『キングダム』信や王騎たちが熱い戦いを繰り広げている時、日本は何をやっていた? 世界は? 今さら人に聞けない、『キングダム』の世界史、調べてみました!
世界では何をやっていたのか?
今度は、世界史を調べてみます。
ローマ:「ポエニ戦争(前264〜前146年)」共和政の最後
ローマは、カルタゴと3度にわたる「ポエニ戦争」のさなかです。
カルタゴというのは、ローマから地中海を挟んだアフリカ北岸の国で、現在のチュニジア北部です。もともとは、フェニキア人の植民都市だったのですが、この頃は地中海貿易により本国より栄えていました。
この戦争は、地中海の覇権を争う戦いだったのです。
では、「ポエニ戦争」時代のローマとは、どのような状況だったのでしょうか?
ローマといえば、ヤマザキマリ先生の『テルマエ・ロマエ』が真っ先に思い浮かぶ方は多いのでは? しかし残念、こちらの舞台は後130年代なので、「帝政ローマ」の時代です。「ポエニ戦争」は、『テルマエ・ロマエ』より約300年前の「共和政ローマ」の時代の出来事になります。
「ポエニ戦争」時の「共和政ローマ」の様子はというと、貧富の差が激しくなり“ローマたるもの”にほころびが生じている状況だったようです。ローマ共和政の原理「平等な政治参加の権利」が、たてまえにすぎなくなっていたのですね。
そして、このほころびは、3回にわたる「ポエニ戦争」でより広がることに。結局、この後ローマは「内乱の1世紀」となり、共和政は消え去ります。
ちなみに、中国の歴史書に残されている、ローマ帝国を表わす文字は「大秦」です。
エジプト:プトレマイオス朝(前304〜前30年)、古代エジプト最後の輝き
プトレマイオス朝エジプトは、プトレマイオス2世の頃(前285-前246年)の時が絶頂期。彼が建てさせた「アレクサンドリア図書館」には、古代から引き継がれた10万点とも40万点ともいわれる所蔵書があったそうです。
しかし、ローマが地中海の覇権を握っていくにつれ、エジプトは衰退の一途をたどります。
『キングダム』の時代より、少し後の話になってしまいますが、プトレマイオス朝最後の王は、あの、クレオパトラです。
インド:マウリヤ朝(前317頃〜前180年頃)、仏教
インドは、全盛期、第3代アショーカ王(前268頃〜前232年頃)の時代です。アショーカ王は、「万人が守るべき理法(ダルマ)」による統治を理想としたそうです。これって、政のとった法家思想と少し似ていませんか?
アショーカ王は、仏教保護に熱心で周辺国に広めたことでも有名です。アショーカ王の死後、仏教はさまざまな宗派に分かれていくのですが、まずは大きく、上座部(じょうざぶ)と大乗(だいじょう)に分派。後者の大乗が、インド北部から中国を通って、6世紀頃に日本にたどりつきます。
※上座部仏教とは、出家者が修行により己の解脱を目指すもの。現在のスリランカ、タイがこちらの系統。
シルクロード
『キングダム』世界の北にいた遊牧騎馬民族が、匈奴(きょうど)です。国としてまとまっているわけではなく、部族ごとに移動しながら暮らしていました。
史実だと、秦の中華統一を果たした後に、政は蒙恬(もうてん)に、匈奴を北に押し上げさせ、長城の建設にあたらせています。
※蒙恬は、蒙驁(もうごう)の孫で蒙武(もうぶ)の子。作中では、信の良き友でありライバル。
匈奴と中華世界の西にあった国々が、大月氏(イラン系の国)、フェルガナ(イラン系の国)、バクトリア(ギリシア系の国)です。これらの国々は、シルクロード貿易を担う中継貿易国家として大変栄えました。
この国の人々について、具体的な出来事や人々の常識がどのようなものだったのかは、わかっていません。
パルティア(前248頃〜前226年)は、現在のシリア・イランの地域にあった国。こちらもシルクロード貿易で栄えました。中国史書での表記は「安息」です。
宗教はゾロアスター教で、中国の史書では「拝火教」と記されています。この宗教は、世界で一番古い宗教といわれています。
歴史の解像度は「文字記録が残っているかどうか」
ここまで、日本と世界の「前245から前221年」付近を調べてみましたが、“中国とローマ及び近辺は詳しい歴史がわかるけれど、あとはよくわからない”というのが正直なところです。
「文字記録が残っているかどうか」
やはり「文字記録が残っているかどうか」で歴史理解の解像度が全然違うのですね。
秦の文字資料は、司馬遷『史記』の他にも、当時の行政文書や一役人の日記まで出土しています。素直にすごいと思いつつも、世界的にみると、これって特異なことなのでは? とも思います。
『キングダム』はフィクションだけどノンフィクション??
もちろん、『キングダム』は歴史書ではないですから、すべてが史実どおりでないことはわかっています。とはいえ、『キングダム』世界の大枠は、史実に沿っているように思われます。
信が王騎の矛を受けとったのは前244年。
この年、スパルタではアギス4世が父の後を継いで王になる、ペロポネソス半島のアカイア同盟がエジプトのプトレマイオス3世を支持、という出来事が起きています。
『キングダム』はフィクションなのですが、ノンフィクションとして教科書の歴史年表に加えたい! そんなふうに思うほど、戦国時代の解像度を上げてくれる作品ではないでしょうか。
中国の歴史というとみんな大好き『三国志』でしたが、もはや今は『キングダム』と叫びたい気持ちです。わかって下さる方がいらっしゃると嬉しいのですが、いかがでしょうか……。