「一緒に作る人たちとの“雰囲気”は大事にしたいと思っています」――『仮面ライダーW』を手掛けた三条陸さんが語る、王道に“威力”を宿す作品づくりと決め台詞が生むドラマ性|劇場版『風都探偵 仮面ライダースカルの肖像』インタビュー
『ロボット刑事』と『イナズマンF』、設定に取り入れた石ノ森作品のエッセンス
ーー『風都探偵』では、新キャラクターのときめが物語の鍵を握っています。どのように彼女のキャラクター像を作り上げたのでしょうか?
三条:『風都探偵』のアイコンというか、この作品にしか登場しないキャラクターが絶対に必要だと思ったんです。『仮面ライダーW』ではフィリップが物語の縦軸を担っていましたが、『風都探偵』の縦軸は翔太郎になるため、彼の新しい相棒として、ときめを登場させました。
ーー初登場時のときめはかなり怪しい雰囲気でしたが、あれは意図したものだったのでしょうか?
三条:これまでの話を踏まえると、翔太郎と接近するのは大抵“悪女”じゃないですか。読者に「またこのパターンか……」と思わせたくて、出だしは事件で知り合った怪しい子という見せ方になっています。本人が自分のことを分かっていないという設定は、初期のフィリップと似ていますね。ときめも記憶がない状態から始まって、次第に人間味が伝わっていくように描いていました。
ーーときめの過去に深く関わっている「裏風都」という設定も非常に斬新だと感じました。
三条:あれは、僕が子供の頃に好きだった『イナズマンF(フラッシュ)』という作品が元ネタです。
ーーなるほど。敵組織・デスパー軍団の本拠地である「デスパー・シティ」ですか。
三条:はい、「デスパー・シティ」絡みのエピソードが大好きなんです。相棒の荒井誠というインターポールの捜査官が記憶を失っていて、「どうやらデスパー・シティに奥さんと娘がいるらしい」みたいな。あの構造やドラマの展開が非常に面白いなと。
『仮面ライダーW』を始める際にも「仮面ライダーの原点に立ち返りつつ、探偵モノをやる」という話になり、石ノ森章太郎先生の他作品、特に『ロボット刑事』を参考にしていました。「バドーロボット」で犯罪を幇助するという敵組織(バドー犯罪シンジケート)の設定が上手くできているんですよね。『仮面ライダーW』の中で、「バドーロボット」に相当するものが「ガイアメモリ」。罪を犯すのは普通の人たちで、それを背後で操る存在がいるという形式にしました。他の石ノ森作品からエッセンスを取り入れるのは、『仮面ライダーW』からずっと続けていることだったんです。
整理されたWだけの「ビギンズナイト」を作りたかった
ーー今回の劇場版の原作にあたる部分についてもお聞かせください。『風都探偵』で改めて「ビギンズナイト」を描いた理由は何だったのでしょうか?
三条:ありがたいことに『風都探偵』の連載が軌道に乗り、コミックスの売上も非常に好調だったので、しばらく続けられる見込みが立ちました。続いた時にやりたいと思っていたネタのひとつが、翔太郎の根源を描く「仮面ライダースカル編」だったんです。
『仮面ライダーW』第1話の冒頭や『仮面ライダー×仮面ライダー W&ディケイド MOVIE大戦2010』で既に描かれていますが、『風都探偵』の読者には知らない人もいると思いますし、「ときめを通して知っていく」という語り口で「ビギンズナイト」をやれたら良いなと。
『仮面ライダー×仮面ライダーオーズ&W feat.スカル MOVIE大戦CORE』も含め、仮面ライダースカルの物語は「MOVIE大戦」なので、他作品との共演シーンがありますよね。僕自身、改めて見返す時に気が散ってしまうので(笑)、整理されたWだけの「ビギンズナイト」を作りたいという気持ちがありました。満を持して、そのアイデアが実現できた形です。
ーー漫画では、翔太郎の少年時代を描くエピソードも追加されていました。
三条:実は2本目の「MOVIE大戦」をやるタイミングで、「コミックを掲載したい」というタイアップの企画が出まして。その時に「これまで断片的に描かれていた翔太郎の過去をしっかり描いてみる」というアイデアが浮かんで、プロットを作ったんです。あの話自体は、その時に考えたものですね。
ーーそんなに前から……! 仰っていた通り、本当に「満を持して」だったという訳ですね。劇場版『風都探偵 仮面ライダースカルの肖像』は、そんな「ビギンズナイト」をたっぷり堪能できる内容となっていますが、ご覧になっていかがでしたか?
三条:映画館のスクリーンで見ると迫力がありますね。シリーズアニメは1巻分のストーリーを3話構成で描いていましたが、一気に見ると全然違う感動があると言いますか。キャラクターのメンタル的な部分も丁寧に描いていただいて、特に終盤は胸に迫るものがありました。
ーーシリーズアニメも含め、映像から『仮面ライダーW』への愛が伝わってきますよね。
三条:本当にありがたいです。好きでやってくれていることが伝わると、こちらも得した気がするじゃないですか(笑)。W放送終了後の商品展開などもそうですが、愛のある人たちが次々に現れて、新しいものを作ってくれるというのは滅多にないことだと思います。