ドランの“余裕”を大事にしながらも、熱い戦闘シーンにたかぶってしまう──秋アニメ『さようなら竜生、こんにちは人生』ドラン役 武内駿輔さん【連載インタビュー第5回】
特に難しいなと感じたのは驚き具合
──ドランを演じていて、楽しいと感じるところ、難しいと感じるところはどんなところですか?
武内:たまに竜の状態になるので、お芝居の幅を利かせられるのはすごく楽しいですね。ただ、青年のドランは竜としての力強さや芯を感じつつも体はあくまでも若い人間なので、最初はそのバランス感を掴むのが難しかったです。フレッシュな心持ちはあるけれど、若さを意識すればいいという単純な話しではないんです。一度は生き物としての生をまっとうしたわけですから。
そういう意味で、特に難しいなと感じたのは驚き具合でした。ドランは何かに反応するときに「ふむ」、「なるほど」、「そうなのか」と、口癖のようにリアクションするんですよ。人間になってから初めて経験することでも、きっとその状況は知識としてあるし、もしかしたら経験しているからか、ごく普通の青年がするような反応をしないんです。
──なるほど!
武内:例えば、セリナが旦那さんを探していると言ったら、普通は「そうなんだ」、「なぜ旦那さんを探しているんだろう?」という反応になりますよね? でも、ドランはきっとラミアの知識をある程度持っているでしょうし、初めて知ることでも「ふむ」と飲み込むような反応になる。その辺のバランスは難しくもあり、やりがいもあるポイントでした。
──この作品は、ドランと村人のやりとりであったり、村人の描写であったりと、コミュニティの描き方も面白いですよね。
武内:僕も『竜生』は村でのやりとりこそが、作品の根幹にあるのかなと思います。素晴らしい戦闘シーンもありますけど、でもこの作品ならではの部分というと村の描写なんじゃないかなと。村の生活そのものもそうですし、生活のリズムや村人のルーティンも丁寧に描かれている。それは他の作品にはない大きな魅力だと感じています。
──村人たちも魅力的に描かれていますよね。
武内:みんないい人たちばかりなんですよ。よそ者も受け入れようという集落の形はすごく魅力的でした。僕自身は東京生まれで、周囲に田んぼや畑があるような環境ではなかったので、ベルン村のようなコミュニティにはすごく憧れますし、丁寧に描かれた村の生活は見ていてとても楽しいです。
──リレーインタビュー第2回で、西田健一監督も村の描写を大事にして、ドランが守るに値する村であることを表現したいとおっしゃっていました。
武内:コミュニティの大切さ、みたいなものは僕も最近すごく実感しつつありますね。先日、ハロウィンがあったじゃないですか? 以前、住んでいたところでは子どもたちがハロウィンを楽しんでいる姿ってあまり見たことがなかったんですけど、今住んでいるところは、ちびっ子が仮装してお宅を訪問したり、お店の人が仮装してお店でお菓子を配っていたりするんです。あるお宅には、「カボチャをご自由にお取りください」という張り紙があったりして。
そういうのを体験すると、人とのつながりって大切なんだと改めて実感します。都心にいると誰かがお祭りの準備をしているから自分は行くだけでいい、楽しむだけでいいと、どうしても受け身になってしまいがちですよね。でも、みんなでお祭りを作るのもいいなって。だから、僕もいただいたカボチャでキャンドルを作って飾ったんです。
──すごいですね!
武内:それがすごく楽しかったですし、コミュニティ内の人とつながって作り手側の姿勢になるのもいいなと感じました。ベルン村もきっとこんな感じなんだろうなと思います。
──ドランはセリナやクリスティーナを受け入れる側として動いていましたね。
武内:そうなんです。ちゃんと根回ししたり、案内したりできるんですよ。その姿勢は僕も見習いたいポイントですね。
──では、そのセリナとクリスティーナについてはどのような印象をお持ちですか?
武内:セリナは作品の華として、物語に動きをつけてくれる存在ですね。その場にいるだけで華やかに感じられますし、村のコミュニティというのも、外からやって来た彼女のおかげで細かく描けている部分があると思います。個人的には、真摯なところに魅力を感じました。村に受け入れてもらうときも、相手が思っている以上の誠意を見せようとする。計算とかではなく、真摯な思いが行動に表れるところが彼女のいいところだと思います。
クリスティーナはセリナのいい友人となって、どこかお姉さんっぽさも感じられました。演じられているお二人からは、自然とセリナとクリスティーナの雰囲気を感じることがあります。関根さんは大きな動きでやや前のめりに演じるところにセリナらしさが感じられますし、クリスティーナを演じているときの大橋さんからは凛とした佇まいが感じられて、そういう部分もセリナとクリスティーナっぽいな、と。
──確かにセリナは前のめりになるリアクションが多いですし、クリスティーナは常に凛としていますよね。
武内:そういったセリナとクリスティーナの違いをお互いに認めているところがいいですよね。関根さんと大橋さんにも同じような空気感があって、素敵だなと感じました。
──さて、物語は魔界門編へと突入して、いよいよゲオルグたち魔界の四騎士が本格登場します。
武内:ゲオルグ役の日野聡さんはデビューしたての頃からいろいろな現場でお世話になっている、信頼感に溢れた優しい先輩です。その日野さんが一番の敵役になってくださっているというのは、現場の安心感が違いました。日野さんのおかげでエネルギーや勢いに頼るだけではない戦闘シーンを丁寧に作ることができたので、ぜひ注目していただきたいです。
そして後半になるにつれて、ドランはもともと竜であったという定めに向き合うことになります。過去の因縁が深く絡み、因果がのしかかってくるような展開の中で、竜生と人生というものをどう受け止めるのか。最後まで見守ってください。
[文:岩倉大輔/写真:松本祐亮]
作品概要
あらすじ
悠久の時を生き、神々すらひれ伏す絶大な力を持つその竜は、孤独と共に己の死を受け入れた。
しかし、次に気がついた時、竜は辺境の村人ドランとして第二の生を受けていた。人間として竜よりずっと短い生を生きることになった彼は、畑仕事に精を出し、食を得るために動物を狩る……。
質素ながらも温かい村での生活に、ドランの心は竜生では味わえなかったささやかな喜びで満たされていく。しかしそんなある日、沼地の調査に出かけたドランの前に、セリナと名乗る半身半蛇のラミアが現れる。
伴侶を探して旅をしている彼女は、ラミアなのに人間を誘惑するのが苦手だという。人と魔物、相容れぬ存在ながらも次第に心を通わせていく二人。
だが、二人の前には様々な外敵が現れて――!?
辺境から始まる、元最強最古の竜の“生き直し”ファンタジー!
キャスト
(C)永島ひろあき・アルファポリス/「さようなら竜生、こんにちは人生」製作委員会