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夏アニメ『逃げ上手の若君』諏訪頼重役・中村悠一が感じたアニメならではの演出への挑戦

時行を本来の時行以上に大きく見せる行動が「逃げる」というのが面白い|TVアニメ『逃げ上手の若君』連載第12回:諏訪頼重役・中村悠一さんインタビュー

『魔人探偵脳噛ネウロ』『暗殺教室』を手掛けた人気作家・松井優征先生が描く歴史スペクタクル漫画『逃げ上手の若君』がTVアニメ化。2024年7月よりTOKYO MX・BS11ほかにて放送されました。

本作の主人公は、信頼していた幕臣・足利尊氏の謀反によってすべてを失った北条時行。時行は逃げ落ちてたどり着いた諏訪の地で仲間と出会い、訪れる困難を「逃げて」「生きて」乗り越えていきます。

アニメイトタイムズでは、本作の魅力を深掘りする連載インタビューを実施。連載のラストは諏訪頼重役・中村悠一さんにお話を聞きました。オンエアを見て、特に色彩の美しさに目を奪われたという中村さん。アフレコ時のエピソードも交えながら、アニメならではの演出に挑戦している本作の面白さを語っていただきました。

 

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逃げ上手の若君
時は西暦1333年、武士による日本統治の礎を築いた鎌倉幕府は、信頼していた幕臣・足利高氏の謀反によって滅亡する。全てを失い、絶望の淵へと叩き落とされた幕府の正統後継者・北条時行は、神を名乗る神官・諏訪頼重の手引きで燃え落ちる鎌倉を脱出するのだった…。逃げ落ちてたどり着いた諏訪の地で、信頼できる仲間と出会い、鎌倉奪還の力を蓄えていく時行。時代が移ろう大きなうねりを、「戦って」「死ぬ」武士の生き様とは反対に「逃げて」「生きる」ことで乗り越えていく。英雄ひしめく乱世で繰り広げられる、時行の天下を取り戻す鬼ごっこの行方は―――。作品名逃げ上手の若君放送形態TVアニメスケジュール2024年7月6日(土)〜2024年9月28日(土)TOKYOMX・BS11ほか話数全12話キャスト北条時行:結川あさき雫:矢野妃菜喜弧次郎:日野まり亜也子:鈴代紗弓風間玄蕃:悠木碧吹雪:戸谷菊之介諏訪頼重:中村悠一足利高氏:小西克幸小笠原貞宗:青山穣諏訪盛高:石黒史剛市河助房:山本高広瘴奸:東地宏樹スタッフ原作:松井優征(集英社「週刊少年ジャンプ」連載)監督:山﨑雄太シリーズ構成:冨田頼子キャラクターデザイン:西谷泰史副監督:川上雄介プロップデザイン:よごいぬサブキャラクタ...

 

前回はこちら

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監督は人間の感情ラインを表側に引きずり出したいんだろうなと捉えました

――アニメ最終回が放送されました。物語のなかで色々な出来事がありましたが、振り返ってみて、中村さんが印象に残っているエピソードを教えてください。

諏訪頼重役・中村悠一さん(以下、中村):印象深いのは第一回ですね。特に頼重と時行が馬に乗って鎌倉から脱出するシーン。松井先生の描く作品は絵の力が強く、そのイメージに引っ張られがちなのですが、キャラクターたちの中にはしっかり人間の感情ラインがあるんですよ。

馬に乗って鎌倉から脱出するあのシーンは、自分自身が前を向いているのか、振り返って悔しがっているのか、色々と混ぜこぜになった時行の感情の表現の仕方や二人の距離感にこだわって、何度も録り直しをしました。主に時行へのディレクションが多かったですが、あのシーンのアフレコで、監督は人間の感情ラインをだいぶ表側に引きずり出したいんだろうなと僕は捉えたんです。

 

 

――アフレコを通じて、方向性が分かったというか。

中村:そうですね。方向性がはっきりと提示された気がして面白かったですし、第二回以降はこういう形で自分もお芝居していかねばと感じました。あとは、アフレコ時の絵の仕上がりも印象的でしたね。まだ100%完成していた訳ではありませんでしたが、それでも相当力が入っているということは伝わってきたんです。実際のオンエアを見たときには、その絵がさらにブラッシュアップされていて驚きました。

――実際、第一回放送後の反響はかなりのものでした。

中村:僕の周りだと、歴史好きの友達が本作を「面白い」と言っていました。歴史ものが題材の作品は決して少なくないとは思いますが、この時代を描く作品は珍しいじゃないですか。

――しかも味方側として描かれているのが、北条という。

中村:ですね。史実に基づいてストーリーが展開していくなかで、北条側に視点が置かれているというのも、歴史好きの方が本作に興味を持ってくれたポイントだと思います。一方で、例え話をするときは、現代のことに置き換えて説明している場面もあるじゃないですか。ああいうところは、歴史が現代に繋がっていることをメッセージとして伝えているようにも感じます。松井先生なりのメッセージの入れ方が面白いですし、上手だなとも思いました。

――アニメの絵がブラッシュアップされていたというお話もありましたが、実際にオンエアを見ての感想を改めて教えてください。

中村:すごくいいなと思ったのは色彩ですね。青空が本当に綺麗なんですよ。あの時代はビルもないですし排ガスもないから、そりゃ空も綺麗で広く見えるはずなんです。ただ、それを制限された画角で表現するのは、かなり大変だと思うんですよね。何かしらの工夫をしなければいけないんでしょうけど、それがしっかりとできていて、空が映る度に綺麗だなと感じていました。

 

 
こういった演出をはじめ、本作はアニメとして見やすいものを作るという挑戦をしている作品だと感じています。その代償として、アフレコがめちゃくちゃ長期にわた渡りましたが(笑)。でも、ただ収録を先延ばしにしていた訳ではなくて、その間にコンテや演出をスタッフの方々が必死に練っていたんだと思います。その結果が、第一回の反響にも繋がったんだと思いますね。

――お話を聞いていて、アニメはって原作の面白さをそのまま生かすということももちろん大事ではあると思いますが、それをどう見せるのかという演出の部分も、すごく大切なんだと改めて感じました。

中村:大切だと思います。漫画って、基本的には連載されている雑誌を買うか、コミックスを買って読むしかないんです。つまりは、自分から動かないと読むことがほとんどない。一方でTVアニメは、何となく流れていたものを見る方もいるという意味で、一方的に与えることが可能な媒体な訳ですよ。そうなったときに、どう見せるか考えてカスタムするのは、とても大事な気がします。

 

頼重は時行にとっての父親のような一面がある

――アニメを通して、演じる頼重の印象は変化しましたか?

中村:大きく変わることはありませんでしたが、演じているときに監督・音響監督さんから、ある意味で時行にとっての父親のような一面があるというニュアンスのディレクションがあったんです。原作を読んで僕は頼重を「導いていく人」と捉えていたのですが、彼のポジショニングって、それだけじゃないんですよね。

時代が違うとはいえ、あの年齢の子供がいきなり一人ぼっちになったなら、そりゃ頼りたいものがある訳で。仲間という頼りももちろんありますが、彼の心の逃げ道として父親のような頼り方ができる存在も必要なんだと、ディレクションを受けて感じました。そこからキャラクターのアプローチの仕方を修正したんです。

 

 

――親心というか、親みたいな愛情を時行に向けている。

中村:そうですね。最初に原作を読んだときは、ビジネスライク寄りの愛情なのかなと思っていました。実際、スタートはそういう気持ちだった気もしますが、だんだんと時行に惹かれたんだと思います。

――物語が進むごとに、徐々に愛情が深くなっている。

中村:そうだと思います。第一回や第二回の段階では、どちらかと言うとまだ「逃がしたうえで、担ぎ上げて鎌倉を奪還しよう」という気持ちのほうが強い気がします。同じくらいの立場にいる者なら、彼じゃなくてもいいくらいの気持ちだったかも。ただ、実際に時行と会って話してみて、彼の人柄に惹かれていったんだと思います。

――先ほどディレクションのお話もありましたが、本作は時間をじっくりかけて収録する現場だったとお聞きしました。

中村:確かに、収録に時間がかかる回もありましたね。それは、ダラダラとしていた訳ではなく、アフレコ現場で生まれるものがあるからという時間のかけ方だったと感じています。

――亜也子役の鈴代紗弓さんは、1行、1行レベルでディレクションしてもらうときもあったとお話されていました。

中村:例えば2行のセリフがあったとしたら、「1行目はこれが伝えたいけれど、2行目はこういうことが言いたいんだよね。だから、1行目と2行目で言葉の伝え方を切り換えてください」というディレクションがありました。セリフを感情任せに言うのではなく、制御を入れてやって欲しいという感じでしたね。

――なるほど。

 

 
中村:あとは戦いに近いシーンのときは、「常に気を抜いたら死ぬという危機感を持ってセリフを喋ってください、リアクションを取ってください」というディレクションもありました。バカな話をしていたとしても、明日は死ぬかもしれないという何かを感じさせる表現を入れて欲しいというのは、死と隣り合わせの時代を描く作品ならではですよね。現代劇の高校生の物語で、明日死ぬかもという危機感を持って喋るキャラクターなんて、たぶんいないと思います。時代背景を考えたうえでの言葉の紡ぎ方も大事にしている作品でした。

――あの時代は、宴会をやっているときに命を狙われる可能性もありましたからね。

中村:あり得ますもんね。いま目の前にある飲み物はマネージャーからもらいましたけど、マネージャーが僕を殺す気なら、これに毒を入れているかもしれないじゃないですか(笑)。実際、あの時代はそういう警戒心を持っていたり、意識を張り巡らせたりしなきゃいけなかったんだと思います。

 

(C)松井優征/集英社・逃げ上手の若君製作委員会
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