『夏目友人帳』ファンは絶対見て! 儚くも温かな恋物語! 何度視聴しても気づきがある名作映画『蛍火の杜へ』の魅力【dアニメストア・U-NEXTで再配信中】
切なさと温かさが胸を打つ純愛
本作で話題になるのが、何と言っても心温まるシーンと切ないシーンの対比です。
作中では、少年少女の淡い恋模様が描かれており、二人の純愛には温かさと切なさが同居しています。
初めての出会いから毎年夏だけの逢瀬を重ね、次第に相手に抱く気持ちが恋心に成長する蛍とギン。それに合わせて、二人の距離感も友達から、より親密なものへと変化していきます。
しかし、二人が親密になればなるほど大きな壁となってくるのが、ギンが人に触れれば消えてしまうという事実です。
お互いに相手が好きで、手を伸ばせば触れられる距離にいるのに、それが叶わない。思い通りにいかない状況はもどかしく、私たち視聴者の胸をどうしようもなく締め付けます。
こうした切なさがある一方、筆者が本作を再視聴して感動したのは、何も言わなくても、お互いに気持ちが通じ合っている蛍とギンの関係性です。
例えば、作中で何度か描かれる、毎年蛍とギンが待ち合わせをする場面。
蛍が子供の頃はギンが声をかけてから一緒に森へと入っていましたが、高校生になった頃には、ギンが何も言わずとも蛍は自然と隣に並んで森に入るようになります。
ちょっとした変化ではありますが、触れることはできなくても、二人の気持ちが確かに繋がっていることがわかるはず。
そんな蛍とギンの関係性は微笑ましく、優しく温かな感情を呼び起こしてくれます。
何気ない日々の愛おしさに気づかせてくれる
本作は何気ない日々の愛おしさに気づかせてくれる作品でもあります。
蛍とギンが会う時には特別なことをするわけではなく、蛍が子どもの頃は森の中で走り回ったり、追いかけっこをしたりして同じ時間を過ごしてきました。
ちょっとしたことでも楽しそうで、それは時間を重ねても変わりません。二人にとって一緒にいられること自体が特別なのです。
ただ、蛍とギンには年齢の重ね方に違いがあります。
毎年会うたびに大人へと成長していく蛍に対し、出会った頃とほとんど姿が変わらないギン。ずっと同じ時を過ごしたいけれど、いつか必ず別れが訪れることを、蛍は否が応でも認識させられてしまいます。
普段意識することはないですが、これは私たちも同じ。当たり前のように過ぎていく日々、それは当たり前のものではないのです。
そう思いながら再び本作を視聴してみると、何気ない時間を過ごすギンと蛍の描写が何よりも愛おしく、より胸に迫ってくることに気づかされます。
また、作中において蛍とギンは毎年夏に会う約束をしますが、それは不確かなもので次の夏も会える保証はどこにもありません。
ギンと蛍が次の年にまた会えることは奇跡のようなもので、一緒に過ごせる時間はきっと何物にも代えがたい喜びがあるはず。
また会える時を心待ちに出来る相手がいること、そして再び会えることが、どれほど幸せなのかを二人は教えてくれます。
相手を大切に想う優しさに涙がこぼれる
そして、相手を大切に想う優しさに温かい涙がこぼれるのも本作の魅力です。
なかでもギンが蛍へ向ける眼差しには、改めて再視聴した際に、心を揺さぶられるものがありました。
蛍が迷子で泣いている時に自ら声をかけたり、木から落ちそうになった時にはすぐに助けようと駆け出したり。
淡々とした口調が特徴的で、表情も狐の面で見えないギンですが、その言葉や態度にはいつも胸をじんわりと温めてくれる優しさがあります。
共に過ごした時間が積み重なるほどに、蛍と同じかそれ以上に、会えない時間も想いを募らせる姿が印象的に映るギン。出会った頃と姿はほとんど同じでも、ギンが蛍に抱く気持ちは確実に変化しているのです。
そんな彼ですが、今まで以上にずっと一緒にいられる進路を望む高校生の蛍に対し、自分のことを「忘れてしまっていいんだよ」と穏やかで少し寂しげな声色で応じます。
自分から身を引くかのような言葉は切ないものではありますが、ギンは蛍を心から大切に想うからこそ、これ以上自分に縛られないでほしいと思ったのではないでしょうか。
本当は蛍と同じ気持ちで、ずっと一緒の時間を過ごしたくてたまらないはずなのに。
見返りを求めず、自分のことよりも相手の幸せを願う。ギンの優しさは深く、まっすぐで、私たち視聴者の心までも温かく包み込んでくれます。
最後に
涙がこぼれ、温かい感情に包まれること必至の名作『蛍火の杜へ』。
改めて一つひとつの場面を見てみると、また違った味わいがあり、より一層物語の奥行きを感じることができるはず。
出会いから10年という歳月を重ねた蛍とギンの交流は、二人に今まで抱いたことのない感情をもたらし、私たち視聴者にも忘れてはいけない大切なことを教えてくれます。
短い時間の中に様々な要素が散りばめられ、視聴するたびに新たな気づきがある本作。再配信が始まった今だからこそ、ぜひ多くの方に、この物語に触れていただけたら幸いです。
[文/シモヤマ ヨウ]