秋アニメ『ハイガクラ』連載:山元隼一監督×シリーズ構成・村井 雄さんが語る“音”へのこだわり|日本人の耳にもなじみがある会話のテンポや間を提案させていただきました
シリーズ累計発行部数130万部を突破(電子書籍含む)する人気コミック『ハイガクラ』がTVアニメ化。2024年10月7日よりTOKYO MX、サンテレビ、BS朝日にて放送中です。本作は、神仙と人間が暮らす仙界を舞台とするアクションファンタジー。仙界崩壊の鍵を握る凶神・四凶を探し求める歌士の一葉と、一葉の従神である滇紅が、囚われた家族と失った過去を取り戻すため、世界中を駆け巡ります。
アニメイトタイムズでは、本作の魅力に迫るインタビュー連載を実施! 第5回は、山元隼一監督とシリーズ構成を担当した村井 雄さんに原作の印象や制作のなかでこだわった点についてお聞きしました。
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読みながら観光旅行をしている感覚になりました
――原作を読んで感じた作品の印象をお聞かせください。
山元隼一監督(以下、山元):中国神話を元にした物語ということもあってか、とにかく世界が広く、読みながらファンタジー世界を観光旅行している感覚になりました。ゲームのいわゆるオープンワールド感みたいな世界観で壮大さを感じましたが、キャラクターたちのドラマがしっかりと描かれているのも印象的で。葛藤や感情のぶつかり合いが素敵だと思いながら読み進めていました。
村井 雄さん(以下、村井):監督がおっしゃっている通り、世界観が壮大で圧倒されました。あとは登場人物たちが中国神話の神々をモチーフにしていて、その神話上の特徴を踏襲している部分も魅力的だと感じましたね。その特徴がそれぞれの登場人物の抱える人間的な葛藤とつながっているように思えて、とても面白かったです。
――監督が本作に関わることになった経緯を教えてください。
山元:別作品のダビング作業をやっているときに、(本作のアニメーションプロデューサーである)櫻井 崇さんから自動販売機の前のスペースに呼び出されたんですよ。「何か怒られることしたかなぁ、怖いなぁ。」と覚悟して行ったら、「こういう作品があるんだけど」と『ハイガクラ』のお話をしていただきまして。そこで「拝読します」とお伝えして今に至る、という感じですね。
――最初は怒られると思っていたんですね。
山元:はい。自動販売機の前のスペースがわりと密室っぽくなっているんです。そこに呼び出しをされたので、「なんだろう?」と思って。怒られなくてよかったです(笑)。
――村井さんも、櫻井さんがプロデューサーだった別作品で脚本を担当したことがきっかけで、本作にも参加することになったとお聞きしています。実際に声がかかったときはいかがでしたか?
村井:ありがたいお話だなと思いました。お声がけいただいた際には「情報量が膨大な作品なので、まとめる作業を頑張って欲しい」というニュアンスの言葉を言われたんです。その後に原作を読ませてもらったら本当にその通りで、これは情報を整理するのに時間がかかりそうだなと思いました。
一葉と滇紅のバディ感はアニメでも大事に描きたいと思った
――今回アニメ化するにあたり、原作の高山しのぶ先生サイドからは、どんなリクエストがありましたか?
山元:人外のキャラクターたちが魅力の一つなので、そこは崩さないで欲しいというお願いがありました。シナリオ面では、エピソードを並べ替えて整理しても大丈夫ですとおっしゃっていただけたんです。自分のペースで読み進められる漫画と、映像が流れていくアニメでは受け取り手の印象も変わってくるので、その辺りは村井さんたちや本読みメンバーの皆様とで議論しながら構成を整理しました。
――実際にアニメ制作を進めるうえで、意識した点を教えてください。
山元:原作はモノクロで描かれていますが、本作の世界観を表現するならと考えたときに、色はなるべく鮮やかでビビットなほうがいいと思ったんです。「色が美しい」というのがストロングポイントになるよう意識していました。また、物語の世界観が壮大で、なおかつ中国は建物のスケール感も違うので、そういう広さを感じられる美術背景にもこだわりましたね。演出面では、シリアスとギャグのバランスを取ってメリハリをきちんとつけたいと思っていました。
――メリハリをつけたいと思った理由は?
山元:本作は深夜の放送なので、仕事から帰ってきて疲れた方が見ることも多いと思ったんです。そういう疲れているときって、シリアスなシーンや難しい話が続くと、負担が多いと思うので、楽に見られるシーンを可能な範囲で入れたいなと思ったんです。それによって生まれるメリハリはキャラクターの関係性を立てることにもつながる気がしたので、シリアスとギャグシーンのバランスはしっかり考えて、調整しました。
――先ほどエピソードを整理したというお話もありましたが、シナリオ面ではどんな点を意識しましたか?
山元:原作を読んでいて、一葉と滇紅のバディ感はアニメでも大事に描きたいなと思ったんです。一葉は滇紅を殴ることもありますし、反対に滇紅は仕える身でありながらも生意気なことを言います。ただ、ふたりの深い信頼関係が、物語のなかでしっかりと感じられるんですよね。
このバディ感を立てることが、一葉の動機を分かりやすくする気もしました。物語って、「この人たちって何がしたいんだろう」と見ている方が思った瞬間に、作品自体に感情移入できなくなるので、動機は分かりやすい見せ方にしたほうがいいと僕は思っています。
――なるほど。
山元:あとは、本作は群像劇で登場キャラクターもすごく多いんですよね。しかも、それぞれに行動理由がしっかりあるんですよ。個人的には、単純に悪いという奴が少ない物語だと思ったので、そこも大事に描きたいなと思いながら制作していました。
――では、制作するなかで難しかった点を教えてください。
山元:先ほど背景にこだわったというお話をしましたが、原作の絵がすごく綺麗なのと、緻密な線で表現されているので、近づけるためには、通常の1クールアニメの作画よりも約2、3倍の工数がかかる作品だと思います。
あとは、世界観が壮大で登場人物も多く難解なストーリーなので、それを整理して関わるクリエイターのみなさんに分かりやすく伝えることにも注力しました。アニメって、物語の根幹をクリエイターが分かっていないと、分からないままの絵コンテやお芝居になってしまいます。そうならないよう、情報整理をした資料を作って、「こういう作品なんです」ということを伝えるようにしました。