「テンション感を合わせるのではなく、超えていきたい」かつてない挑戦で実感した掛け合いと交流の重要性――『ダンダダン』オカルン役・花江夏樹さんインタビュー
モモとオカルンは思わず応援したくなるコンビ
ーーモモの印象と若山詩音さんのお芝居の感想をお聞かせください。
花江:モモのビジュアル的にはギャルなんですけど、あまりギャルを感じさせ過ぎないところが良いですね。詩音ちゃんもギャルを色々勉強してきたと言っていましたが、普通にどこにでもいそうなギャルのトーンで喋っているんです。デフォルメされて誇張されたギャルではなく、こういう人生を歩んできた中で到達したんだなと想像できるところが素敵だなと思います。
ーー若山さんの生っぽいお芝居には、衝撃を受けました。
花江:それこそ、彼女の生き様が反映されているのではないでしょうか。彼女自身も飾らないタイプですし、とても礼儀正しい子で、そこにギャルの要素を足して、モモのお芝居になったんだろうなと。モモは自然体なギャルだからこそ、視聴者の方が感情移入しやすいキャラクターになっているんじゃないかと思います。第1話の収録でモモがひと言目を発した瞬間、あまりにピッタリすぎて、「完成した音声がスピーカーから流れているのかな?」と感じるくらいに衝撃的でした。
ーー若山さんはモモをつかめたと思えたのは第8話だったとおっしゃっていましたが、お芝居の変化については感じられていましたか?
花江:序盤は大変そうにしているなと感じましたけど、モモもアップダウンが激しいので、その山を登って下っての繰り返しをしている時は何回かいろいろなパターンを試しているようでした。とはいえ試行錯誤している感じはあまりなく、僕が聞く限りでは「モモだ」と思っていたので、心配などはせず一緒にできました。
ーー若山さんたちと一緒に収録できたのでしょうか?
花江:全員でアフレコできました。この作品はギャグシーンが激しいので、テストでは後ろで待っている方たちも声を出して笑っていて。そういう反応がくるのも久しぶりで、「みんなも面白いと思ってくれたんだ」、逆に「ここはイマイチだったから、ちょっと変えてみようかな」とか。テストと本番の間で考えることが変わってきて、新鮮な気持ちになりました。
ーーモモとオカルンの関係性についてはどう思われますか?
花江:とても良い関係だなと思います。モモは興味を持ったことなら、周りに何を言われても別に気にしないタイプなので、オカルンとの相性は良かったんだろうなと。オカルンにとっては話せる友達ができた、という友情から始まって、次第に恋心が芽生えていく訳です。それが初々しいですし、モモもどうしようもない男と付き合ってきたから、意外と初心(うぶ)なんですよね。もしかしたら、ピュアなオカルンは今までにいなかったタイプだからこそ、ちょっとトキめいている部分もあるのかなと。そんなふたりのどきどき感が可愛らしくて、純粋に見守って応援したいという気持ちになりました。
ーー若山さんとは、どのようにコミュニケーションを取っていましたか?
花江:詩音ちゃんとレギュラーでご一緒するのは初めてだったので、どういう方なのか分からなくて。緊張していたのか、僕から少しずつ話しかけるようにしていた記憶があります。収録の最初の頃は登場人物が少なく、ブースに2〜3人しかいない状態で、できる限り会話を試みました。
ーーお芝居について、アドバイスすることはあったのでしょうか?
花江:この作品に限らず、アドバイスはしないですね。自分がアドバイスしても監督の意見と違ったらまずいので、そこは監督にお任せしています。でも彼女なら心配ないなと思っていました。
みんなで飲みに行くようになってからは、かなり打ち解けたんじゃないかと思います。あと彼女はすごく笑い上戸なので、場が明るくなるんです。飲み会の場でも笑いの沸点が低いんですよ。「あっ、それで笑ってくれるんだ」みたいな(笑)。それで嬉しくなるので、一緒に飲んでいて楽しいです。
ーー飲み会は花江さんが主催したり?
花江:(田中)真弓さんも飲むのが好きなので、「真弓さん、この後、飲みに行きませんか?」と声を掛けるとノリノリでみんなを誘ってくださって。キャストだけではなく、監督も来るし、先生もいらっしゃるし、音響監督の木村(絵理子)さんなど、来られる人はほぼ全員参加するという感じでした。
その際に、監督から「こういう作品にしたい」とか、「このシーンはこういう意図で演出している」「このシーンは特撮作品のオマージュを入れている」といった話もお聞きしました。
あと龍先生とディスカッションしているのを聞いて、「もはや仕事しているな」と(笑)。作品によっては1クールで終わってしまって、その後に監督と話す機会がない現場もあるんですよね。そういった背景もあるので、スタッフさんがどういう気持ちで作品を作っているのかを知ることができるだけでも、自分の中でモチベーションが上がりますし、改めてこういう交流は大切だなと思いました。
テンションのアップダウンが『ダンダダン』の面白さ
ーー会話のテンポ感を出すために意識していることはありますか?
花江:テストで食い気味にセリフを返したり、間尺に違和感を覚えたらそれを無視して言ってみたり。それを踏まえたうえで、「さっきのシーンはあの尺のままでいいです」というディレクションが入ることもあるので、テストではみんな、自分が気持ち良い間尺でやっているんじゃないかなと。
第1話では監督がテンポを大事にしているため、無駄な間を作らないように切って切って、詰めて詰めてシーンを作っていると仰っていて、それは我々にとってもありがたいんです。ただ、切り過ぎたせいで尺が足りなくなって、第1話では入れる予定のなかったOPを「苦肉の策で入れた」と言っていました(笑)。
ーーそういうケースは一般的にあまりないことでは?
花江:監督の中にやりたい演出が溢れているんですよね。でも、監督は第1話がまだ放送されていないからプレッシャーを感じているようで、お会いするたびに調子が悪くなっているんです(笑)。だから、僕らも「絶対に大丈夫です!」「映像のここが良かったです」と励まして。先日、ロサンゼルスで先行上映があったんですけど、同行していた監督がみなさんの反応を見て、少し元気になってくれたようで本当に良かったです。
ーー改めて見てもすごいキャスト陣ですね。アフレコ現場では凄まじいラリーが繰り広げられているのでは?
花江:みなさん、全力でアフレコされるので、「テンション感を合わせるのではなく、超えていきたい」という、僕の中での大きな課題がありました。だから「ここで思い切り叫んだら、どんな返しがくるかな」とか。掛け合いの楽しさを感じる収録にできたら良いなと。でも、みなさんから予想外のお芝居がどんどん出てくるので、それがとても楽しかったですし、完成したアニメを観ても「やっぱり面白い!」と感じました。
ーー他の共演者の方から刺激を受けたり、圧倒されたことはありますか?
花江:あります。特にモモとはずっと喋っているし、詩音ちゃんに引っ張ってもらっている気がしますね。モモが座長の作品だと思っているので、そこにどうやって付いて行こうかと。モモが自然体のギャルでいてくれるので、自然体で返したいところもありつつ、合間にギャグシーンが挟まってくると、どこから切り替えようかなとよく悩みます。
真弓さんは大ベテランなので、ひと言発するだけで、一瞬でターボババアの空気にみんなが持っていかれて。憎たらしいことを言っても可愛く聞こえるお芝居が凄まじくて、勉強になりました。
ギャグとバトルのテンションのアップダウンが『ダンダダン』の面白さだと思うので、一瞬たりとも手は抜けないです。テストもみんな本気でやっていますから。キャラクターが増えてからは少し楽になりましたけど、それでもやっぱり大変です。収録中はあまり感じませんが、終わった後は上半身、特に肩や首周りがバキバキで(笑)。「この後も仕事なんだけど、大丈夫かな?」と心配しながらも、毎回頑張っています!