「ずっと誰かに必要だと言ってほしい」不思議な生き物を通じて描かれる人と人との繋がり|映画『ふれる。』脚本・岡田麿里さんインタビュー
みんなが良いと思っている状況を諦めたくなかった
──脚本を作り上げるうえで、苦労した点をお聞かせください。
岡田:思春期の少年少女を描くことが多いのですが、自分としてはそこにこだわりはなくて。オーダーとしていただくことが多いのは、単純に思春期の作品を沢山やっているからだと思います。とはいえ、自分も思春期の頃は迷いや悩みが多かったので、消化しきれていない時代のことは強く描けるのかなと結論付けています。
やっぱり悩みがない時期のことって忘れがちじゃないですか。年を重ねると時間の流れが早く感じるのは、生きることに慣れてくる部分もあるからかなと。だからこそ、思春期を描き続けることで決着をつけられた部分もあったと思います。もちろん過去には戻れないので解決することはないのですが、今回も「あの時はこういう気分だった」とか、友達と共同生活を送っていた時期やその難しさを思い出しました。
特に秋たち3人は元から友達同士なので、状況が変わるからこその変化を感じました。『あの花』で描きたかったことの中に、「元々仲が良くても状況が変わると友達ではいられなくなる」というテーマがあって。スクールカーストや、それぞれの趣味などで置かれたポジションが変わるからこそ、友達ではいられないみたいな経験が私自身にもあったんです。
今回はその部分が少し違っていて、「本来なら友達にならなかったかもしれない子たちが友達になる」というのが自分の中でありました。本質を見ないからこそ、友達でいられる。でも、それで本当に友達だと言えるのか、そもそも本当の友達って何なのか。そういうところも描いてみたかったんです。
──3人と共同生活を送る鴨沢樹里(CV:白石晴香)、浅川奈南(CV:石見 舞菜香)を描く際はどんなことを意識していましたか?
岡田:どちらをヒロイン側にするかで、キャラクターがかなり変わるなと。樹里と奈南を描くのは楽しかったのですが、葛藤をある程度伏せる側と全部表に出す側で見え方が変わる。だからこそ描けた部分があったと思います。
例えば樹里のようなキャラクターは、ヒロインに選ばれにくい。奈南の方がヒロイン的なキャラクターで周囲から守ってもらっている。そういったことを踏まえたうえで、異性の不思議や異性をどう見ているのかを描きたいと思いました。
樹里と奈南は、秋たちよりも少し大人びている。お互いの視点から見たときに「何でそうなの!?」みたいなところも含めて愛しく思ってもらえたら嬉しいです。
──「ふれる」は台詞のないキャラクターですが、登場しているシーンではどのようなことに気を配っていましたか?
岡田:秋たちにとっては当たり前の存在なので、その能力はさておき、「ふれる」が居るからこそ生まれる秋たちの空気感みたいなものは大切にしています。「ふれる」が居るシーンはなるべく多くなるようにしていますが、中心にはいなくともなぜか温かいみたいな。そういう存在になって欲しいと思っていました。「ふれる」の何気ない存在感みたいな部分は、スタッフのみなさんのおかげで高まったと感じています。
──「ふれる」の力で繋がる3人というのは、SNSなどを通じて遠く離れた人たちと交流する現代とも近い部分があるように思います。
岡田:SNSの世界では、過剰に人が人を傷つけていたり、逆に共感で繋がっていたり、個人個人の本音が渦巻いています。本来なら隠すはずの凶暴性、他者を許せないというマイナスな気持ちも、最終的には「繋がりたい」という気持ちに傾いていく。
そうやって誰かと触れ合いたいという気持ち、本音を出しても受け入れられたいという気持ちを感じます。普段は本音を隠して生きているからこそ、SNSのような場所だと良くも悪くもその欲求が強くなるんだろうなと。本音で接するってどういうことなんだろうということをすごく考えました。
秋たちは本音でしか接するしかない状況に追いやられる訳ですが、彼らは「本音で接するのはこんなに楽なんだ」と思っている。逆に言えば、それによってお互いを計っているんです。3人の男の子の関係性を描く中で、そういうグチャグチャした感じがそのまま出せたらいいなと。ファンタジーという命題を持ちながらも、結局は地に足ついた今まで通りのキャラクターを描くお話になったら、逆にあまりみたことのない作品になるんじゃないかと。
──中盤で「ふれる」に関する秘密が明らかになってから、秋たちの繋がりもより強くなったように感じました。
岡田:マイナスとプラスの動き方が独特ですよね。性格的に、「すべての人が幸せでいられる瞬間はない」と思ってしまうタイプなんです。例えば、私が楽しいのは誰かがフォローしてくれているから、私が辛いのは誰かの犠牲になっているから……みたいな。
でも、そういう繋がり方を幸せに昇華できないかといつも思っているんです。みんなが同時に楽しいな、良いなと幸せを感じられる状況を諦めたくなかった。現実を生きていてファンタジーだなと思うような状況が、ファンタジーだからこそ叶うというか。そうあることができると思わせてくれる物語になっていると思っています。
──「ふれる」のキャラクター性には、幼少期の秋とも重なる部分があるなと。この辺りは意図したことだったのでしょうか?
岡田:確かに仰る通りですね。「ふれる」は寂しさを感じていて、自分の存在意義を誰かに認めてほしい。結局のところ自分を愛してほしいという気持ちが根底にあります。秋はみんなの中に入りたかった子なので、そういう風に感じ取ってもらえたのは嬉しいです。
個人的には、「ふれる」と秋は自分に自信がないところが一緒だと思います。私はどうしても「ふれる」に対して、妙に感情移入してしまうところがあって。それは私の中に「他人の物語に入れていない」という子供の頃からの気持ちがあるからなのかもしれません。ずっと誰かに必要だと言ってほしい、そんな「ふれる」のようなキャラクターに対しては気持ちが入ってしまいます。
──タイトルロゴのぴったりくっついた“。”は、「ふれる」を表しているように思えますね。
岡田:デザイナーさんが作ってくださったのですが、実は“ふ”と“れ”と“る”が全部違う書体になっているそうなんです。秋たちの関係性を表したかのような嬉しいデザインだなと。そこに「ふれる」がくっついていると考えると、個人的にぐっときちゃうロゴですね。3人はいつも一緒ですが、それは何かしらの犠牲や力が働いているからであって、本当はひとりひとり違っている。
でも、本当はそういうものがなくても一緒にいられるんじゃないか。或いは、物理的に一緒にいることが“一緒”ということなのか。10代後半から20代前半って、そういう友情の形について考える時期ですよね。この友達について考えられる年代を描けたのは、本当に良かったと思っています。
──最後に、公開を楽しみにしているファンのみなさんへのメッセージをお願いします。
岡田:今回は3人の男の子が主人公となっています。青春三部作からの新たな作品と思われるかもしれませんが、実質的には地続きなのかなと。長井監督の作家性、田中さんと私、スタッフも含め、この座組でやってきたからこその彩(いろ)を感じる映画になったと思います。ある意味で攻めた作品にもなっているので、ぜひ劇場へ来ていただけたら嬉しいです。
[インタビュー/胃の上心臓]
作品概要
オリジナル長編アニメーション映画『ふれる。』
永瀬 廉 坂東龍汰 前田拳太郎
白石晴香 石見舞菜香
皆川猿時 津田健次郎
監督:長井龍雪
脚本:岡田麿里
キャラクターデザイン・総作画監督:田中将賀
音楽:横山 克 TeddyLoid 監督助手:森山博幸
プロップデザイン:髙田 晃
美術設定:塩澤良憲 榊枝利行(アートチーム・コンボイ)
美術監督:小柏弥生
色彩設計:中島和子
撮影監督:佐久間悠也
CGディレクター:渡邉啓太(サブリメイション)
編集:西山 茂
音響監督:明田川仁
制作:CloverWorks
YOASOBI「モノトーン」
(Echoes / Sony Music Entertainment (Japan) Inc.)
配給:東宝 アニプレックス
製作幹事:アニプレックス STORY inc.
製作:「ふれる。」製作委員会
©2024 FURERU PROJECT
絶賛公開中