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- 逆井マリ
- 神奈川県横浜市出身。音楽フリーペーパー編集部を経て、フリーのライターとしてインタビュー等の執筆を手掛ける。
──ところでさきほど「ポエムを書いてみようと思い立った」というお話がありましたが、ポエムは今このタイミングで、なぜ書こうと思われたんですか?
山田:なんででしょうか(笑)。文章を書くのが結構好きで、それでチャレンジしてみたいなって思ったっていう。うん。特に深い理由というわけではないんですが、今がそのタイミングだったという感じですね。
──文章は作品に関係なく、普段からライフワーク的に紡がれているのですか?
山田:特別なにかを書き溜めているわけではないんですけども、例えば、いざコンテを書いたり、パソコンに向かったりした時に、文章を書き出すと「すごく楽しいな」と思ったりして。居場所、という感じがするというか。
──分かります。
山田:居心地が良い気がするんですよね。
──まさに本作の舞台となっている部屋というのも、本来そういう場所のような……。
山田:ああ、それは面白い観点ですね。内側のモノみたいな、そういう感覚はあるかもしれません。
──文章にしかり普段は鍵をかけているその内側のものを、今回創作物として出したくなったきっかけは何かあったのでしょうか?
山田:私は普段、そんなに自己紹介のような作品づくりはしないんです。作品は作品であって自分ではないと考えているので。なので、ラブリーサマーちゃんと組んだことによって出てきたものはすごくあるのかなぁとは思いますね。
彼女はすごく、表現するためのアウトプットが色彩豊かで……彼女自身が身をおいている場所に対して、とても素直なアウトプットのされ方をするんですよね。それに背中を押してもらったような気がします。
──ラブリーサマーちゃんとの制作を振り返ると、その他にはどのようなご感想がありますか。
山田:やっぱりラブリーサマーちゃんは本当にアーティストだなと感じました。本人はもしかしたら「それは違う」と言うかもしれないんですけども、私が感じた印象としては、彼女自身と作品がすごく密接にリンクしていて。彼女が作る音楽は、彼女の分身なんだろうなあと。
──それは監督の作品に対する意識とはある種対照的でもあって、彼女のそういった生き様や音楽に触れたからこそ、良い影響を受けたところがあったと。
山田:そう思っています。で、ちょっと……今回の制作では、自分もなにかひとつ内面的な部分に踏み込みたいという気持ちがあったので、ラブリーサマーちゃんの音楽に背中を押してもらったところがありました。
最近は減ったのですが、私自身、女性監督ということでジャッジされることがあったんですよね。それで(これまでは)そういったことを感じさせない作品にしたいなと思ってて。気にしないつもりでいつつも、どこかコンプレックスだったのかもしれません。そのためにもラブリーサマーちゃんとご一緒したというか。
──そういう経緯も。
山田:はい。なんか、真っ向からやってみたくなった気持ちもありましたね。
──今回の作品を経て監督として得たものや、次のステップに向けた気持ちの変化はありましたか?
山田:得たものか……なるほど。なんだろうな。
──この作品はひとつの作品として完成していて、大切にされているものだと思うので、ナンセンスな質問かもしれませんが、例えば、またこのようなミュージックビデオのような作品を作ってみたいとは思いますか。
山田:おっしゃる通り、この作品は『Garden of Remembrance』という一つの完成されたものとして大切にしていて、『Garden of Remembrance』というフォルダにしっかり刻まれているので、同じような作風で……というのは考えていなかったけれど、音楽に映像を乗せていくのが大好きなので機会があればとてもやりたいです。
話が少しずれるかもしれませんが、ラブリーサマーちゃんのギターの音が本当にかっこよくて。きみとぼくが出会うところで、音楽が爆発するように鳴るんですよね。それがすごく開放的と言いますか。音と映像が一体となった快楽を果たせたように感じていました。
──その音を聴きながらコンテを描かれていったんですか?
山田:先に絵は進めていたんです。都度ラブリーサマーちゃんと打ち合わせはしつつだったんですけども、最終的にアニメで尺を決めて、それをラブリーサマーちゃんにお渡しして、って流れでした。それまでにいくつか、音楽のスケッチはいただいていましたが、最終形態としては絵のほうが先にという。
──曲のスケッチがあったということですが、山田監督が開放的に感じられたというギターの部分を含めて、完成した曲がドンっと届いたんでしょうか。
山田:そうです。完成したものが一気にやってきたという感じでしたね。彼女は多分イメージが固まるまでじっくりと考え、一気に形にするタイプだと思います。私も同じタイプなので、親近感を覚えていました。
──山田監督も、じっくり考えて一気に作り上げるタイプなんですね。
山田:はい、一気にぼんっと(笑)。昨日まで0だったものが次の日には100になるような感覚です。ラブリーサマーちゃんのことも、それまで脳内でずっと考えていて、ある瞬間に理解がつながるという感じなのかな……と、勝手に分析してしまっていました(笑)。
──ああ、でも確かに制作期間といっても、ものづくりをされる方にとって、それまでの人生の積み重ねがすべて制作期間と言っても過言ではないだろうなとは思います。
山田:そう! 本当にそうだと思います。実作業している時間だけが制作時間ではないなと。
──ところでさきほどコンテのお話がありました。『きみの色』の取材で牛尾さんに取材をさせてもらった時に、山田監督のコンテについて「“山田尚子のコンテ”にしかないものがある」と熱く語ってくれて。
山田:あっ! あのインタビューですね。読ませてもらいました(笑)。
──ありがとうございます(笑)。それと「ご自身の矜持としてコンテを出版されはしないから、みなさん見たことがないと思うんですけど」ともおっしゃっていましたが、そこはあえて世には出さず――。
山田:そう、秘密にしております(笑)。印刷物のために数ページ出すことはあるんですけどね。
──さて、続編についてはまだ考えていないというお話でしたが、このクリエイターとまた何かを作ることがあれば見てみたいなとは思います。
山田:ああ、そうですね。やりたいことはまだたくさんあります。水沢悦子さんの絵のムチムチ感をもっと楽しみたいですね(笑)。
──ぜひいろんな角度から表現してほしいです。最後に何か伝えておきたいということはありますか。
山田:なんだろうな。今回はセリフがない作品なので、少し戸惑う方もいるかもしれません。でも、ラブリーサマーちゃんが書いてくれた歌詞をじっくり聞きながら鑑賞していただけると、見えてくるものがあると思います。ラブリーサマーちゃんがこの作品に対して理解した言葉、みたいなものを1つひとつ大事に受け取ってもらえたら、作品の解像度がぐっと深まるんじゃないかなと。
[インタビュー&文・逆井マリ]
神奈川県横浜市出身。既婚、一児の母。音楽フリーペーパー編集部を経て、フリーのライターとしてインタビュー等の執筆を手掛ける。パンクからアニソン、2.5次元舞台、ゲーム、グルメ、教育まで、ジャンル問わず、自分の“好き”を必死に追いかけ中。はじめてのめり込んだアニメは『楽しいムーミン一家』。インタビューでリアルな心情や生き方を聞くことが好き。
「Garden of Remembrance」好評配信中!!
監督・山田尚子が描く、珠玉のオリジナルショートアニメーション。
「Garden of Remembrance」は、山田尚子監督による渾身のオリジナル作品で、アネモネの花をテーマとして「きみ」と「僕」と「おさななじみ」の3人の感情が揺れ動く様子を鮮麗に描いた、珠玉のハートフルショートアニメーション。アニメーション制作はTVアニメ「平家物語」・映画『きみの色』でも山田監督とタッグを組んだサイエンスSARUが担当、キャラクター原案は漫画家・水沢悦子(漫画「花のズボラ飯」作画担当 ほか)、音楽は『可愛くてかっこいいピチピチロックギャル』として活動するシンガーソングライター・ラブリーサマーちゃんが書き下ろしています。
<STORY>
空のビール缶・ウィスキーグラスが床に置かれ、
部屋の端には画材やエレキギターが並ぶ、少し散らかった「きみ」の部屋。
携帯のアラームが鳴って、ぼんやりと起き上がり「きみ」1人の朝が始まる。
「ぼく」が好きだったアネモネの花、それは「ぼく」との思い出を繋ぐ大切な花。
ある日部屋のクローゼットを開けると「ぼく」との思い出が「きみ」を包み込んでいき・・・
これは「きみ」と「ぼく」、そして「おさななじみ」との”さよなら”を描く物語──。
<STAFF>
監督・脚本:山田尚子
キャラクター原案:水沢悦子
キャラクターデザイン・作画監督:もああん
色彩設計:小針裕子
美術監督:島田碧
撮影:sankaku△
編集:廣瀬清志
音楽:ラブリーサマーちゃん
アニメーション制作:サイエンスSARU
<配信先>
好評配信中!!
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バンダイチャンネル
・公式サイト:gor-anemone.com
・公式X(旧Twitter):https://X.com/GoR_anemone
ⒸGarden of Remembrance -二つの部屋と花の庭-製作委員会