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劇場版『風都探偵』塚田英明×椛島洋介インタビュー

劇場版『風都探偵 仮面ライダースカルの肖像』エグゼクティブプロデューサー・塚田英明さん×監督・椛島洋介さんインタビュー|鳴海荘吉/仮面ライダースカルの格好良さを追求した、新生「ビギンズナイト」ができるまで

「鳴海探偵事務所」にいつでも帰れるようにしたかった

ーー『風都探偵』をアニメ化する際にも、やはり“作り込み”の部分は意識されていたのでしょうか?

椛島:もちろんです。映像でお返しする以上、媒体は違っても「これは『仮面ライダーW』である」という部分は絶対に必要だと思っています。田﨑(竜太)監督が作り上げたビジュアルなど、拾える部分はしっかりと拾ったうえで、それが『風都探偵』になれば良いという想いで制作していました。

声が変っていても、(作画の)お芝居を研究して寄せれば、キャラクターたちが再現されるという自信があったんです。例えば、翔太郎に関しては、アニメーターたちに「とにかく桐山(漣)さんの細かい演技を拾ってほしい」という話をしていました。桐山さんと直接お話する機会はありませんでしたが、(Wのスーツアクターの)高岩さんとは細かくお話させていただき、翔太郎の演技についてご指南いただいて。それらを参考にしつつ、まずは「声がなくても桐山さんの声が聞こえること」を目指しました。

塚田:作品を深くリスペクトしていただいて、本当にありがたいです。観ている方にとっては自然に映るかもしれませんが、実写で簡単にできても、アニメでは難しいことって沢山あるんですよ。労を惜しまず、こだわりの詰まった映像にしていただいて、それは間違いなく監督のおかげだと思っています。

椛島:その最たる部分は「鳴海探偵事務所」かなと。実写のセットは撮影が終わると解体されますが、アニメは一度作っておけば、いつでも事務所に戻ることができます。

加えて、実写では難しい導線の部分。入口から事務所にしっかり入れるようにしたいなと。「この中に事務所がある」という繋がり、「いつでも事務所に帰れる」という強みを表現したかったんです。

塚田:川越のロケ地と事務所のセットは別なので、「作中の導線をしっかり描きたい」という監督の熱量は面白いですね。

ーー一人称視点で事務所を進んでいく描写もすごく新鮮でした。

椛島:「あの階段を自分で昇ってみたい」という気持ちがありまして(笑)。「それを誰にやってもらうか」は演出の範疇だったと思いますが、きっかけとしてはそこですね。

ーー当時から携わっている塚田さんからすると、これ程までに『仮面ライダーW』を愛している椛島監督が『風都探偵』を手掛けているのは嬉しいことなのでは?

塚田:嬉しいですね。作り手の喜びはこういうことに尽きると思います。

余談ですが、直近で名古屋に出張していまして。仕事終わりにバーで飲んでいたんです。そこで『仮面ライダーW』放送当時の話をしていると、隣の若いお客さんが「ファング」や「エクストリーム」という単語に反応して、「それ『仮面ライダーW』ですよね! 見てました」って話しかけてくれて。感激しました。

そういう愛を持った方々に支えられているし、当時観てくださった方々で新しいクリエイトをしてくれることに対してもワクワクしかありません。

ーー仮面ライダーの戦闘シーンについても、お伺いさせてください。椛島監督は仮面ライダーアニメーター(作画監督)としてもクレジットされていますが、どのように作り上げているのでしょうか?

椛島:基本的には、原画マンが描いたものに自分が手を加えていくという流れです。仮面ライダーが初めて30分アニメで動くということで、最初はかなりのプレッシャーがありました。仮面ライダーの作画は、線一本ズレただけで人相がかなり変わるんですよ。

目の形は若干おにぎり型なのですが、少しでも三角形に寄せすぎると悪役のような印象になってしまいます。元々のデザインでも若干垂れ目なので、その微妙なバランスを保つことが重要でした。

加えて、「スーツアクターの高岩(成二)さんが演じている」という部分も、個人的に追求していきたくて。本当はもっと細かい演技まで再現したかったのですが……ポイントごとにリアクションの取り方や振り向き方など、可能な範囲で工夫しています。ただ、お芝居を固めすぎると、アニメーターの遊ぶ余地がなくなってしまうので、「これ以降はアニメならではの激しさを出そう」という領分は作っていました。

塚田:劇場版で仮面ライダースカルを描くにあたっても、スーツアクターの永徳さんに取材させていただいたんです。

ーーそれはすごい! 永徳さんが演じる仮面ライダースカルのアクションには独特の凄味がありますよね。

椛島:実際にスカルのアクションにどういう意図があったのかも改めてお伺いして、「一発一発の重さを出すことにこだわった」と。

それを踏まえて、序盤のアントライオン・ドーパント戦では、一撃の重みをしっかりと出せるように演出しています。パンチの直前に腕を引いた際、腕が消えて見えるレベルの初速を出して、ヒットする瞬間は「ドン!」と重さを感じさせたいなと。そういった要望にもアニメーターたちがしっかり応えてくれましたね。

ーーやっぱり制作スタッフの中にも『仮面ライダー』好きの方は多いのでしょうか?

椛島:多いですね。好きな人だらけなので、細かい説明は不要だと思います。

戦闘シーンと少年翔太郎に込めた、アニメならではのこだわり

ーー今回の劇場版の企画が始動するまでの経緯をお聞かせください。

塚田:劇場版の企画が立ち上がった際には、さまざまなアイデアが出ていました。シリーズアニメでは描かれていないパズル・ドーパントの回(「pは悪魔だ」/第3集)、アクセルが活躍する回(「闇はoの巣」/第7集)とか。

ただ、三条(陸)さんにもご意見をいただく中で、劇場にお客さんを呼び込める一番強い要素は、仮面ライダースカル(鳴海荘吉)が出ることなんじゃないかと。それだけでまとまった物語になりますし、原作の流れとも合っていたので、原作第6集で描かれる「スカル編」をやろうという話になりました。

椛島:既に面白い映画(『仮面ライダー×仮面ライダー W&ディケイド MOVIE大戦2010』)があるので、ある程度寄せて作る必要があるとは思っていて。そのプレッシャーから逃げたいという気持ちも少しありました(笑)。ただ、やるからにはしっかりと向き合って、作り上げた作品が今回の劇場版です。

塚田:全てをなぞっている訳ではないですが、確実に映画と同じシーンがありますからね。

椛島:そうですね。既に作られている映像があって、キャラクターが正しく演出されているので、そこは割り切って寄せるという考え方です。

例外的にタブー・ドーパント(園咲冴子)戦は、三条先生から「面白く動かしてほしい」というオーダーがありまして。タブー戦に入る前のくだりをコンパクトにしつつ、その後のバトルシーンを膨らませました。バトルの尺を伸ばしたり、背中から出ている触手をヘビのようにウネウネさせたり、アニメならではの演出を加えています。

ーーその他に三条さんからはどんなリクエストがありましたか?

椛島:三条先生の中で、「実写のビギンズナイトは設定が固まっていなかった関係で、ファングジョーカーのアクションが控えめだった」という印象があったらしく、もっと暴れさせてほしいと。そこで今回は、原画を雨宮哲さん(『SSSS.GRIDMAN』の監督)にお任せして、不殺の範囲で徹底的に暴れさせることにしました。複眼を常に発光させてその軌跡を引っ張るとか、ある意味でベタな演出も取り入れています。

あとは、シチュエーションの作り方ですね。瓦礫をもっと増やしたり、ケーブルから火花を散らしたり、アニメの強みを活かした演出を心がけました。

ーー内山さんにお話を伺ったところ、アフレコでは「獣感を出してほしい」とディレクションがあったとか。

椛島:そうですね。咆哮は多めにやっていただきました。「多すぎじゃないか」とツッコまれることもありましたけど(笑)。元々内山さんはメリハリの効いたキャラクターもできる方なので、2度美味しい感じになっていると思います。

塚田:普段はクールなギャップもあって、荒々しい芝居をしていただくと迫るものがありますね。『風都探偵』のキャスト陣は、素がキャラクターに似ている気がします。細谷さんはどこか翔太郎に似ていますし、内山さんもフィリップっぽい。

椛島:雰囲気はそのままですね。

ーー『風都探偵』のキャストのお芝居は、実写のキャストに寄せているというより、キャラクターのコアを捉え直している感じがしました。

椛島:単純なモノマネになると、何をやっているのか分からなくなってしまうと思います。根幹の部分をしっかり考えていただいているからこそ、観ている方が「翔太郎とフィリップだ!」と感じられるんじゃないでしょうか。

塚田:劇場版では、翔太郎とフィリップの出会いを描いているので、ふたりが成長する前のストーリーなんですよね。フィリップは魔少年ギラギラですし、翔太郎の少年時代も描かれるので、より役に向きあって演じていただけたと思います。

ーーシリーズアニメと劇場版では尺や画面比率も異なっていますが、演出面で意識的に変えたことはありますか?

椛島:物語は地続きなので大きく変更した部分はありませんが、大画面で観ることも想定して、引きの画は多めにしています。

画面比率に関しては、シリーズアニメでも第1話の冒頭や最終回のダイジェストムービーでシネスコ(シネマスコープ)を採用し、回想シーンはシネスコのフレームを透かして表現していました。劇場版を作るにあたって、シネスコとビスタサイズ(16:9)を交互に使用できないことが分かったので、思い切ってシネスコに統一しています。

ーー今回の劇場版では、実写の「ビギンズナイト」にはない翔太郎と鳴海荘吉の出会いも描かれていますね。

塚田:そうですね。実写で描かれたことも踏まえたうえで、三条さんがひとつの流れに再構築した「ビギンズナイト」を映像で観られるのは、劇場版の魅力のひとつです。

椛島:少年翔太郎を映像で描けるのは演出家としても、いちファンとしても嬉しいポイントでした。実写にも一応登場していますが、そこまで沢山出番はなかったので。例えば、階段を登るシーンで一度行き過ぎてしまう場面。大人の翔太郎もよく行き過ぎているので、「子供の頃からやっていたんだ」「同じ人なんだ」と思っていただきたくて、細かい芝居を入れています。

ーーちなみに、シリーズアニメの冒頭も「ビギンズナイト」から始まっていましたが、あれはどういう経緯で実現したのでしょうか?

塚田:『風都探偵』はビッグコミックスピリッツで連載していますが、連載当初は、Wを知らない方々に対して敢えて「仮面ライダー」とは謳わず、変身する回で「これって仮面ライダーの話だったんだ」と分かるような構成にしていました。『仮面ライダーW』を観ていない人たちが驚くという仕掛けです。

ただ、アニメを観る方の多くは原作を知っているでしょうし、冒頭で仮面ライダーのアクションをしっかり見せるために『ビギンズナイト』を持ってくるアイデアが浮上したという流れだったと気がします。

椛島:確か、初めて大泉(東映東京撮影所)の会議室で僕と塚田さんと三条先生、3人で集まった時に決まったと思います。その後も色々なやり取りがあって、最終的には“翔太郎が見たもの”というまとめ方になりました。

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