『チ。 ー地球の運動についてー』作者・魚豊先生が「地動説」をモチーフにした理由や、アニメの見どころを語る|先生が「自分の血肉になっている」と語るほど影響を受けたアニメ作品とは?【インタビュー】
アフレコ現場で“さらっとすごいことをしている”キャスト陣の姿に感動
──アニメのキャスティングには関わられているのでしょうか?
魚豊:オーディションの音声のデータが送られてきて、「この方がいいと思いますがどうでしょうか?」と。大体は製作委員会が選ばれた方が聴いた感じで一番よかったので、ほぼその提案通りに決まりました。
──坂本さんはオーディションのお話が来たとき、ラファウを演じるのは男性の方で、自分が関われるとしたらヨレンタさんかなと思っていた、とおっしゃっていました。
魚豊:本当ですか? ラファウはちょっと生意気な少年なので、早口で声が高いイメージで作っていました。候補の方の声を聴かせていただいて、委員会の方が推していた人の一人が坂本さんで、僕も聴いた上で一番ハマっているなと思いました。
──先生のお気に入りキャラはノヴァクとのことですが、津田さんのお芝居はいかがですか?
魚豊:最高で言うことがありません。他のキャストの方もそうですが、しびれますね。まだ完成した映像では聴けていないので、放送が楽しみです。ノヴァクは特に年をとっていくので(お芝居が)どうなっていくのか、すごく気になります。
──津田さんは、異常性があるけど日常的なことをやっているという部分を意識して演じている、とおっしゃっていました。
魚豊:津田さんとお話しさせていただいたときにも「生活感を大事にした」とおっしゃっていて。僕もノヴァクを描くときにそう思ったので、同じことを思って、関わってくださっていることがわかって嬉しかったです。
──速水さんのお芝居もすごみがありますね。
魚豊:本当にこれぞプロという感じで。1話目のアフレコも見学させていただきましたが、キャストの皆さんは当て感がよく、最初の一発目からほぼ正解というものをやっていらっしゃったので、「そう!こういう感じ!」という感覚がありました。
──アフレコで先生からディレクションやアドバイスをしたことはありますか?
魚豊:ないです。アニメは監督のものなので、あまり出しゃばるのもよくないなという気持ちがありました。
──改めて、キャスト陣はそうそうたるメンバーが集結しましたね。
魚豊:アフレコを見学させていただいたときに、「やってやるぜ!」と意気込むというよりも、プロとして的確かつ効率的に仕事をやっていることを感じられて、嬉しい限りでした。泥臭くというよりも、さらっとすごいことをされていたのが印象的でした。
先生が「自分の血肉になっている」と語るほど影響を受けたアニメ作品とは?
──少し本作から外れた質問ですが、先生は普段、アニメをご覧になっていますか?
魚豊:アニメ映画はちょこちょこ見ますが、TVアニメはあまり見ていません。中学生の頃は見ていましたが、高校生になったくらいからだんだん見なくなってしまって。
──お気に入りのアニメがあれば、教えていただけますか?
魚豊:『SHIROBAKO』はめっちゃ好きで、(主人公の)宮森という名前のキャラを自分の作品のどこかに出したいなと思ったほどです。
当時はニコニコ動画の公式配信でよく見ていて、まずコメ(コメント)無しで見て、その後にコメ有りで、そしてまたコメ無しで見る、と1日3回見ることを毎話やっていました。すごくおもしろかったし、「アニメやモノを作るってこんな良さがあるんだ!」と感じました。
あと、『日常』もヤバいくらい好きでした。こちらもNHK(Eテレ)で放送されていましたね。他の京アニ(京都アニメーション)作品も好きで、『氷菓』や『響け!ユーフォニアム』なども見ました。特に『日常』と『響け!ユーフォニアム』は自分の血肉になっています。『ひゃくえむ。』は、『響け!ユーフォニアム』の100メートル版のつもりで作ったし、自分の方向性を決める上で指針になっている作品です。
──先生はラジオを聴くのが好きとのことですが、どんな時に聴かれているのでしょうか?
魚豊:原稿を描くときは耳が暇なので、そこでめっちゃ聴きます。中学1年生ぐらいの頃は、とりあえずネットで聴けるラジオ番組を聴いていました。「音泉」やランティスwebラジオ、あと文化放送の番組などを何もわからず、一度も見たことがないアニメの番組や声優さんの番組をひたすら聴いていましたね。
その後、お笑い芸人さんのラジオも聴くようになって、いつの間にかそっちのみになりました。
──そこからお笑い好きになったのですか?
魚豊:いえ、お笑い自体はずっと好きでしたが、自分の中で何故かお笑いと芸人さんのラジオがしばらく繋がってなくて。それが繋がったのが中学生後半の頃でした。
──創作していく中で影響や刺激を受けたものはありますか?
魚豊:ベタに映画やお笑いや音楽です。
それと、大学で学んでた哲学でしょうか。MVや服、クリエイティブのCGを見て、「こういう表現したいな」とか「こういう盛り上げ方したいな」というのもあります。不勉強なのでマンガやアニメはあまり見れてないですね。
──マンガ家の方でマンガやアニメをほとんど見ないというのは珍しいですね。でもそれが、他では見たことがない個性的な作品が生まれる理由なのかもしれませんね。
魚豊:そうおっしゃっていただけると光栄です。不勉強なだけですが(笑)。
画や声のお芝居はもちろん、“マンガにはない”音楽にも注目! アニメとしての『チ。』を自分も楽しみたい
──取材にあたり、完成映像を拝見しましたが、第1話冒頭のシーンに大きな衝撃を受けました。原作通り、すごく怖かったので、「このシーンをNHKで流しても大丈夫なのだろうか」と(笑)。
魚豊:僕もまさかNHKさんで放送していただけるとは思っていませんでした(笑)。自分が関係したものがNHKで流れるという人生が来るとは思っていなかったので、嬉しいです。
──先生がマンガを描くきっかけになった、アニメ『バクマン。』もNHKで放送されていましたね。
魚豊:そうそう! そういった意味でも嬉しかったです。
──完成映像はまだ見ていないとのことでしたが、制作途中のものはチェックされたのでしょうか?
魚豊:軽く見ましたが、よかったです。自分事には感じられなくて、「このキャラ、こんな感じなんだ」と再発見する感じも嬉しかったです。それが他の方にやってもらうよさでもあって。中学生のときにアニメを見ていたような感覚と一緒で、ワクワク感とハラハラ感がありました。
──シリアスなお話なのに、ところどころにコミカルさがあって。緊張と緩和というか。
魚豊:それはあったかもしれませんね。アニメならではの「わっ、こんなの見ちゃっている!」という大人の世界を覗き見る感覚というか。小学生のときに見ていたアニメとは違うアニメがあって、「血とか出るんだ」みたいな。初めて背伸びしたアニメに触れる純粋な喜びがあって、そういう気持ちを再び味わえて不思議な感覚でした。
──画(え)の綺麗さも見どころのひとつだと感じました。津田さんと速水さんは、特に星の綺麗さを魅力に挙げていました。
魚豊:そうですね。スタッフの方々のおかげで、本当に感謝しています。
──今回のアニメは原作のラストまで描き切ると伺いました。『チ。』をはじめ、あまり長い巻数で描かれていないのも先生の好みとのことですが、それがアニメ化しやすい要素にもなっているのかもしれないですね。
魚豊:そうだとしたら、この趣味で良かったなと思います。他の作品もぜひアニメ化してください!(笑) 僕はすぐ読めて、さらっと完結する作品が好きなので。今回、最後までやっていただけることはとても嬉しいです。
──アニメで期待していることや注目してほしいことは?
魚豊:画も声優さんのお芝居もそうですが、音楽にすごく注目しています。牛尾さんの劇伴と、サカナクションさんのOP曲、ヨルシカさんのED曲など。音楽はどう頑張ってもマンガにはないものですし、作品の印象や視聴者の心を動かす大切な要素ですから。実際に聴かせていただいて、すべて僕の好みでしたし、最高のモノが来たなと思える出来でした。
──最後に、皆さんへメッセージをお願いします。
魚豊:アニメ最高です! そして、アニメ最高だと思った方は原作漫画も是非にです!
でもとりあえずアニメ最高です!
アニメ概要
あらすじ
若き天才作家魚豊(うおと)が世に放つ、地動説を証明することに自らの信念と命を懸けた者たちの物語
15世紀のヨーロッパ某国。飛び級で大学への進学を認められた神童・ラファウ。
彼は周囲の期待に応え、当時最も重要とされていた神学を専攻すると宣言。
が、以前から熱心に打ち込んでいる天文への情熱は捨てられずにいた。
ある日、彼はフベルトという謎めいた学者と出会う。
異端思想に基づく禁忌に触れたため拷問を受け、投獄されていたというフベルト。
彼が研究していたのは、宇宙に関する衝撃的な「ある仮説」だった――。
キャスト
(C)魚豊/小学館/チ。 ―地球の運動について—製作委員会