『パーティーから追放されたその治癒師、実は最強につき』影茸先生×立花日菜さんインタビュー|影茸先生がアニメ化を経て得られた経験と立花さん演じるアーミアの裏設定とは!?
アニメ化は勉強になる出来事の連続
──それでは作品についても掘り下げていくのですが、アニメスタッフ陣とのやり取りで印象に残ったエピソードはありますか?
影茸:第7話「そのすれ違い、実は巡り逢いにつき」の人形劇もそうなのですが、キャラクターについての表現や構成が原作からガラッと変わったことは印象に残っています。
変わったといってもシリーズ構成・脚本の砂山蔵澄さんとやり取りを重ねた上で、僕が原作で掘り下げきれなかったキャラクターたちの一面を描くことになったと言えばいいのでしょうか。アニメ化して良かったと思った最初のタイミングがこの時なんです。ベテランの匠の技を直に体験できて単純に勉強になりました。
代表的な例だと僕としてはアマーストというキャラクターは小気味いい小悪党にしたかったのですが、原作では改心はしているものの根はやっぱり悪党側というキャラクターになってしまっていて。けれどアニメでは僕が想定していた小気味いい小悪党というキャラクターにバッチリハマっていたので、そこはもう腕の差だなと感じていました。
──そういったやり取りを重ねる事で生まれるものもありそうですね。
影茸:これから放送される終盤の着地点について、砂山さんにまだ言っていなかった作品の設定などを共有したことでアニメ用に尺を短縮してくださった部分があります。個人的にも脚本を読んだ段階から面白いと感じたので、放送を楽しみにしています!
──逆に、変えないで欲しいと要望した部分はありますか?
影茸:実は僕の方から何でもやって構わないと言った後に、「すみません、やっぱり止めてくださいと」ひっくり返してしまったというあんまりなエピソードがありまして……その後、しっかりコミュニケーションを取るのが大事なのだと実感しました。
そんなちょっとしたトラブルも砂山さんが大人な対応で「こうしましょう」と提案してくださったので、僕自身がまだまだ人間的に未熟過ぎたなという反省があります。この出来事でまた一歩成長できていたらいいなと思っています。
本作の物語は3世代にまたがるくらいのボリュームを想定していて、確か終盤に登場する“眠り姫”などの設定の部分だったかと。そのあたりには3〜4個くらい細かい設定があるのですが、第1世代目の話を省いて曖昧な言い方になってしまい申し訳なかったです。
──そんなエピソードがあったんですね、お話していただきありがとうございます。立花さんにアーミアについてお聞きしたいのですが、序盤ではマルグルスのパーティに所属してそこから関わるキャラクターたちが徐々に変わっていきました。物語を通して演じる際はどんなことを意識されましたか?
立花:原作でのアーミアはラウストにかなり酷い言葉をかけてしまう子だったのですが、アニメではラウストに悪い感情はないものの、気弱でマルグルスに逆らえないから自分の意見を言えないような感じで登場時からわかりやすい性格になっていました。
──ヒュドラ討伐に失敗した後、誰のせいかと問われてラウストを指さした時は確かにそういった印象を受けました。
立花:とはいえ印象がいい子に変わったかというとそうではなくて、自分らしく生きているナルセーナやライラといった周囲のキャラクターと関わることで、自分の気持ちを素直に出せるようになっていった印象があります。
中盤にみんなで恋バナをするエピソードがありますが、私はあそこが大好きなんです。普段のアーミアからは想像もつかないウキウキしたテンポ感での掛け合いになっていましたが、そういった一面はあそこで初めて出せたくらいのお芝居だったんです。本当は年相応に純粋な女の子だという本質が見えるように演じていました。
──原作とは違う部分があるとのことですが、原作でのアーミアはどのような意図をもって描いていたのでしょうか?
影茸:アーミアは改心するけれど、マルグルスは改心できない。このふたりを対比させたかったので、原作のアーミアは性格がアニメよりもキツくなっています。実はアーミアはちょっと図に乗ってしまうくらいの実力を持った天才肌なので、原作の序盤では天狗の鼻を折られて気づくキャラクターとして登場します。
ただ、アニメの方が愛されるキャラクターになっているとは自分でも思っていて、それはひとえに砂山さんの脚本の力や立花さんのお芝居の力があってこそ。物語を描く上での役割をアミーアにも与えているものの、僕の力だけではひとりのキャラクターとして描くのは不完全だったと痛感しました。
そんな僕の失敗を立花さんが埋めてくださっていたので、配信のコメントを見てより愛されるキャラクターになったなと思いました。もうありがたいという感想しかありません。
──確かにアニメのアーミアはより共感しやすいキャラクターになっていましたね。
影茸:そのあたりが砂山さんの腕なんだと思っています。僕は設定ベースで解釈してキャラクターの意思を後回しにしがちなのですが、砂山さんはキャラクターたちの意思の上に設定を乗せてくれました。
確かに設定に力を入れて面白さを上げていくのが僕の作風ではあるのですが、アニメではそこを抑えてもキャラクターたちがいきいきとしているので、原作以上にキャラクターたちの魅力が引き出されていたんです。敵わないなと思いながら勉強させていただいていました。
──ちなみに、立花さんはアーミアを演じるうえで何かスタッフ陣からのディレクションはあったのでしょうか?
立花:台本から受け取った「気が弱く思ったことが中々言えないけれど、自分なりに仲間を大事にしている」「だけど未熟な一面もある」というふたつの印象を念頭に置いて演じたのですが、基本的には大きく方向性を外れることなくOKをいただいていました。ラウストに泣きながら心境を吐露するシーンも一発でOKをもらえたので、想像のままお芝居したのがしっかりフィットしたのかなって思っています。
──マルグルスからひどい目に遭わされても見捨てられないというのが健気でしたね。もうひとつ、収録で印象に残ったエピソードもお教えください。
立花:原作とアニメとでキャラクターたちが違った雰囲気になっていたので、マルグルス役の土岐隼一さんやサーベリア役の橋本鞠衣さんとキャラクターのすり合わせをかなり行ったことが印象深いです。アーミアが「歯も磨かないし!」ってマルグルスの嫌いなところを言うシーンもありましたが、なぜか憎めない。
悪い人なのは間違いないのですが、それでも嫌いにはなりきれないキャラクターになるよう土岐さんはすり合わせをされていました。原作は原作で魅力的な人物ではありますが、このワンクールの間に気持ちよく終わらせる意図があったのかなって思っています。
後は小野賢章さんと前田佳織里さんが本当にラウストとナルセーナのような雰囲気で、みんなの中心になってくれました。おふたりとも話が上手なので休憩時間にみんなで雑談することがあったのですが、前田さんがみんなに話題を振って、小野さんがたまに後ろから支えてくれる感じが本当にパーティーのような感覚を覚える瞬間があって。
ジーク役の梅原裕一郎さんは台本を熱心にチェックされていることが多くあまりお話する機会がなかったのですが、前田さんはキャストの皆さんとコミュニケーションが取れるよう気を遣ってくれて、まさにナルセーナというか、中心にお花が咲いているみたいなイメージでキャラクターとリンクしているなって思っていました。
一同:(笑)。
──ちなみに、先生は収録をご覧になられたことがあるのでしょうか?
影茸:アフレコを覗かせてもらったことがあるのですが、今の話を聴いて声優さん方もお仕事の合間に雑談するんだなと新たな発見がありました。
立花:(笑)。
影茸:その時に少しお話させてもらったような気はしているのですが、夢のような出来事すぎて内容が抜けてしまってるくらいです。第12話のアフレコ時にお花を渡したのですが、その後の記憶が定かではないんですよ……。
今は、なんだか綺麗な花畑を渡ったような記憶と、業界のことを何も知らない僕のような人間に親身に接していただいた記憶だけが残っているような感じです。
本当に天国にきたのではないかと錯覚するような想いで日々を過ごしました。もう浮かれ散らしてしまったので、いつかバチが当たらなければいいのですが……。
──心配しすぎですよ(笑)。また、ここまでのエピソードで印象に残った場面もお教えください。
影茸:やっぱり先ほども話題に上った人形劇。後はキャラクターたちがいきいきしていた恋バナのシーンですね。ああいう空気感やミニキャラを動かすというコミカルなアイディアは、キャラクターの解像度が本当に高いなと。
──ミニキャラを動かして……みたいなことは文章では難しい描写ですものね。
影茸:そう思います。やっぱり自分の作品のキャラクターに声優さんがつくなんて、豪華なことなのだなと実感しました。コミカライズでも絵という表現の媒体が増えましたが、声がつくと感情を分けられる。僕の頭では処理しきれなかったものを、アニメ制作陣の方々がフォローしてくださったのだろうな……と。
自分の作品のアニメにこれだけ多くの方が関わってくださった。そして、その中でお仕事をしているというだけでも人間的に敵わないって思うのに、そのうえで技術力も敵わない。本当に参考になることばかりで、とてもいい体験をさせてもらえたなと思っています。
──立花さんも印象に残った場面を教えていただけますか?
立花:私も恋バナのシーンですね。ナルセーナの眠り姫についてだったり、この先の展開はどうなるんだろうって気になるシリアスなシーンが前後にあったのですが、それをいったん脇においてラブコメが始まったじゃないですか。
みんながお互いをどう思っているのかとか、そういう場面は演じる側としても幕間というか、ほっと一息つける時間になっていました。そこで和んで、このキャラクターがこんな風に考えていたのかと知れて、より愛着が湧きました。
個人的には声も良くてカッコいい、しかも高身長なイケメンのジークが好きなのですが、日常パートでは割とボケを担当することが多い。こんなイケメンがボケをやるなんて滅茶苦茶面白いし、自分の気持ちを自覚できずライラと噛み合わないのももどかしくて好きでした。
──ジークもそうですが、本作はどのキャラクターも個性が強い印象があります。先生はキャラクターたちを描く際、どんなことを意識されているのでしょうか?
影茸:設定ベースで物語を作っているので、例えばジークならロナウドという師匠的なキャラクターがいるのですが、ラウストと比べると年齢が離れすぎているのでその中間あたりの人物として登場させています。設定や作中の役割ベースでキャラクターを組み立てるのはラウストやナルセーナも含めて全員がそうなのですが、やっぱりキャラクターはそこを軸にした存在になることが多いです。
──また、先ほどから話題に上っているラブコメ部分、特にラウストとナルセーナのもどかしい関係性も見どころのひとつかと思います。この点について印象に残る場面もお教えください。
影茸:個人的には第1話「その出会い、実は再会につき」で、戦えるのかと心配しているラウストに対してモンスターを倒したナルセーナが「すごいでしょ」とドヤるところが好きです。過去編のナルセーナは力がなくて戦えなかったけれど、今の自分は戦えるとラウストにアピールしていて、凄く力の入った第1話にしてくださったなという印象が残っています。
──このふたりが既に出会っているという情報をはじめ、作中の重要な要素を小出しにしてくるのが印象に残った方も多そうです。
影茸:恋愛パートの間に重要な人形劇の描写が入ったり、第6話「そのクエスト、実は再起の糸口につき」ならフェニックス討伐の間にラルマが色々動いていたり、僕もああいった描写は巧いと思っていました。
──立花さんはラウストとナルセーナについて、いかがですか?
立花:あのふたりはお互いに好きなことが傍から見るとわかりやすいけれど、当の本人たちが全然気づいていないのがもどかしいですよね。ラウストは過去に仲間だと思った相手に裏切られて中々誰かを信じられないけれど、ナルセーナはずっと一途にラウストを好き。そういう一面を見ると、精神的にはまだ未熟なふたりの恋模様なのかなとは思います。
序盤からずっと描かれているふたりの相棒感も大好きなのですが、終盤にはふたりの絆を感じる戦闘シーンがあります。ナルセーナはラウストを守るためについ前に前にと行ってしまうところがありますが、そのシーンではふたりの信頼関係が際立っています。ぜひ楽しみにしていてください!
──収録の際に小野さんと前田さんの掛け合いはどのように見守っていたのでしょうか?
立花:本当にラウストとナルセーナそのままというか、台本の文字情報で読んでいる時よりもラウストとナルセーナの信頼関係を感じました。おふたりともお芝居が上手で激しい戦闘シーンや激情に駆られるシーンの後もオンオフがしっかりあるみたいなのですが、私は後ろで手に汗握る感じで応援していました。