3人の仲良しの秘訣は“お互いを認め合っていること”――『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』乱太郎役・高山みなみ×きり丸役・田中真弓×しんべヱ役・一龍斎貞友 インタビュー
3人の仲良しの秘訣は“お互いを認め合っていること”
──30年以上にわたって乱太郎・きり丸・しんべヱを演じられていますが、役への向き合い方は一貫してずっと変わらなかったりするものなのでしょうか。
田中:第1話を見たら今とは違っていてびっくりしました(笑)。
高山:だけど、役に対しては変わらないですよね。
貞友:変えようと思って変えているのではなくて、ちょっとずつ自分の中での軌道修正や関わり方が変わっていったってことでしょうか。
高山:途中から乱太郎は走るのが速いとか絵が得意とか、キャラクターの設定も追加されてきていますね。先輩たちや委員会活動も、だんだん増えてきました。
貞友:しんべヱも髪がどうのこうのとか、わかめが苦手とか。
高山:熱出すと頭良くなったり。リンスが必須とか。
貞友:どうしちゃったの?みたいなね。
田中:元に戻ってホッとするんだけど、すごい顔になるんだよね。
高山:最近、頭よくなってないね。
田中・貞友:(笑)。
高山:きりちゃんの忍術「聞き耳頭巾」はきりちゃんしか使えないんだよね。
貞友:そういう意味では私たちも新鮮でした。
高山:土井先生に「教えたはずだ」って言われるかも。
一同:(笑)。
高山:今作では、久々に「かくかくしかじか」も出てきたよね。
貞友:あれは笑っちゃうね!(笑)。
──乱太郎・きり丸・しんべヱは育った環境や性格が全然違いますが、あの3人の仲の良さの理由はどこにあると思いますか?
高山:お互いのことをちゃんと認め合っているからだと思います。だから家族や家柄、出自は全然関係なく、仲が良い。
貞友:そう、それぞれの人間形成の、外枠というか、外野的なことは「それはいいんじゃないの」と全く重きをおいてないことが良いのだと思います。
高山:そのための忍術学園だとも感じています。忍たま長屋に住むことでみんな平等に学んで生活できる、ということなんじゃないかと思います。
田中:良い暮らしをしているしんべヱなんか普通だったらしょっちゅう帰りたいんじゃないかなと思うけど、帰りたがらないじゃないですか。お父さんは帰ってきてほしいという感じだけど。
高山:忍者にならなくても、大貿易商を継げるのにね。
貞友:しんべヱがなんで忍術学園に行きたかったかは分かりませんが、家は妹のカメ子に任せたという感じだよね。
高山:しんべヱのお母さんはもしかして、ものすごいやり手なんじゃないのかな。だって大貿易商の妻だよ。南蛮の人だったりしてね。なんていうのを考えるのが面白い。
田中:一番謎のある家庭ですよ。福富家のそういった部分を知りたい。
一同:(笑)。
田中:そう考えると、乱太郎の家は貧しいけど愛があって本当に良い家庭。とても平和ですよね。
高山:由緒正しい…ですからね。忍者になりたいのはわかります。代々の平忍者じゃなくて、一流忍者を目指してるけど。
貞友:乱太郎の家は表向きは農家をしているけれど、実際は……っていうのは一番、忍者としてはありがちなことかも。
田中:きり丸も最初の頃は台本上、「お前らには俺の気持ちなんか分かんないよ」みたいな台詞があったんです。だけどギャグ漫画だから、寂しいような台詞はカットされてました。
乱太郎は貧しくてもお父さんとお母さんは優しいし。きり丸は自分でアルバイトして入学金を納めていたりもして、「お前らはいいな」っていう気持ちは絶対あるよね。
高山:あって普通だと思うね。でも、そんな気持ちさえ払拭してしまうのが忍術学園なのかもしれないですね。忍者の集落の中で家族を作り生活していたり、城仕えの忍者隊、たった一人で危険な忍務を遂行する忍者もいる。それぞれの個性や長所を伸ばして、まずは忍者としてひとり立ちさせるための忍術学園ですからね。どんな環境から来た生徒でも、分け隔てなく接する先生たちは素晴らしいです。
個を尊重してくれるし、協力しなければできない試練も与えてくれる。忍たまたちは寮生活の中で大切なことを学んでいるんです。
貞友:本当の個人としての存在だけでちゃんと向き合っていきましょうっていうことなんだと思います。
──ご自身のキャリアにとっての演じられるキャラクターの存在についてもお聞かせください。
田中:声優人生の半分以上は『忍たま』のキャラを演じていますからね。
貞友:いや、半分どころじゃないよね。
高山:半分どころじゃないわ。32年だから、私はほぼキャリア分かも。
最初の頃は毎回毎回、シリーズが終わる時に「来期は分かりません」って言われてたんです。それで毎年ドキドキしていました。
でも今はあまり気にしていません。たぶん、ずっとこのメンバーで続けていける…という根拠のない自信があったりします(笑)
田中:続くかわからない時期は毎年打ち上げしてましたよね。
貞友:最初はこんなに続くと思ってなかったもんね。
原作の『落第忍者乱太郎』のできる子ではないキャラにスポットが当たるのはすごく面白くて良いなと思っていました。
しんべヱも見た目からはっきり「しっかりしなくいいキャラ」だなって。たまにしっかりしたフリする時あるんだけどやっぱりフリで終わっちゃう。フフフ(笑)
一同:(釣られ笑い)
田中:30年以上も続いてるとやっぱり楽しい。そんなに続いているという感じはなく、自分の中ではピンとこないというか、ずっと同じような気持ち。
田中:ずっと一年は組だしね。あの子たちは本当に忍者になるのかね?
高山:どういう忍者になるんだろうと考えることがありますね。卒業したらどうするんだろう?本当に忍者になるのか、違う仕事に就くのか。先輩たちはどうするんだろう?とか。
田中:そういう夢みたいな話もあっていいですよね。大人になった乱・きり・しんも見たい。
高山:見たい!
田中:(笑)。自分のキャリアにとってあって当たり前のようなキャラクターですよね。
高山・貞友:うんうん。
──乱太郎・きり丸・しんべヱにとっての土井先生の存在のように、恩師と呼べる方がいらっしゃれば教えてください。
高山:亡くなってしまいましたが、稗田八方斎役だった飯塚昭三さんが私にとっての恩師です。
デビューの時からお世話になっていたので、スタジオでご恩返しをしている気持ちでした。お役を降りられるまで『忍たま』ではずっとやり取りができたので幸せでしたね。
貞友:見事にサポートをしてあげていて、飯塚さんもみなみちゃんの言うことは必ず聞いて、頼りにしてらして……ってなんで笑ってるの?!
田中:(笑)。私たちも(高山さんを)頼りにしてます。
貞友:うん(笑)。私たちも、みなみちゃんを頼りにしてるよね(笑)。
田中:年齢とか関係ないのなら恩師だわ。
貞友:恩師というか、先生というか。
田中:目も耳も遠くなってくるし、アフレコ中も指示が聞こえないんですよ。そうすると、やっぱりみなみちゃんに尋ねて、みなみちゃんがちゃんと教えてくれるんです。
貞友:見事な座長です。私はコンタクトしているから目は全然大丈夫なんだけど、耳はちゃんと聞こえる時と音響監督が何をおっしゃっていらっしゃるのか全然わからない時があって。
田中:それで思い出した! 劇場の時の収録で、明夫さん(大塚明夫さん)が「年取ったなあ」って言ってました(笑)。でもそれはいいんですよ。みんな一緒に年を取っているので、私はそれを聞いてちょっと嬉しかった。同じ番組で年を重ねていけるっていうのは、本当に幸せなことだと思いますね。
みなみちゃん以外の恩師は、劇団テアトル・エコーにいた頃の熊倉一雄さん。台本が遅かったり、待たされたりすることもあるのですが、「待つのも仕事」と言って、仕事も舞台では機械仕掛けのネジ巻いちゃったように面白くて。
熊倉さんを真似てみても、やっぱり熊倉さんという人物の歴史とキャラクター、人間性があって成り立っているものの上辺だけ真似して動いてみても全然面白くならないんです。だから舞台では、(熊倉さんの)いろんな極端なお芝居を分からないように真似していたかもしれない。熊倉さんにはいろんなことを教わったなと思いますね。
貞友:私は木野小次郎竹高役をやっていた加藤精三さん。私の朗読というか語りの先生で、まあ厳しい! キャラにピッタリのとてつもなく苦いコーヒーがお好きでした。
ですからそれこそ、加藤さんは私にとって日常も役柄も変わらず恐い存在。そんな加藤さんが木野小次郎竹高を演じられるのは衝撃でした。
ですから失礼を省みず「よくお受けになりましたね」と申しました。でも忍たまでご一緒させて戴けて、距離感も縮まりとても嬉しかったです。
入院中の病室で「役、降りた方がいいかなと思ってる」とおっしゃったので、僭越ながら「身体は動かすの大変と思いますが、声量も表現力も全く衰えを感じません。スタッフの皆さんもお手伝い、決して苦になさっていらっしゃいません。続けて下さい」「あゝ、そうか」っていつになく可愛い笑顔で。いつも真摯に生きていらっしゃいました。
高山:私も大好き!冗談をいうと「ガッハハハ」って大声で笑ってくれましたね。
貞友:みなみちゃんには違う。人によって態度が違うんです(笑)。でもちゃんとやってる人が好きな方でした。
やっぱり自分が表現者としてどういう風にやっていくかっていうのをすごく突き詰めていらした方なので、一緒にできてよかったなって思っています。加藤さんからはいろんな根本的な土台を教えていただきました。
──ありがとうございます!最後に本作を楽しみにされているみなさんへメッセージをお願いいたします。
高山:「本当にあの『忍たま』なのかな?」と思われるオープニングだと思いますが、最後には「やっぱり『忍たま』だな」と満足していただけると思います。この劇場版で『忍たまワールド』の振り幅の大きさを感じていただきたいです。そしてテレビシリーズをチェックしてから、もう一回見てくださいね。あれは、こういうことだったのか…とわかることがたくさんあると思います。かつてないシリアス忍たまをお楽しみください。
田中:土井先生ときり丸の関係を描いてくださってとても嬉しく思います。濃いキャラクターの方たちがたくさんいて、いろんなキャラクター視点で見ても面白いのではないでしょうか。基本ギャグアニメですが、こだわりなく見ていただくと広がるものもあると思います。
貞友:日頃抱いてくださってる『忍たま乱太郎』のイメージとは違う感覚もあるかもしれませんが、みなみちゃんがおっしゃったように、最後まで見ていただいた段階で「やっぱり『忍たま』だったね」という風に皆さんが思われるんじゃないかな。
人間関係で難しいと感じる部分もありますが、私は一度で理解できなくてもいいんじゃないかなと思います。もし、この作品を後々ご覧になった時「こういうことだったんだ」ということがあってもいいんじゃないかな。
全てその時に理解するでも良いですし、再度見てまた違う感情なり受け止め方があっていいんじゃないかなって思うんですよね。そして日頃からやっている『忍たま』を見て自分の中での『忍たま乱太郎』のイメージなり、作品に対する思いをこれからもっと大きく育んでもらえたら嬉しいなという風に思います。
[文/笹本千尋]
作品概要
あらすじ
タソガレドキ忍者・諸泉尊奈門との決闘に向かった後、消息を絶ってしまった土井先生―
山田先生と六年生による土井先生の捜索が始まる中、担任不在の一年は組では、タソガレドキ忍軍の忍び組頭・雑渡昆奈門と、尊奈門が教壇に立つことに!
そんな中、きり丸は偶然、土井先生が置かれた状況を知ってしまうのだった。
一方、土井先生捜索中の六年生の前に突如現れたのは、ドクタケ忍者隊の冷徹な軍師・天鬼。
その顔は、土井先生と瓜二つで―
忍たま達に立ちはだかる最強の敵を前に、今、強き「絆」が試される。
果たして乱太郎、きり丸、しんべヱたちは、土井先生を取り戻すことができるのか―??
キャスト
(C)尼子騒兵衛/劇場版忍たま乱太郎製作委員会