映画『ふれる。』長井龍雪監督&田中将賀さんインタビュー|「毎回作り終える頃には良い関係だと思えるんですよね」互いに本気でぶつかり合う作品づくり
3人の作品はぶつかり合うことで生まれる
──前作までと比べるとタイトルもシンプルで短いものになっています。この辺りを変えたのも前作との対比という側面があるのでしょうか?
長井:これまでの作品でもそうだったのですが、岡田さんのプロットに書かれた仮タイトルが今回はそのまま採用されています。
田中:(仮)が取れるパターンですね。
長井:当初は本当に(仮)のつもりでした。『ふれる。』というタイトルが先で、キャラクターとしての「ふれる」が後に決まったんですよ。
田中:3人の青年がいて、心が繋がるみたいな能力ありきでしたね。最終的な「ふれる」のデザインに落ち着くまで色々な変遷を辿りましたが、役割や能力は変わらずタイトルそのものもテーマからは外れていない気がします。
──鑑賞後に思い返すと納得しかないタイトルだと思いました。
田中:僕も試写で同じことを感じました。「このタイトルで本当に良かった……」って。
長井:僕の場合はこのタイトルで作ってきて、「ようやく出来上がった」という安心感の方が大きかったですね。
田中:もちろん「ふれる」に対して「可愛い」「愛でたい」という感情はあっても、僕自身がマスコットキャラ、小動物的なものに対して、余りしっくり来ていなかったんです。表情もないですし、鳴くこともない。キャラクターとしてどうやって存在感を出せばいいのか、というスタートだったので不安しかなくて。
こういうキャラクターを今までのキャリアでほぼ描いてこなかったので、手に余るというか。どう扱っていいかわからずに戸惑う部分もありました。今考えると、その産みの苦しみが必要だったんだろうなと。最終的には「こいつに救われたかもしれない」という気になりましたし、良い読後感を貰ったと思っています。
──不思議な力を通して心を繋ぐというのは、ネットを通じて遠く離れた人とも交流できる現代と通じるものがあります。こういった形の物語を描いた理由はなんだったのでしょうか?
長井:秋が周囲と関係性を作る上で不思議な力を使う部分は最初からあったのですが、打ち合わせの段階でコロナ禍に入り、後からそういったテーマを色々と考えた部分があります。打ち合わせを重ねるごとにX(※旧Twitter)のマシュマロ機能とかがイメージに入ってきて、物語のテーマとしてどんどんスライドしていったのかなと。
田中:SNSとの対比みたいなことを台詞でも言わせていましたし、確かにそうだったという気がします。これまではあまりテーマを言わず、見て下さる方の判断に委ねるようにしていましたが、今回はハッキリ断定しているという印象でした。
長井:僕自身がSNSを一切やらないので、こういうものなのだろうなというイメージで描いているところがあります。だから、むしろハッキリ言わないと自分自身がよくわからなくなってしまうと思って、ああいった形になったのかもしれません。
──「ふれる」を通してファンタジーを描こうというのはテーマとしてあったのでしょうか?
長井:やっぱり映画っぽいものをやりたいと常に思っています。だから賑やかしのために、画面を派手にして盛り上がる要素を積み重ねて、現在の形に落ち着きました。その辺りは僕の方から派手にする要素としてオーダーした部分でもあります。
田中:例えば、「ふれる」の能力が凄すぎるとてんやわんやしてしまう。結局、ファンタジーの部分がありつつも、最終的には主人公3人のリアルな部分に落ち着くのは何となく分かっていたので、後はどう自分が納得するかをずっと繰り返していました。今回で僕らが作るファンタジーの“強度”がよく分かった気はしています。
東京・高田馬場で20歳の青年の物語を主軸として描いている以上、そこが壊れるほどのものはノイズにしかならない。だから「ふれる」のデザインを作っていく時も自分としてはびびっていましたし、「リアルな動物を引き合いに出されたら浮かないか?」という部分も含めて、丁度良い塩梅に仕上げるのは難しかったです。
──余談ですが、端々に登場しているキャラクターたちを青春三部作の出演キャストが演じていましたね。
長井:青春三部作では「同一の世界観の中で別のキャラクターを演じてもらう訳にはいかない」という縛りを設けていたのですが、今回はそれがなくなったのでちょっとクスっとしていただけたら嬉しいです。こちらとしても楽しんで作業ができたと思っています。
──収録時に何かお話されたりしたのでしょうか?
田中:僕はオンラインで参加しましたが、凄く活き活きとしたお芝居で聴いているだけでも楽しかったですね。
長井:茅野愛衣さんは、作品を作るごとに毎回ラジオなどで協力していただいているので、身内感が半端ないんです。「いつもありがとうございます……!」という感じでした。みなさん第一線で活躍されている方たちなので、声に関しての心配はなかったですね。
──長井監督、岡田さん、田中さんで再びお仕事をされてみて、改めて感じた3人の良さみたいなものはありましたか?
長井:気恥ずかしいですが、良くも悪くもやりやすいところでしょうか。今まで培ってきたものがあるからこそ、言葉に出さずともニュアンスで仕事ができる。そういうことをできるのが、この3人でやる時の良さなのかなと。そういうところも画面に落とし込みたいと思っています。
田中:この座組で仕事をさせていただいてから、かれこれ10年以上も作品を作り続けさせてもらっています。そんなことを許してもらえるのは、業界でも稀有な存在かもしれないですね。
こうやって長続きはしていても、物事がなあなあな形で決まることはありません。毎回意見が強くぶつかるような経験をしてここまで来たんです。ただ、お互いにいがみ合って、喧嘩別れするようなことにはならなくて。
作品を作る時はみんな本気なので、互いに本気でぶつかりあっています。
けれどそれが終われば普通に話もするし、人間関係自体はこれから先も続いていく。それがこの3人の面白さだし、そういう人間関係を作らせてもらえたことも含めてありがたいです。
作品の作り方、のめり込み方が独特なんですよ。やっぱり他の作品とは違うなと思うことがあります。でも、毎回作り終える頃には良い関係だと思えるんですよね。
[インタビュー/胃の上心臓]
作品概要
オリジナル長編アニメーション映画『ふれる。』
永瀬 廉 坂東龍汰 前田拳太郎
白石晴香 石見舞菜香
皆川猿時 津田健次郎
監督:長井龍雪
脚本:岡田麿里
キャラクターデザイン・総作画監督:田中将賀
音楽:横山 克 TeddyLoid 監督助手:森山博幸
プロップデザイン:髙田 晃
美術設定:塩澤良憲 榊枝利行(アートチーム・コンボイ)
美術監督:小柏弥生
色彩設計:中島和子
撮影監督:佐久間悠也
CGディレクター:渡邉啓太(サブリメイション)
編集:西山 茂
音響監督:明田川仁
制作:CloverWorks
YOASOBI「モノトーン」
(Echoes / Sony Music Entertainment (Japan) Inc.)
配給:東宝 アニプレックス
製作幹事:アニプレックス STORY inc.
製作:「ふれる。」製作委員会
©2024 FURERU PROJECT
絶賛公開中