「ビークル合体」は後から決まったコンセプト⁉ 『シンカリオン チェンジ ザ ワールド』の「プラレール」誕生の裏側を聞いてみた|タカラトミー玩具開発担当者インタビュー
ジェイアール東日本企画・小学館集英社プロダクション・タカラトミーの3社が原案となる『シンカリオン』シリーズの最新作、TVアニメ『シンカリオン チェンジ ザ ワールド(以下、シンカリオンCW)』。
ついにファン待望の「シンカリオン ドクターイエロー」の登場も発表されて、物語も大きく動き出しています。
そんな本作をおもちゃ売り場で支えているのが、タカラトミーが展開する『シンカリオンCW』のプラレールシリーズ。
「シンカリオン ドクターイエロー」の発表で11体のシンカリオンが展開されていますが(2024年10月28日時点)、その開発の裏側には様々なドラマや秘密があるはず。
そこで本稿では、タカラトミーさんの玩具開発者にインタビューを敢行! 『シンカリオン』シリーズの玩具開発やネーミングの過程はもちろん、「SRG(3両合体)」や「ビークル合体」の開発裏話など様々なお話を伺いました。
インタビューのキーワードは「ジャズ」。その詳細はインタビュー本文をご覧ください!
全てのベースは「シンカリオン E5はやぶさ」
──タカラトミーさんの公式YouTubeチャンネルでご存じの方もいると思いますが、まずは簡単に自己紹介をお願いします。
木口敬純(以下、木口):木口と申します。『シンカリオン』の玩具制作ではプロトタイプ(試作)のようなモデルを作って、合体・変形機構や安全性、遊びやすさやコストなどの確認を担当しています。
濵﨑拓人:濵﨑と申します。YouTubeのシンカリオン開発部チャンネルでは「ハマタク」で出演させていただいています。
『シンカリオンCW』に関してはプロデューサー陣と一緒に作品に登場させる新幹線やエルダビークルなどをディスカッションしたり、合体・変形機構を含め、どんな商品にするのかを木口や社内のメンバーと一緒に考え玩具を作る仕事をしています。
岸 康太(以下、岸):岸と申します。YouTubeのシンカリオン開発部チャンネルでは「キシコー」で出演させていただいています。濵﨑と同じくプロデューサー陣との会議への参加の他に、パッケージのデザインの草案なども担当しています。
──まずは、そもそもの話になりますが、『シンカリオン』のプラレールは企画から販売までどのような流れになっているのでしょうか?
濵﨑:お気付きの方が多いと思いますが、実は『シンカリオン』のプラレールは車両が異なっていても、シリーズを通して同じような骨格や変形機構になっているんです。『シンカリオン』のプラレール開発は、この骨格作りを最初に行います。
骨格が決まると、それを基礎と応用みたいにして、様々な車両のバリエーションや変形機構を膨らませていっているんです。
木口:このベースとなる骨格を社内では「基礎フレーム」と呼んでいます。
濱﨑:今回の『シンカリオンCW』は1両で変形して1体のロボットになれて、それが3体(3両)集まることで「3両合体」して大きくなるというコンセプトが最初にありました。
木口:まずはその「3両合体」に向けて立体を作って試作して、それが固まってきた段階でアニメの話も進めていくような順番でした。
──やはり基礎フレームは「シンカリオン E5はやぶさ」がベースになりますか?
木口:そうですね。「E5はやぶさ」ってプラレールの形状として先端のロングノーズが結構細くなっています。
小さいパーツに変形機構が入れば、当然ですが大きいパーツにも入れられます。様々な形の新幹線がある中で「E5系はやぶさ」はスリムなタイプなので、主役機ということもあって最初に開発する流れになっています。
「ビークル合体」は後から決まったコンセプト!?
──基礎フレームが共通だと3両合体の開発もスムーズだったのでしょうか?
木口:『シンカリオンCW』では3両合体させると聞いて「凄いことを言い出したなぁ」と思いましたよ(笑)。
一同:(笑)。
木口:車両ごとに「この車両は脚」「こっちは胴」とかだったら、もう少し開発難易度は下がってくるんです。でも、今回やりたいのは全部のパーツを組み替える方向だったので、どう解決するかは大きな課題になりました。
まずはバラバラにした『シンカリオンZ』のプラレールをテーブルに並べて「ここが組み合わされば、合体した時の腕になりそう」といった検討から始めて、何となくイメージを固めたら構造のスケッチを描いて。それを3Dプリンターでモックアップ(試作模型みたいなもの)を作って進めていきました。
濱﨑:これでまだおもちゃの開発としては前段なんですよ(笑)。基礎フレーム作りの終わりがやっと見えてきたというところなので。
木口:これまでのシリーズではモック(アップ)を一個作れば良かったんですが、今回は3つ作らないと3両合体が成り立っているのか確認できなくて。
同じ物を3つ作って合体させては「やり直そう……」みたいな感じだったので、単純に労力が3倍かかって大変でしたね(笑)。やはり実際に組み立ててみないとわからないことがあるんですよ。
濱﨑:この後さらに「ビークル合体」のコンセプトが出てきましたね。
──最初からビークル合体ありきではなかったんですか!?
木口:聞いた瞬間は「ええっ!?」とちょっと驚きましたね(笑)。
濱﨑:『シンカリオン』のプロデューサー陣と新シリーズに向けた話が始動した時に、1体でいる時のシンカリオンにもっと個性を出せないかという話があがったんです。そこからシンカリオンと何かが合体するコンセプトが出てきました。
でも在来線との合体(Z合体)は『シンカリオンZ』で既にやっているので、検討を重ねて「鉄道に関連する乗り物や重機がアーマーとして全身に合体する」という形に落ち着きました。
木口:乗り物や重機と合体することでシンカリオンの機体にも新たな色味が入りますし、何よりシルエットが変わるのはインパクトも大きいので、その意味でもビークル合体のコンセプトは凄く良かったと思います。
濱﨑:基礎フレームを作った後にエルダビークルとの合体コンセプトを作っていったので、シンカリオンとエルダビークルの組み合わせや、エルダビークルをどう変形させるかなどは、後からアイデアを出して進めていました。
木口:なので、3両合体は最初からコンセプト在りきで時間をかけているんですけれど、ビークル合体は言うなればジャズですね。もちろんちゃんと計算をしていますが、思いついたものを組み合わせていく過程はジャズっぽかったです。
木口:「ビークル合体」の開発は、作中の演出とかもイメージしましたよね。プロデューサー陣チームはロボットとしてかっこいいだけではなく、劇中の活躍なども凄く気にされていた記憶があります。
パッケージに込められたこだわり
濱﨑:これで『シンカリオン』の玩具開発はひと段落しますが、もちろんここで終わりではありません。この後は量産に向けての生産設計と並行して、岸が担当しているパッケージや取扱説明書の制作に移っていきます。
木口:『シンカリオンCW』のプラレールは組み立てが複雑なので、取扱説明書の制作には負担をかけたというか、頑張ってもらったと思っています。
濱﨑:あとはパッケージもこれまでのデザインから新しくしていますね。
岸:玩具は放送開始に合わせて展開しないといけないので、早い段階から何となくどういう作品なのかを想像しながらパッケージの話を進めています。
『シンカリオンCW』はこれまで以上にターゲットがオールレンジであったり、メタバースが出てくる話があったので、過去シリーズとは違う空気感を出すためにスタイリッシュなパッケージにしようと考えたんです。
──実際、今回のスタイリッシュなパッケージは売り場でも目立っていますよね。
岸:前作との差別化という意味でもガラッと印象を変えるのは意識して進めたところです。
ただ、やはり「新幹線から変形するロボット」というのは重要な要素なので、パッケージでも大きめに新幹線を載せたり、シンカリオンの状態でもできるだけ新幹線のノーズが見えるようにデザインを指示しています。
あとは個人的なポイントなんですけれど、パッケージの背景色に緑とピンクを使っているところで。売り場で遠くから見た時でも新幹線をイメージできるような色合いにしているんです。
パッケージの側面にも「E5はやぶさ」の緑を入れることで、格好良さはもちろん、売り場でどの向きで置かれてもちゃんと見てもらえたらと意識しています。
濱﨑:自分たちで言うのもなんですが、各工程においてそれぞれのチームがこだわりを持って制作して、それが皆さんのお手元に届くような流れになっています。
──アニメとの関わりも伺いたいのですが、『シンカリオン』の変形バンクは玩具とある程度合わせてCGが作られているんですか?
濱﨑:そうですね。基本的に変形機構は玩具を開発した上でSMDEさんにCGを作っていただいています。
ただ、その時はまだ取扱説明書が無いので、直接「こことここが合体します」「ここが取れてこうなります」という説明をして、それをCGディレクターの久能木亮さんたちが頑張って作ってくださっているんです。