「一緒に作る人たちとの“雰囲気”は大事にしたいと思っています」――『仮面ライダーW』を手掛けた三条陸さんが語る、王道に“威力”を宿す作品づくりと決め台詞が生むドラマ性|劇場版『風都探偵 仮面ライダースカルの肖像』インタビュー
決め台詞は“置いてある”から意味がある
ーーここからは作品作りに関するお話を伺いたいと思います。三条さんの作品には、数多くの魅力的な敵キャラクターが登場しますが、敵を描く際に意識していることはありますか?
三条:敵キャラクターの方が描いていて楽なんですよ。ヒーロー側は“やってはいけないこと”が多く、その分キャラクターに制約がかかります。一方の敵は嫌われても良いからこそ、自由度が高いです。
加えて、『仮面ライダーW』のようなヒーロー作品では、敵が面白くないと、倒した時の爽快感を感じられません。「どんな風に悪いのか」を突き詰めて描く必要があるので、常に「敵は頑張って作らないと」という気持ちです。端的に言えば「敵キャラクターを面白くする=作品を面白くする」なので、自然と個性的なキャラクターが多くなる気はしますね。
ーー三条さんから見た、魅力的な敵キャラクターの条件があれば伺いたいです。
三条:頭が良くて、簡単には勝てないと思えるキャラクターが良いですね。映画で言うと『ブレードランナー』のロイや、『ダイ・ハード』のハンス・グルーバー。あのくらいの人たちが好きです。大体の悪役には、少し間が抜けている部分があるものなんですよ。「そんなものは放っておけ!」とか(笑)。
ーーそれが原因で負けたりしますよね(笑)。
三条:そうそう。ただ、あの2作品は最後まで手強くて、一般的な悪役が引っかかる部分をすり抜けるどころか、ヒーロー側を引っ掛けてきます。観ていて「コイツは手強いぞ」と思って、最後まで楽しく観ていました。
ーー敵キャラクターだけでなく、「おまえの罪を数えろ」など、格好良い決め台詞も三条さんの作品の魅力なのかなと。こういったキャッチーな言い回しはどこから生まれるのでしょうか?
三条:基本的には、要望に応じて考えています。例えば『獣電戦隊キョウリュウジャー』の「荒れるぜ!止めてみな!」は、「名乗り終わった後にレッドの号令を入れたい」というオーダーがありまして。本当は「暴れる」という言葉を使いたかったんですけど、既に『爆竜戦隊アバレンジャー』があったので、そのままでは使えない。色々と考えた結果、「荒れる」という言葉を使うことにしました。ただ、『暴れる』よりも言葉としてのパンチが弱くなるため、最終的に「止めてみな」を付け加えたという流れだったと思います。
「おまえの罪を数えろ」に関しては、塚田さんが「『三つ数えろ※1』を決め台詞にしよう」と言い出したんですよ。ただ、それだけだと冷徹に聞こえますし、毎回数えさせる訳にもいかないので、「数えろ」だけ使いましょうと。「何を数えさせるか?」と考えた結果、相手の罪を数えさせるという発想になりました。
そうやって、これまでの作品にないフレーズを探したり、色々な言葉を組み合わせたり、キャラクターの出自を考えたりして、決め台詞を作っています。
※1:レイモンド・チャンドラーのハードボイルド小説『大いなる眠り』を原作とするサスペンス映画。1946年公開。
ーー「おまえの罪を数えろ」に対して、敵がユニークな返しをする場面も印象的でした。
三条:あれはバリエーションのひとつですね。仮面ライダーエターナルやユートピア・ドーパント(加頭順)など、あの台詞にコメントするキャラクターは、一癖ある敵として描いています。
ーー台詞自体の深みも物語が進むにつれて、どんどん増していった印象があります。
三条:実は吉川晃司さんから『仮面ライダー×仮面ライダー オーズ&ダブル feat.スカル MOVIE大戦CORE』に出演される際、「どこか荘吉らしくない冷たい台詞だと感じるので、彼が何故この言葉を言うようになったのかを描いてほしい」という要望がありました。
色々と考えた時に、荘吉は最初に“自分の罪”を数えたんじゃないかなと。そういう経緯であの物語が生まれたんですよね。敵が返したり、言葉の出自が分かったり、作品の中で揉まれることで、決め台詞の深みは増していきます。そもそも決め台詞って、“置いてある”ことに意味があると思うんです。
ーー“置いてある”ですか。
三条:『ガルーダの戦士ビマX』というインドネシアの特撮作品をやった時に、英語と日本語をまじえながら現地のプロデューサーと打ち合わせをしていたのですが、その方が「set phrase(決め台詞)」という言葉を何度も使っていて。英語ではそういう言い方なんだと驚きました。
戦う時に言う台詞、キャラクターが口癖として使う台詞も、文字通り“セットしてあるフレーズ”(台詞)ですよね。決め台詞でドラマが面白くなるのは、いつも同じところに“置いてある”からこそなので、「set phrase」という言い方にはすごく納得できました。そこから決め台詞の置き方、扱い方や捻り方なんかも変わったと思います。
例を挙げると『仮面ライダードライブ』のベルトさん(クリム・スタインベルト)の「スタート・ユア・エンジン!」という台詞が、ここぞという時には「スタート・アワー・エンジン!」になる。ああいうのが良いじゃないですか。
ーー最高ですね。お話に上がっている三条さんの様々な作品から、「王道」の面白さ、格好良さを教えていただきました。
三条:ありがとうございます。ただ、僕自身が「王道に作るべし」というポリシーを持っている訳ではなく、要望に合わせた結果なんです。多くの人に好かれるものを作る時は、自然とそうなっていくんじゃないでしょうか。回答が変化球じゃないと成立しないなら、当然変化球を投げます。ストレートを投げるのは一番怖いことなので、わりと王道でやり切る人も少ないですしね。打たれたらスタンドに入りますし、“威力”がなければ棒球になってしまいます。
ーーどういう条件が揃った時に、王道の物語に必要な“威力”が出るものなのでしょうか?
三条:それは簡単で、チームが上手くいっている時です。漫画原作者は漫画家さんと編集者さんと、常にトリオで作品を作っています。ましてや、番組を作るときなんて物凄い数の人が関わっている訳です。関わっている全員が楽しんでいないと、自分だけ頑張っても上手くいかないんですよ。みんながノッてくると「あれもやってみよう!」という気持ちになりますから、“威力”も出てきます。
ーー三条さんは「チームで作品を作る」ということを何より大切にされているんですね。
三条:元々そういうタイプではあったんですけど、『冒険王ビィト』が長期休載に入ったタイミングで、独りでやっていても精度は上がらないと改めて実感しました。その辺りから色々な人の話を聞くようになって、TVの仕事で何かを掴んだ感覚があります。その後の10年間でドラマやアニメの脚本を経験して、最近はまた漫画原作を中心にやっていますが、やはり以前とは違い、漫画家さんに楽しさが伝わる書き方をより意識するようになりました。これからも、一緒に作る人たちとの“雰囲気”は大事にしたいと思っています。
ーーそういう意味では、今回の劇場版もキャスト・スタッフ陣がノリノリで作ったからこそ、“威力”のある作品になっていますね。
三条:そうですね。鳴海荘吉/仮面ライダースカルの特殊性も含め、よりキャラクターが魅力的に見える部分は多かったです。観ていただいて、得るものが大きい作品になっていると思います。僕もすごく感激しましたけど、みなさんにも劇場で同じ感激を味わっていただけると嬉しいです。
[インタビュー/小川いなり]
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キャスト
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