ロボットアニメ界の巨匠対談が実現!大張正己さん&山根理宏さんインタビュー|アニメーターとしての40年を通して感じたロボットアニメを取り巻く環境の変化とは
“勇者スタイル”はアニメーターに優しい作画を目指した結果生まれたものだった
──先ほどCGと手書きのお話も出ましたが、それぞれの良さっていうのはどんなところなんでしょうか。
大張:さっきも言った通り、自分はハイブリッドでやっているので、両方のいいところ取りをさせてもらっているんですけど、やっぱりケレン味が出せるっていうのは手書きの良さですよね。ここぞというキメのカットはやっぱり手書きでやりたいと僕は思ってます。
CGは密度の高いものを大量に動かしたい時とか、あとは人間型じゃないメカですね。車とか、人型じゃないメカって実は描くのがすごい難しいんですよ。そういう時はCGが良いと思います。
山根:戦艦とか、絶対CGがいいですよね。
──それはどういった難しさがあるのでしょうか。
山根:例えば、同じものをちょっと角度を変えてたくさん書く必要がある時とか。ものすごく難易度が高い上に、時間も掛かります。だから僕は3DCGが出てきた時は、心から「良かった~」と思ったんですよ(笑)。
もちろん人型のロボットじゃなく、戦闘機とか戦艦とかを描きたいって人たちもいるんですけど、僕はそれよりはアクションとかに時間を使いたかったので。
──自分くらいの世代だと、お二人は『勇者シリーズ』でのご活躍が印象とても深いのですが、『勇者シリーズ』に関する思い出はありますか?
大張:結果的にシリーズになったんですけど、僕が入った『エクスカイザー』(※勇者エクスカイザー)の時は、シリーズになるかも分ってない状態でした。その時はオープニングとか合体バンクをやっていたんですけど、サンライズの完全新作のロボットアニメとして、子どもたちにおもちゃを届けないといけないという命題があったわけです。
僕はそれまでOVAをメインにやっていたんですが、『エクスカイザー』ではマニアックな作画は一旦やめて、アニメーターに優しい大量生産できるスタイルを開発したかったんです。そこはアニメーターとしてこだわった部分で、それが後に“勇者スタイル”とか呼ばれるようになっていったという流れでしたね。
あと、僕はその前に『ドラグナー』(※機甲戦記ドラグナー)のオープニングもやってるんですけど、実は『エクスカイザー』と同じプロデューサーさんなんですよ。それでその方から「大張くん、またドラグナーみたいに頼むよ」みたいな話をされてたんですけど、ああはできんだろうと(笑)。
──(笑)。『ドラグナー』のオープニングは、今も伝説になってますよね。
大張:僕はそれまでにOVAも携わせていただいて、ある種作家としてもう満たされた部分があったんですよね。枚数はたくさん使えるし、影もたくさん付けられる。なのでそこからの反動で、その頃にはめちゃくちゃスタンダードな作画をやりたくなっていたこともありました。
あと、『勇者シリーズ』って、今いろんなところから玩具が出ているじゃないですか。あれはすごくいい時代になったと思っていて、関わっていた人間としても嬉しいですね。グッスマさんの『THE 合体』シリーズとか、当時の作画に準じたプロポーションにしていただいて、ああいうのを見るとやっぱりやってきてよかったなと思えますよね。
──山根さんの方はいかがですか?
山根:僕の場合、『勇者シリーズ』に参加した時には、もう大張さん達が作った道ができていたので。これはいろんなシリーズものを通して言えることですけど、まずはその出来上がっている空気を崩さないようにしながら、どうやって新しいことをやるかと考えていました。
『勇者シリーズ』の場合、大張さんがやられていた頃は、合体バンクの時に放電系の演出が多かったんですけど、自分がやった作品の勇者ロボは人類が作った機械的な存在だったので、放電ではなく火花を散らしてみたり、「前がこうだったからこうしてみよう」みたいな試行錯誤が多かった印象です。やっぱり、もうある程度出来上がっていたシリーズだったので。
──ちょっと難しい質問かと思うのですが、あの『勇者シリーズ』の頃に生まれた演出って、今でもいろんな作品でオマージュされたりしていますが、それについて感じられていることってありますか?
大張:それに対しては、自分の作品を作ることで答えを出しているつもりですね。あくまでも過去通ってきた道であって、「今の自分はこうする」というのは常に見せているので。作品によって、パロディみたいなのをやりたい時もあると思いますし、そこは「どうぞ好きにやってください」みたいな気持ちが近いかなと。
──この40年、様々な作品に関わられて来られたと思うのですが、とくに思い入れの深い作品はありますか?
大張:もちろん全部の作品に思い入れはあるんですけど、一つ挙げるとするなら『DETONATORオーガン』でしょうか。オリジナルの作品ですし、スタッフもすごい面々を集められたり、結構自分の好きにやらせてもらえて、クオリティーも高くできたので、機会があればまた掘り起こしてみたい気持ちはありますね。
あとはアニメの『餓狼伝説』シリーズも思い入れが深くて、自分が初めてキャラクターデザインをやった作品でもあるんですよ。それが今になってもシリーズが続いているのも嬉しいですし、本当にやってよかったなと。
山根:自分は『ゴーダンナー』(※神魂合体ゴーダンナー!!)ですね。実はあの時が初めてのオリジナルのメカデザインで、音楽を渡辺宙明先生がやってくださったのも大きかったです。
──『ゴーダンナー』は、もう女性メカのデザインが本当に衝撃的でした(笑)。
山根:そうですね、メカも音楽に負けないように(笑)。いろいろ苦労もしましたけど、その分一番想い出深い作品になっています。
──最後に45周年、50周年の活動に向けての意気込みをお願いします。
大張:今まで歳を気にせずに走りつづけてきたところがあって。ありがたい話なのですが、一つの作品が落ち着きそうになったところでまた新しい話をいただいたり、立ち止まる機会みたいなのがほとんどないまま、ずっと目の前の仕事と向き合い続けてきた40年だったなと。
やっぱりアニメーションっていう仕事ってゴールがないマラソンなので、このまま頑張って走り続けていくしかないと思っています。もう死ぬまで現役のつもりでいますし、これからも楽しんでやっていきたいですね。
山根:僕もとにかく止まることなくやっていきたいです。一度止まっちゃったらもう終わりだと思っていますし、僕自身、まだまだ悪者をやっつけたいので(笑)。
大張:良いですね、悪を倒し続ける男(笑)。
山根:そう、まだ倒し足りてないのでね(笑)。そのためには、そういう作品を自分たちが作っていかなければいけないのかなとも思っています。
──お二人の今後のご活躍にも期待しています! ありがとうございました。
[取材・文・写真/米澤崇史]