もう20数年その状況なので、当たり前になっています。