音楽
楠木ともり 5th EP『吐露』インタビュー

楠木ともり 5th EP『吐露』インタビュー|ファンとの信頼感がある今だからこそ作り上げることができたEP

楠木ともりの5th EP『吐露』とライブBlu-ray『TOMORI KUSUNOKI BIRTHDAY LIVE 2023「back to back」』が11月6日にリリースされた。節目となるEPは、楠木ともりの純度100%を目指したと語ってくれていた通り、彼女の気持ちをそのまま歌で表現した曲が集まっていた。なぜこのタイミングで、このようなコンセプトのEPを作ろうと思ったのか。そして今回は、アレンジにも注目し、どのように音の世界を創り上げようと思ったのかなどを中心に話を聞いた。

 

 

ファンとの信頼感がある今だからこそ作り上げることができたEP

――なぜ、『吐露』というEPを作ろうと思ったのでしょうか?

楠木ともりさん(以下、楠木):アーティスト活動が、これから5周年に突入するんですけど、インディーズからメジャーアーティストとしてデビューして、どんどんできることが増えていったんです。特に象徴的なのは前シングルの「シンゲツ」なんですけど、サウンドプロデューサーがTETSUYAさん(L’Arc~en~Ciel)で、アニメのタイアップ。作り衣装もあって、ジャケット撮影では初めてセットも組んでいただいていたんです。楽曲もアートワークも、すべて創り込んだ世界観でやることができたシングルで、メジャーで活動する上での、ひとつの到達点でもあると思ったんですね。デビュー前には想像もしていなかったところに到達し、5枚目のEPを作ろうとなったときに、今までと違うことをやりたくなって、そこで、“原点に帰ろう”とすごく思ったんです。

 

 
これまでやってきたことを否定する気はまったくないんですけど、インディーズの頃に持っていた、本当に自分の吐き出したいことや、やりたい音楽を、純度100%を目指した形で出したかった。それによって自分を見つめ直したいと思ったのが『吐露』を作り始めたきっかけになります。だから「シンゲツ」がなければ、生まれなかった作品かもしれません。

――憧れのアーティストと一緒に音楽を作ったり、想像もできないようなことが実現するのは、ある意味メジャーだからこそですからね。

楠木:そうですね。ただ、そこで満たされて、アーティスト活動でやることはもうないです、という気持ちでもなかったんです。初回限定盤のBlu-rayに収録されている「吐露 Special Movie」でも話しているのですが、自分が成長していく過程の中で、仕方なく置いてきたものや捨ててしまったもの、まだ形にしていなかったものを、ちゃんと丁寧に拾い直したいと思っていたのかもしれないです。

――ただ、今作の豪華アレンジャー陣を見ればわかりますが、これまで積み重ねてきたものをしっかりと活かして表現しようという気持ちは見えますよね。

楠木:荒削りなところはサウンドやアートワークで出したかったけど、インディーズ盤を作りたいわけではないので、今だからできることをやりたいし、積み重ねてきたからこそ、完成図は見えていたので、そこは拾い上げたいと思いました。だから完全に本気のアレンジャー陣ですね(笑)。

 

 

――レコーディング&サウンドディレクターとしてタノウエマモルさん(ハートカンパニー)が参加していることは、制作するにあたってどんな影響があったのですか?

楠木:「シンゲツ」のカップリング曲「MAYBLUES」から参加してくださっているんですけど、これまでずっと、サウンドディレクター的な人がいなくて、レーベルとマネジメントと私で考えていたのですが、さすがに曲も増えてきたし、いろいろな曲があるから、ちゃんとサウンドディレクターを立てたほうがいいよねという話になったんです。

これまでは曲ごとにアレンジャーさんがディレクションをしてくださっていて、それによる差が出て良かったんですけど、そうすると同じEPに入る他の曲は知らなかったりするんですね。なので、ある程度軸になる方にいてもらったほうがいいと思い、タノウエさんのお願いしました。それによって作品全体のバランスも考えられるようになったので、安心感は全然違いました。

それに、私が言語化できないこと、たとえば「ここがモヤッとするんだけど、どう伝えればいいかわからないんです」と相談したりすることもできるので、すごくいい環境になったと思います。

――今回、アレンジャーさんを誰にお願いするかなども相談したのですか?

楠木:「風前の灯火」の重永亮介さんは、いちばん最初に希望を出していて、メジャーデビュー曲の「ハミダシモノ」からお世話になっているので、5枚目のEPならば、重永さん以外は認めません!みたいな感じでお願いしました(笑)。

 

 

――「風前の灯火」はリード曲ですが、どんな要望を出したのでしょうか?

楠木:バンドサウンドだけど、上モノでシンセがしっかり聴こえてきて、キメがいっぱいあるメリハリのある曲にしたいと、リファレンス曲と共に重永さんにお願いしました。それで上げてくださったアレンジも良かったのですが、リファレンス曲のサウンドに近すぎたので、もう少し楠木ともりっぽいサウンドを重永さんならば出せるのではないかと思って、シンセをピアノにしてもらい、ピアノを中心に、キメの位置なども微調整してもらったんです。私自身も私っぽさってよくわからないんですけど、それで上がってきたアレンジを聴いたとき、自分が歌う想像ができたんです。

――すごく印象的なピアノですよね。

楠木:特にイントロのフレーズが、ピアノにしたことで和な感じが出たんです。それによって「風前の灯火」という言葉にも合ったオケになったと思いました。ボーカルも、力強く歌っても弱く歌っても合うから、重永さんはボーカルをフィットさせる力がすごいんです。歌うことを想定してオケを作ってくださっている感じがしました。

――また「風前の灯火」は、「遣らずの雨」のアンサーソングでもあるそうですね。

楠木:「遣らずの雨」って、頑張りすぎて、今にも消えてしまいそうな人を引き止めようとする曲なんですけど、その結末がどうなったのかまでは書いていなかったんです。なので今回は「if」のストーリーとして、消えてしまいそうな人が、再び自分を燃え上がらせて立ち上がるまでを書けたらいいなと思いました。

――最後に〈燃え上がれ灯火〉と、立ち上げっていくところはドラマチックだなと思いました。ちなみに、アンサーソングであることは、重永さんにも伝えたのですか?

楠木:伝えてはいましたが、無理になぞる必要はないですと、重永さんにもMVの市川稜監督にも話していました。内容はアンサーソングだけど、主人公が変わるし、過去を引きずっている感じにするのもどうなのかな?と思ったので、過去のフレーズであったりは踏襲する必要はないなと…。

 

 

――でも、近い雰囲気にはなっていますよね。

楠木:そうですね。いいバランスになったと思います。ただ、MVのフードの衣装は「遣らずの雨」で使った衣装と同じなんですよ。だからそこは繋がりがありますね。

――フードを取ったあとの表情がすごく良かったですよ。

楠木:あれは何テイクも撮ったんです。表情がうまくできずに、「笑いすぎ」とか「笑わなすぎ」とか「カメラを追いかけましたね」って言われながら(笑)。それが撮影の一番最後のカットでした。

――“灯火”という言葉は、楠木ともりという名前を連想させるものですし、それが〈燃え上がれ灯火〉となって終わる。そういう意味でも、リード曲にふさわしいんじゃないですか?

楠木:そうですね。リード曲になるべくしてなったと思います。でもリード曲って、優劣をイメージするかもしれないですけど、楽曲に優劣があるわけではなく、1曲目として盤の顔になれるかというところだと思うんです。今回のEPは、楽曲名がタイトルではないので、1曲目に聴きたいかどうかを視野に入れて決めたところはあります。でも実は、「風前の灯火」というタイトルを考えたの、私じゃないんですよ(笑)。

――え! そうなんですか?

楠木:実は友達と、曲を書かなければいけないんだよねって話をしていて、「内容は決まってないけど、自分の名前にちなんだ曲にしたいんだよね。何かいい言葉ある?」と聞いたら、「じゃあ、あれは? 風前の灯火」と言われて、いいね!となって、この曲が生まれているんです(笑)。

――それは…、ご飯を奢らなきゃですね(笑)。

楠木:確かに(笑)。今回は、どうしてもタイトルから決めたくて。最初にコンセプトを作って、歌詞を広げていきたかったので、すごくいいタイトルになったなと思います。意味を調べて、これならば今の自分の気持ちにもリンクするし、そこから「遣らずの雨」に繋げたら面白いかもしれないと考えられたので、友人が「風前の灯火」と言ってくれなかったら、生まれていなかった曲だと思います。

 

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