秋アニメ『ハイガクラ』連載:山元隼一監督×シリーズ構成・村井 雄さんが語る“音”へのこだわり|日本人の耳にもなじみがある会話のテンポや間を提案させていただきました
日本人の耳にもなじみがある会話のテンポや間を提案させていただきました
――村井さんは劇団を主宰されていて、多くの舞台で脚本・演出を担当されています。アニメのシリーズ構成・脚本を手がけるうえで、舞台との違いは感じていますか?
村井:物語を書くという点では、アニメであっても演劇であっても、小学校の学芸会などであっても違いはないと思っています。ただ、脚本作業の先にある工程に違いがあるなとは感じていて。
先ほど監督からもお話がありましたが、アニメはより情報の交通整理が重要になってくると僕は思ったんです。なので、絵コンテを描かれる方をはじめ、各セクションのみなさまに自分のイメージがより正確に伝わるよう脚本を書くことをいつも以上に意識しています。
――なるほど。
村井:あと、これは『ハイガクラ』に関して言えばですが、高山先生が描かれた中国神話を元にした壮大な世界観が大事だと思ったので、そこは崩したくないなと考えていました。ただ、アニメを見る視聴者のなかには中国神話に明るくない方もいると思って。しかも本作は世界観が壮大で、情報量も膨大なんです。それを活字のように目で理解してもらうのとは違い、耳で理解してもらうためにはどうしたらいいのか考えながら脚本を書きました。
具体的には、日本人の耳にもなじみがある会話のテンポやセリフ量、間とか言い回しを原作から外れない範囲で提案させていただきました。実際の人間が生身でそこにいるかのようなセリフ回しは演劇の戯曲を書くときにすごく気にしている点なのですが、それを本作でも意識して取り組みました。
――耳で理解するという部分に関しては、舞台よりもアニメのほうが意識している。
村井:舞台って、生身の人間がお芝居をやっていて、そこから受け取る情報量がたくさんあるんですよ。例えば、会話のなかで間があったとしても、お客さんが「この間は何なのか」と考えてくれるんですよね。アニメの場合は、情報をやり取りするという意味では、時に、極端に言うと“ながら見”をしていてもスッと耳に入るくらいに意識して会話を描くといいのかもと感じています。
山元:音に関しては、村井さんが分かりやすいセリフ構成にしてくださったので、本当に助かりました。一方で、村井さんとは、原作は活字の美しさも魅力だよねという話もしていて。例えば、「滇紅」ってバンと文字が出るところは、すごく綺麗でインパクトがあるんです。それなら無理に音で表現するよりも、その活字の魅力をそのまま出していいんじゃないかと思い、村井さんと相談して文字を出す演出を取り入れました。
村井:今回は字幕、文字の演出もいっぱい入れさせてもらいました。
山元:この演出によってより分かりやすくなりましたし、中華ファンタジー感も増した気がします。
――そういった演出はすべてのアニメ作品で適しているかと言えばそうではなくて、本作だから合っているというものなのかなと、お話を聞いていて感じました。
山元:アニメにおいて、「こういう演出をしておけば間違いない」というものはないと思います。毎回、作品に寄り添って、関わるスタッフと答えを探しながら、「この作品ならこういった手法がいいんじゃないか」と考えながら制作を進めています。
――そのなかで、スタッフィングもすごく重要になってくると思います。誰と一緒に作るのかで、アニメの方向性も変わるというか。
山元:そうですね。スタッフィングもそうですし、スタジオの特性もありますから。例えば、今回アニメーション制作を担当している颱風グラフィックスさんはエフェクト処理、撮影に特化したスタジオです。そういったスタジオの特性が、作品にも活きてくると思っています。
アニメの最終話をどうするのか、長い時間をかけて話し合った
――音に関するお話もありましたが、おふたりが本作を作っていくやり取りのなかで、印象に残っていることを教えてください。
村井:監督はお忙しい方だと分かってはいたのですが、僕は割と気兼ねなく連絡をさせてもらい、常日頃からコミュニケーションを取っていました。それでも、何か重要課題を話し合いたいときは、いつも特定の喫茶店に行っていた思い出があります。「これは、あそこに行くしかないですね」みたいな感じで、ことあるごとに行っていました(笑)。
山元:あそこじゃないとダメでしたよね。人と人との距離感が絶妙でした。
村井:話し合うときの空気感が、ピッタリでしたね。
山元:あとは、アニメの最終話をどうするのか、終わらせ方をどうするのかという点を長い時間かけて話し合った記憶があります。
村井:本読みの回数は他の話数に比べてすごく多かったですよね。
山元:飛行機でも離陸と着陸は大変な部分ですが、それと同じように物語もどう始めて、どう締めるのかはやはり重要で。本作はまだ連載中の作品ではありますが、アニメはアニメでしっかりと最終話を描かないと、視聴者の方の満足感を満たせないと思ったんです。
そのためにどうするのか委員会メンバー、原作チームのみなさまと議論を重ねていき、作品の柱の部分に立ち返った結末にしようという方針に決まりました。きっと、原作ファンの方もアニメから本作を知った方も納得していただける形になっていると思います。
村井:みなさんからもアイデアをいただき、話し合った結果、面白いものになったと僕自身は思っていますので、ぜひ最後まで見ていただけると嬉しいです。
――アフレコの際に監督からキャストの方に何かリクエストなどはされましたか?
山元:本作はドラマがすごく重要なので、会話劇のなかで感情をしっかりと出して欲しいというリクエストをしました。それと別にアフレコで印象的だったのは一葉が溺れているシーンですね。音響監督のえびなさんのディレクションで、水が入った紙コップに口をつけて「ブクブク」と実際に出しながらアフレコしました。そういうやり方もあるんだと驚きました。
色々なドラマもありますが、基本的には人と人とのつながりの物語だと思っています
――本作のなかでおふたりがお気に入りのキャラクターを教えてください。
村井:カッコいいキャラクターばかりなので選べないというのが、正直な気持ちです。ただ、これはお気に入りのシーンという話になっちゃうかもしれませんが、山烏と漢鍾離の親子の関係性は見ていてグッとくるところがありますね。“自分探し”というテーマのなかで、山烏は親の愛を求める部分があって。感情移入しやすい関係だと思っています。
――本作は、視聴者の方が「これは共感できる!」とキャラクターに感情移入できる部分が多い作品かもしれません。
村井:そうですね。好きな言葉に「自己紹介なんかない。他己紹介しかないんだ。“私”は誰かというのは、相手がいて成立する」というものがあるんです。本作に登場するキャラクターは、特に一葉が最たるものだと思いますが、周りの人を認めることによって自分を見つけていくんです。色々なドラマもありますが、基本的には普遍的な人と人とのつながりの物語だと感じているので、それぞれのキャラクターに共鳴していただけたるのではないかと思っています。
山元:僕も魅力的なキャラが多く、好きなキャラを選べないので、キャラの関係性の話になってしまいますが、一葉と滇紅のバディ感に加えて、一葉・西王母・山烏の関係も本作の見どころだと感じています。一葉と西王母は運命に翻弄されている感があり、山烏はある種、一葉の対になっているようなキャラクター。そんな3人の関係性や物語にも注目していただければと思っています。
あと、もったいなかったなと思っているのは牛鬼です。とても可愛いキャラに仕上がっているので、アニメでもっと登場させてあげたかったです(笑)。
――最後に、読者のみなさまにメッセージをお願いします。
村井:本作は華やかで荘厳な世界観のなかで、家族や友人など人と人とのつながりが描かれている物語です。見れば見るほど発見と感動がある作品になっていると思いますので、楽しんでいただけたら嬉しいです。
山元:中華ファンタジーではありますが、一葉と滇紅が運命に翻弄されるなかで「自分たちは何者なんだろう」と葛藤する部分が物語の核になっていると思っています。これは、多くの人が通る普遍的な悩みでもあるので、キャラクターたちに共感できる人も多いんじゃないかなと思います。色々な要素が盛りだくさんに詰まっていますが、なるべく見やすくできたらと思いながら作りました。たくさんの方のお力で熱量の高い作品に仕上がっていると思いますので、ぜひ多くの方に見ていただきたいですね。
(取材・文 M.TOKU)
作品概要
あらすじ
仙界。神仙と人間が暮らすその世界は、崩壊の危機に瀕していた。その鍵を握る凶神・四凶を探し求める歌士・一葉と従神・滇紅。二人はそれぞれの目的を秘めながら四凶を探していた。
囚われた家族と失った過去。
大切なものを取り戻すため、一葉と滇紅は世界中を駆け巡る――
長きに渡って読まれ続ける高山しのぶの人気コミックをもとに、歌士・一葉と従神・滇紅の戦いを描くアクションファンタジー!
キャスト
(C)高山しのぶ・一迅社/ハイガクラ製作委員会