マンガ・ラノベ
【祝9周年】心に刻まれる“美しい『魔道祖師』の世界”を辿る

【今日で9周年!】魏無羨と藍忘機の運命的な出会いと再会、交差していく想い──心に刻まれる “美しい『魔道祖師』の世界” を辿る

墨香銅臭先生が綴る中国BLファンタジー小説『魔道祖師』は、Web小説サイト晋江文学城にて2015年10月から2016年3月にかけて連載。アニメや実写ドラマ『陳情令』、ラジオドラマ、漫画などのメディアミックスも展開し、世界中で熱狂的に愛される作品です。

聡明で快活な魏無羨(ウェイ・ウーシエン)と、品行方正で規律を重んじる藍忘機(ラン・ワンジー)の出会い、そして激動の運命を描く物語。

『魔道祖師』が初めての中華BL作品だという方も多いと思いますが、私もまたその一人です。アニメの『前塵編』『羨雲編』を視聴したのがきっかけで、その美しい世界観に一気に惹き込まれたのを覚えています。別タイトルの実写ドラマ『陳情令』が同じ原作であることを知り、その人気ぶりはただごとではないのだろうというのも感じていました。

実際に『陳情令』を観始めると夢中になり数日で全50話を駆け抜けて沼堕ちし、それから日本語版小説を読んで悶え続ける日々。ラジオドラマを聴いて、再度『陳情令』を視聴して幾度となく涙しました。

本稿では魏無羨と藍忘機の関係を中心に、“美しい『魔道祖師』の世界”を辿っていきます。

※本稿には『魔道祖師』『陳情令』の一部ネタバレが含まれます。

 

激動の時代に出会った魏無羨と藍忘機

 

物語の舞台は古代中国──妖魔や邪気などが人々の生活を脅かしていた架空の時代。その時代背景は魏晋南北朝をモデルとしているようです。

修真界(古代中国で仙人となることを目的とする修行者たちの世界)で勢力争いが繰り広げられるなか、名門の世家である姑蘇藍氏・雲夢江氏・岐山温氏・蘭陵金氏・清河聶氏によって世の中の秩序は統治されていました。

雲夢江氏の一番弟子・魏無羨は、江氏家主の養子として義弟・江澄(ジャン・チョン)と江澄の姉・江厭離(ジャン・イエンリー)とともに成長。「藍氏双璧」の美名を持つ姑蘇藍氏の第二公子・藍忘機と兄の藍曦臣(ラン・シーチェン)は、叔父の藍啓仁(ラン・チーレン)の厳しい教えのもとで育ちました。

乱世のなかで前線に立つのは大人だけでなく、少年たちもまた過酷な運命を背負うことに。激動の時代で魏無羨と藍忘機は出会い、壮絶な運命に翻弄されながら交差していく二人の想いが描かれていきます。

 

魏無羨と藍忘機の魅力と関係性

強さと儚さを併せ持つ魏無羨

 

少年時代に出会った魏無羨と藍忘機。出会うべくして出会った二人で、やがて惹かれ合うのもまた必然であると思わせてくれる魅力が双方にあります。

生死を共にした仲であり、お互いを認め合う関係でもありますが、魏無羨は世に邪道と言われる「鬼道」を修得して鬼笛「陳情」で怨念と屍を操るようになり、悲しくも彼らは衝突してしまいます。藍忘機はずっと魏無羨を心配し、苦悩しながら彼を守ろうとする姿も。

藍忘機が「含光君」と称される一方で、魏無羨もまた聡明で六芸に秀でた少年でした。剣の腕も立つ魏無羨がこれまで使ってきた剣「随便」を佩かなくなったのは何故なのか。善良で義侠心の強い魏無羨が魔道に走らざるを得なかった事情、誰にも言えず孤独に戦っていた寂しさや不安もまた心苦しいところです。

射日の征戦で功績を残すも、次第に仙門百家の共通の敵として仕立て上げられるように。「夷陵老祖」「無常邪尊」「魔道祖師」などとも呼ばれ、その強さは呪術陣の類に関して彼の右に出る者はいないほど。

朗らかな性格や笑顔が魅力でもありますが、己の信念を貫き通す強さと儚さを併せ持つ魏無羨から目が離せなくなります。

 

藍忘機の存在が救いに

 
十数年の時を経て再会した30代の藍忘機は、相変わらず天上人のような佇まいで麗しい。模範的で優等生な藍忘機らしからぬ胸の烙印や背中の戒鞭の痕が、生涯忘れ得ぬ想いを語っているかのようです。

魏無羨の姿形が変わろうとも静かに慕い続ける一途で健気な藍忘機。「献舍」という禁術で召喚された魏無羨の肉体は莫玄羽(モー・シュエンユー)なのですが、それでも変わらない藍忘機の愛情はあまりにも深いものです。

再会して魏無羨を雲深不知処に連れ帰った際に嬉しそうにしていたり、時に嫉妬心を見せたり、意外にも感情が態度に出ている藍忘機はすごく可愛い人。

過去の回想は“しんどい”部分も多いのですが、現世で魏無羨の隣に寄り添っている藍忘機の存在が読者にとっても救いになっています。

共に旅を続けるなかで藍忘機への想いを募らせ、惹かれていく魏無羨。お互いの肌に触れながらもすれ違ってきた二人の想いはもう止められず、ようやく重なり合っていきます。

 

自らを律する抹額と秘めた情欲

 

日頃自制して生きている分、お酒を飲んで酔ったときの反動が大きく、そのギャップも愛らしい藍忘機。規律を重んじる姑蘇藍氏だからこその背徳感も醍醐味で、自らを律するという信条を表す「抹額」に持たせる意味も秀逸です。

藍氏の開祖・藍安(ランアン)が言い残した言葉によると、“天が定めし者”──つまり愛する人の前でだけは何も律する必要はありません。その唯一の相手を除いて抹額は自分以外触れることを禁忌としているのですが、藍忘機がこの大切な抹額を魏無羨に触らせていることで我々は萌え転がることに。

そして『魔道祖師』では、玲瓏な含光君×聡明な夷陵老祖という最高に魅力的なカップリングを堪能できるわけですが、禁欲的な藍忘機が心を乱して情欲をぶつける姿も原作の見せ場のひとつ。普段は冷淡な表情をほとんど崩さず己を律しているのに、魏無羨に煽られると制御できなくなり、情熱的で目が血走るくらいに欲を見せる姿にもゾクゾクしてしまいます。

 

あの日の旋律が再び二人を結びつける

 

魏無羨と藍忘機を再び結びつけたのは、あの日の旋律。音楽も鍵となっている本作ならではの、なんとも美しい運命的な再会。魏無羨が鬼将軍・温寧(ウェン・ニン)を落ち着かせようと咄嗟に笛で吹いた曲によって、藍忘機は魏無羨だと確信しました。大梵山でその旋律を耳にしたときの藍忘機の心のざわめきは計り知れないものがあります。

私が『魔道祖師』に惹かれた理由のひとつは、魏無羨と藍忘機が大切にする曲「忘羨」。メディアミックス作品それぞれの「忘羨」を聴くことができ、主題曲やテーマソングとなっている合唱版の歌詞も物語にそっと寄り添っています。

 

◆『陳情令』主題曲「無羁/忘羨」(肖戦&王一博)

◆大河幻想ラジオドラマ『魔道祖師』第二期 テーマソング「忘羨」(鈴木達央&日野 聡)

 

魏無羨が音律に導かれた経緯を思うと複雑ではあるものの、音律に長ける二人が笛と琴の合奏で怨念などを鎮めるのも本作の魅力です。「安息」「清心音」「乱魄抄」など原作で登場する曲が実際に音源化しているのも嬉しいところ。

アニメやドラマでは“知己”という関係性の魏無羨と藍忘機ですが、あるいは“知音”とも呼べるのかもしれません。戦闘や鎮圧だけでなく『陳情令』では最後に二人の合奏シーンもあり、音楽を通じた絆に心酔してしまいます。

墨香先生はじめ多くの作家の創作に「金庸作品」が影響を与えたと言われていますが、金庸先生の『秘曲 笑傲江湖』に見られる知音の関係は、音楽に造詣が深い魏無羨と藍忘機に通ずるものがあると言えます。

◆“知音”について
“知音”とは心の通じた理解者や親友を指す言葉であり、“知己”と同じ意味で使われる言葉。『列子』の「湯問篇」で、いわゆる「知音」の故事が提示されています。

春秋時代の琴の名人・伯牙が弾く琴の音を通じて、友の鍾子期はその心をよく理解したのだとか。鍾子期の死後、伯牙は音を理解する者がいないとして琴を壊して弦を断ち、生涯弾かなかったといいます。

 

<次ページ:映像美&名曲と併せて心に刻まれる『魔道祖師』と『陳情令』>
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