『ATRI -My Dear Moments-』連載13回:加藤誠監督|「最終回まで見てくださるみなさんの反応を楽しみにしています」
ラストシーンのアトリにはある秘密が……!?
――終盤のストーリーについて。第10話は夏生とアトリの関係性がまた違ったものに変わるターニングポイントでした。また、本放送時にはCMが入らないといった試みもあったと記憶しています。このエピソードの制作時の裏話もお願いできれば幸いです。
加藤:アトリのマスターが夏生の母・詩菜だった頃に一度回収されて別れてしまうエピソードがあったと思うのですが、原作をプレイした時に「アトリって良い意味で“ただいま”ができてないよな」と感じました。だからこのエピソードではスタートラインに立つようなイメージで、一度アトリを“おかえり”って迎えてあげなきゃいけないなと。夏生とアトリが改めて同じレールに立つので、そのような意識でシナリオから丁寧に作っていきました。
――アトリが関わる人によって変化していく様が表現されていたと思います。第10話の収録では演じる赤尾さんとどのようなやり取りがありましたか?
加藤:第10話のアトリは段階を経るごとに喋り方が変わるので、当時の彼女を表現するのは難しかっただろうなと思います。また、アトリのバックエピソードでもあるので、この時の心情はアフレコ現場でかなり赤尾さんと話し合いました。ひとつひとつの台詞のニュアンスが難しいので、その都度「こういうトーンで合ってますか」と質問してくださって、それに答えながら一緒に作っていきました。
――また、第10話終盤に夏生とアトリが出会った丘に潜水艇で向かったシーンは夏生の成長が伺えました。あのシーンについてもお話いただけますでしょうか?
加藤:あそこは回想表現で現在と過去を行ったり来たりさせていて、単純なホワイトインのものではなくひと繋ぎにしたかったんです。僕の得意分野だと自負しているので、その良さを活かしつつ観客席から舞台作品を見ているような画を思い浮かべながら制作しました。過去なんだけれど目の前に存在しているものみたいな。過去と未来を繋いだように感じるシーンにしたかったんです。
――オープニングを飾った「あの光」も良い曲でした。以前、監督ご自身で秋元康さんに歌詞を発注したというお話を伺ったことがあります。
加藤:アニプレックスさんのご厚意で実現しました。秋元さんが監督の意見を聞きたいとおっしゃってくださり、実際にやり取りをする場を設けていただきました。
今回は自分の手でオープニングとエンディングの演出もやりたかったのですが、クリエイターとしての僕の作り方はストーリーを重視して表現することが多い。なので、ストーリー性のある楽曲にしてもらいたいとお伝えしました。後は本編に込める想いなどを反映していただきました。エンディングの方は終盤悲しいお話が続くので、一度視聴者の気持ちをリセットする感じのポップな方向になりました。
監督をやっていると完成されたものへのディレクションをすることが多かったりするのですが、本作では発注時点から相談ができたので、そこにはもう感謝しかありません。実際に出来上がったものが素敵だったので、自分でしっかりオープニングとエンディングを担当できて本当に良かったです。
――エンディングはシリアスな展開からの清涼剤になっていたように思います。また、オープニングでアトリが月のようなボールを手に踊るシーンは意味深でした。
加藤:ムーンライトボールというおしゃれな雑貨屋に置いているようなアイテムなのですが、今回は“光”というワードが鍵になるのでどこかで使いたいと思っていました。
月は太陽の光を受けて輝くじゃないですか。それが地上に落ちてきた時には光を失っているんだけれど、アトリがそれを拾うことで光を取り戻す。物語を動かすキーパーソンとしてアトリが存在することを大事にしたかったので、最後に空に掲げているのはそういった理由からです。主題歌も映像もストーリーを重視して、作中で表現したいことをしっかりやってもらったという感じですね。
――“光”という単語が曲名や詞の中にも入れこまれていて印象に残ります。
加藤:みんなが追っている光、みんなが目指しているものって何だろうっていう問いが曲の中にありますよね。本編を理解した上で秋元さんも曲を作ってくれました。生意気にも僕から秋元さんにオーダーをさせてもらって、制作が始まる段階からすりあわせを行って作っています。ちゃんと双方の理解があって完成したものなので、個人的にはぴったりな楽曲になったと思います。
――公式サイトに掲載中のコメントでは本作を「チャレンジ」だとおっしゃっていました。最終話まで作り終えた今、これまでを振り返ってみていかがですか?
加藤:10月で四十歳になるので、この作品が自分にとって三十代最後のタイトルになります。だからイメージボードからキャラクターデザイン、構成、演出、絵コンテまで可能な限り本編にタッチしたかった。どこまで自分がタッチできるのかみたいな感覚で、三十代を使い切るつもりで制作に臨んでいました。クレジットを見ていただくと今回は僕の名前が結構出ていたと思うので、それがこのチャレンジの結果になっていればと思います。
悔いを残したくなかったし、自分が限界までタッチした結果どんな作品になるのかを確かめたかった気持ちもありました。
――ありがとうございます。最後にこの記事の掲載が最終話前になりますので、ここまでご覧になってくださったファンのみなさんへメッセージをお願いします。
加藤:自分の三十代最後の力をフルに使って制作しました。悔いが残らないくらいやり切ることができたと思っていますので、その全力を最後まで見ていただけていたら嬉しいです。
[文・胃の上心臓]
作品概要
あらすじ
キャスト
(C)ATRI ANIME PROJECT