メロディ、歌詞、衣装、MV……妖精夜行で生まれた数多の魅力を内包し、参加者と共に作り上げた珠玉の表題曲――短期連載「はぐれ妖精の妖精夜行見聞録」第2回:悠木碧さんインタビュー【中編】
2023年9月、悠木碧さんの新たな音楽活動が始動しました。同時に、悠木さんとファンがコミュニケーションを取りながら一緒に音楽を育てていくDiscordコミュニティ「妖精夜行」が設立。参加者は、様々なトピックの会話を楽しんだり、時には悠木さんによるラジオやゲーム配信などに参加して、この1年間を過ごしていきました。
2023年12月に開催されたクラウドファンディングも大成功。「妖精夜行」設立から1年を迎えようとする2024年8月には、ついに、表題曲「妖精夜行」を含めた新曲5曲を収録したCDがファンの手に渡りました!
しかし、当初の予定通り「妖精夜行」は開設から1年を迎えるタイミングで解散。まだまだイベントは予定されていますが、一旦の区切りを迎えてしまいます。
そこで、「妖精夜行」の様々な思い出を残すべく、「はぐれ妖精の妖精夜行見聞録」と題して、今回から短期連載がスタート!
第2回は、悠木さんが作詞を手掛ける表題曲『妖精夜行』について。「妖精夜行」というコミュニティやDiscordに関するワードを落とし込んだ歌詞をはじめ、妖精夜行の持つ世界観をふんだんに落とし込んだ衣装、MVについてもお話いただきました。
前編はこちら
森(悠木さん)からのメッセージを込めた表題曲『妖精夜行』
――アルバムCDの制作を目的とした「妖精夜行」のクラウドファンディングは開始初日で達成。第2目標のMusic Video制作、さらには超過分を衣装製作のグレードアップに充てたりと、多くの妖精(ファン)の皆さんが支援・参加される大プロジェクトとなりました。
悠木碧さん(以下、悠木):Discordのコミュニティが中心のひっそりとしたクラウドファンディングではありましたが、それでも1日で達成したのは、すごい熱量だと思いました。もともと、みんなからグッズがほしいという声が上がっていた中、どう実現しようかと考えていたところ、妖精たちの意見にもあった「クラウドファンディングを実施して、CDに付属する形で作ってみたら良いんじゃないか」という話にまとまって。
オカリナを含めほとんどのグッズがみんなからの声にあったものだったので、こちらからの精一杯の気持ちとして作りました。「妖精夜行」は電子の宴ではあるものの、形に残る物がみんなの手元に渡ることになって良かったなと思っています。
今回、妖精(ファン)のみんなは共同開発者でもあるんですよね。手元に届いたら、私と一緒に感動を分かち合えるんじゃないかなと思っています。オカリナ以外にも、名刺ケースは「妖精同士で名刺交換のごっこ遊びができるんじゃないか?」という意見を取り入れていて。ほかにも、アクスタはお出かけに連れて行って、一緒に写真を撮ることができるんじゃないかなって。
――オカリナを手にした妖精さんはリリースイベントで演奏するとか。
悠木:(楽曲の)『妖精夜行』のオカリナの部分を吹いてもらいます。「妖精夜行」のコミュニティにはそのための切り株(スレッド)があって、中には今から緊張している妖精さんもいるみたいで(笑)。私としては本番がすごく楽しみです。
――グッズ制作において妖精さんたちの意見を取り入れているというお話でしたが、それは音楽活動にも?
悠木:今回のリード曲の『妖精夜行』は私が作詞を手掛けていることもあり、私の中の「妖精夜行」の世界観のイメージに加えて、コミュニティ内の実際の出来事を歌詞に盛り込んでいます。妖精夜行に通っている妖精さんは、曲を聴いて「お!」となる瞬間があるんじゃないかなと。<ヒトデナシノアカシを誇って守って>なんかは、“「妖精夜行」に入るハネナシは人ではなくなるから「ヒトデナシ」になる”という言葉遊びをしています。
あと、“Discordあるある”もたくさん入れています。<ピザは持ってきたよね?>はDiscordに登録したときにランダムで表示されるメッセージで、<あなたはだあれ?>もDiscordに入るときに聞かれる言葉なんですよ。
――<ヒトデナシ>もそうですが、「妖精夜行」ならではの造語も散りばめられていますよね。
悠木:<手続き 入森>の「入森」は「妖精夜行」で生まれた言葉ですよね。みんなに気付いてもらえるような仕組みをいろいろなところに散りばめています。
――<ハネナシは蹴っ飛ばしちゃえ>みたいに、どこか不穏なワードも印象的です。
悠木:妖精にとってのハネナシは外の世界の自分のことで、他の人間に見られるための姿なんですね。そんなハネナシが「妖精夜行」の世界にやってくることで、“ガワを脱ぎ捨てて、本来の自分に戻ることができる”というイメージです。みんなには「ハネ虐」と言われたりもしますが(笑)、ハネナシのことが嫌いなのではなく、「この森では自分の本心のままでいよう」という意図を込めています。
あと「妖精夜行」はごっこ遊びをテーマとしていますが、「実はなりきっているほうが本当の自分かもね」みたいなメッセージも含んでいたりもします。
――「妖精夜行」の世界観が詩や音楽で再現されていて、この企画やコミュニティを知れば知るほど面白くなる曲だと思いました。
悠木:全体的に、可愛くもあり、不気味でもあるという私の好きな世界観になりました。勧誘はしてくるけど、出ることは許されないような怖さがありつつも、「ようこそ、いらっしゃい」とか、「あなたも、あなたも、みんな妖精になるわよ」みたいな曲になれば良いなと思いながら制作していました。
――曲としては<もう泣かないで>から<Hello! World!>までの勢いが特徴的ですね。
悠木:曲がかっこよくなるところですよね。ちなみに、間にある<ファナティック>は「ファン」の語源であるとともに、「狂信者」という意味でもあるので、妖精さんたちに「最初から君たちは狂信者でしょ?」と問いかけているような意味も含んでいます。
今回、歌詞はもちろん、音にもこだわって作っていただいたので、何度も聴いて、いろいろな音を探してほしいです。
――メロディは雄大な自然を感じさせつつ、先ほど悠木さんがおっしゃったように、どこか不気味さもあるような仕上がりですね。
悠木:今回の5曲とも、bermei.inazawaさんという作曲家さんにお任せしています。私がデビューしたときにお世話になった方でもあり、聴いたことのないメロディが重なる世界観みたいなものが何年経っても忘れられなかったので、またお願いしました。自分が企画している「キメラプロジェクト」でbermei.inazawaさんに作曲をお願いした際も、作品の設定に沿いつつ全く異なる音楽を作ってくださって。
制作にあたって、最初に『妖精夜行』から作っていただきましたが、聴いたときは「何年経っても新しいものが出てくるんだ、すごいな」と。他の4曲も、それぞれ表情が違っていて感動しました。
森のキャラデザが想像できないように
――レコーディングについても伺いたいのですが、『妖精夜行』は伸び伸びとした曲調でありながらも、ボーカルのテンポはすごく速いように感じました。
悠木:すごく難しかったです。AメロやBメロ、サビあたりは意外と平気なんですけど、<もう泣かないで>辺りから「これって何拍子!?」と(笑)。速くなったり、遅くなったり、みたいな物理的に観測できる差であれば対応できるんですけど、感覚とニュアンスによる変化みたいなものは、曲と心をひとつにしないと合わせられないところがあって。
――レコーディングに挑むにあたっては、どんなイメージを持たれていたのでしょうか?
悠木:歌っている側のキャラデザが想像できないような感覚でしょうか。「妖精夜行」での私は“森”と呼ばれているんですけど、姿がわからない生き物だからこそ、最初は性別不詳の状態で歌っていて。そこから中盤にかけて突然人物が変わる瞬間がやってきたと思ったら、また最初の人物に戻ってくるようなイメージです。あとは妖精の実態の見えなさを感じてほしいと思いながら歌っていました。
――実態の見えなさですか?
悠木:そもそも「妖精夜行」における妖精って、ティンカー・ベルのような妖精ではなく、その土地に根付いた妖精といいますか。妖精の森の近くに人間の村があって、その村では「あの森にひとりで行ったら妖精にされてしまう」と言い伝えられているようなイメージなんです。だけど、人間にそう思われていても実際は永遠に遊んで暮らせる場所でもある、という実態の見えなさを感じてほしかったんですよね。
――それらの世界観を膨らませて歌われたのですね。
悠木:そうですね。あとはやっぱり、みんなにオカリナを吹いてもらいたいパートがあるので、ノリノリでテンポ良く歌えたら良いなと思っていました。