「過去は“今の自分”を作っていく上で大事なものだったんだなって」ーー『ハニーレモンソーダ』石森羽花役・市ノ瀬加那さん&三浦界役・矢野奨吾さんインタビュー|羽花はネガティブをポジティブに変える力を秘めた“稀有なヒロイン”
TVアニメ『ハニーレモンソーダ』が、2025年1月8日(水)より放送開始となります。
今回、アニメイトタイムズでは主人公を演じる石森羽花役・市ノ瀬加那さんと三浦界役・矢野奨吾さんの対談をお届け。
作品や演じるキャラクターの魅力はもちろん、アフレコ現場での裏話、「もし高校時代に戻れたら?」など、作品にまつわる話題をたっぷりと語っていただきました。
『ハニーレモンソーダ』が描く、温かくて優しい世界
ーー原作『ハニーレモンソーダ』を読んだ際の印象をお聞かせください。
矢野:僕はこれまで少女漫画というジャンルの作品をほぼ読んでいなくて、オーディションを機に読ませていただきました。映画化もされているのでタイトルは知っていましたし、率直にすごい作品のオーディションが来たなと。
原作を読んで、羽花ちゃんの持つエネルギーが本当に魅力的だと思いました。読者のみなさんもきっと「応援したい」「勇気をもらえる」と感じられているはずですが、僕自身も同じ気持ちです。もしかすると、僕が演じる界も羽花ちゃんのエネルギーに魅せられているのかもしれません。羽花ちゃんの(心情の)描き方には惹かれるものがあるんです。
市ノ瀬:この作品は羽花ちゃんの成長物語だと思っています。
原作で描かれる温かくて優しい世界や羽花ちゃんのひたむきさ、真っ直ぐさに何度も心を動かされました。折れそうになりながらも、自分の足で前に進む姿は、涙が出るくらい感動的で心が温かくなります。私自身も彼女のように真っ直ぐ進んでいきたいと思いますし、羽花ちゃんと出会えてすごく幸せです。
ーー『ハニーレモンソーダ』が持つ作風の魅力はどこにあると思いますか?
市ノ瀬:界は羽花ちゃんの過去を決して否定しないんですよね。羽花ちゃんを演じる中で、「嫌な過去も含めて“今の自分”なんだ」と知ることができました。過去は“今の自分”を作っていく上で大事なものだったんだなって。だからこそ、過去の自分を決して否定したくないと思わせてくれた作品です。
矢野:誰しもが羽花ちゃんのように、心のどこかでネガティブな部分を持っているはずです。その中で羽花ちゃんは、ネガティブをポジティブに変えられる力を持っています。自分で殻を破って前に進んでいく強さがある子なので、そういった意味でも稀有なヒロインですよね。界も他人と深く関わらず、自分1人で生きていく覚悟を持っている人間ですが、羽花ちゃんの諦めない姿を見て徐々に変わっていきます。界が羽花ちゃんを引っ張っているように見えて、実は羽花ちゃんが界を引っ張っている。演者としてもいち読者としても、そう感じています。
ーー実際に少女漫画のメインキャストを演じてみて、いかがでしたか?
市ノ瀬:羽花ちゃんを演じている時はいつも楽しいです。
作品によってはプレッシャーを感じる時もあるんですけど、羽花ちゃんは自分の中でスッとお芝居に入れるというか。自分と似ている部分があるからか、余計なことを考えずに演じられるのでアフレコが楽しいです。
矢野:僕も楽しくはあるのですが、自分とは違うタイプのキャラクターなので、常に神経を尖らせながら臨んでいました。ただ、みなさんと何かを作り上げること自体が楽しいので、試行錯誤を繰り返しながら、現場で界のお芝居を作っていただいた感覚です。
繊細な表現で紡ぐ、羽花と界の心の距離
ーー演じるキャラクターについて、役作りの際に意識したことを教えてください。
市ノ瀬:自分に自信がない羽花ちゃんですが、八美津(はちみつ)高校に入学してからはどんどん変わっていきます。ただ、一貫した軸はずっとあると思っていて、第1話の段階から「その軸がぶれないように演じ切りたい」と思っていました。
矢野:界は見た目に反して、本当に真っ直ぐで優しい人です。言葉遣いが少し強くて、相手に誤解を与えてしまうこともありますが、言葉の節々にはしっかりとした思いやりが感じられます。どちらかと言うと、僕自身は手を差し伸べてしまうタイプなんですけど、界は相手が殻を破るためのサポートとしてあえて強い言葉を使ったり、一歩引いて見守ったり……。奥深い優しさを持っている子なので、そういった部分も魅力的だと思いました。
ーー演じる中で、キャラクターに対する印象に変化はありましたか?
矢野:演じるうえで、界の優しさをどう表現するかという点が課題になっていたんです。オーディションの際には、羽花ちゃんに対する優しさを前面に出していたのですが、いざ収録が始まると「あまり声をかけすぎず、誰に言っているのか分からないくらいの距離感で演じてほしい」というディレクションをいただきました。
それは何故なのかと考えた時に、界の家庭環境や背景が関係していると気づいて。アフレコ現場に入ってから、界のキャラクター像をオーディション時とは違った形で作っていきました。
市ノ瀬:序盤のアフレコで錦織博監督から「彼女は前向きな気持ちで入学しているから、もっと気持ちを強く持って良い」というディレクションをいただいたんです。八美津高校に入学したこと自体、羽花ちゃんにとっては大きな一歩だった訳じゃないですか。最初は過去を踏まえた暗めの役作りにしていたんですけど、「そういう羽花ちゃんが踏み出す一歩をもっとはっきり出していいんだな」って。そこから、モノローグと台詞の温度感の差をより意識するようになりました。
ーー羽花と界の掛け合いで大切にしたことを教えてください。
市ノ瀬:羽花と界に限らず、普通のアニメのお芝居に比べて、よりリアリティを重視したやり取りにしたいというお話があって。「距離感を近くしてください」というディレクションもいただいたので、隣にいるかのような自然な会話を心がけました。
矢野:僕は羽花ちゃんの姿を見て反応することが多かったので、まず市ノ瀬さんの芝居を受け止めることを大切にしていました。ただ、寄り添いすぎないように気持ちを抑えるのが大変で、矢野の部分が出そうになるのをグッと堪えて……(笑)。それくらい市ノ瀬さんのお芝居に引き込まれていたんだと思います。
矢野:本当に全シーンが羽花ちゃんそのものなんですよ。現場での立ち振る舞いから空気作りまで、率先して背中で見せてくださって、お芝居に対しても真摯で真っ直ぐな方だなと。そういう姿勢は僕も見習いたいですし、だからこそ羽花ちゃんに通ずる部分があるとお芝居を見ていても感じました。
市ノ瀬:嬉しいような、恥ずかしいような……。
矢野:僕も恥ずかしいので、(市ノ瀬さんの方を)見ずに話しています(笑)。
一同:(笑)。
市ノ瀬:羽花ちゃんの心情には、すごく共感しながらお芝居させていただきました。私は逆に大人になってから人見知りが発動したので、相手にどう声を掛けたらいいのか、みたいなところは「すごく分かるよ〜!」って(笑)。
市ノ瀬:矢野さんのお芝居については、原作から界の声が全く想像できなくて、「どんな声なんだろう?」と思いながら現場に入ったんです。そこで矢野さんのお芝居を聴いた瞬間、自分の中でストンと落ちてくる感覚がありました。
界は一見、冷たそうに見えるけれど冷たくはなくて、その塩梅がすごく難しいキャラクターだと思います。矢野さんのお芝居には、冷たく表現していても嫌ではない感じがあって、自分の中で界というキャラクターが更に広がっていきました。
矢野:ものすごく……(嬉しい)ありがとうございます!
ーー実際に演じていく中で、お互いだからこそ良いシーンになったと思う瞬間はありましたか?
市ノ瀬:PVでも使われていますが、界が羽花に「石でもお前は宝石なんだよ」と言うシーンがとても印象的で、界なりに力強く伝えてくれていました。羽花ちゃんの呪われていた想いが解けていく瞬間でもあったので、一緒に演じられて嬉しかったです。矢野さんの言い回しによって私の中の羽花ちゃんも「前向きに頑張って行こう」という気持ちになれた気がします。
矢野:僕は物置部屋でのやり取りが好きですね。ちょっと神秘的な空間というか、入っちゃいけない部屋でのやり取りは、教室や外で一緒にいる時とはまた違うのかなと。その空間では心の距離がぐっと近づいていたように感じました。
普段の界なら絶対に言わないようなことまで、心を許している羽花ちゃんには話してしまう。そうした会話ができるのも、あの2人だけの空間だからこそだと思います。
ーーアフレコ現場の雰囲気はいかがでしたか?
矢野:根本京里さんは「演じるあゆみそのままだな」と思うくらい、休憩中も率先して明るく振る舞ってくださって、現場がより一層明るい空気感になりました。
(八代)拓ちゃんは拓ちゃんでそれをニコニコしながら聞いていて、たまに突っ込みを入れたり(笑)。個人的に悟とあゆみの関係性がものすごく好きなので、声優陣ともリンクしているといつも思っています。
土岐隼一くん演じる高嶺友哉のミステリアスな雰囲気も素晴らしくて。今後の展開の中では、高嶺くんが羽花と界の関係をどう見ているのかがすごく繊細に表現されています。
市ノ瀬:温度感が心地が良い現場なんです。個人的にはあゆみがすごく好きで、京ちゃん(根本さん)の演じるあゆみが本当に真っ直ぐで、温かくて。背中を押されている気持ちになれるんですよね。あゆみが羽花ちゃんを応援するシーンで、その真っ直ぐな言葉が心に響いて「あゆみ役が京ちゃんで良かったな」と心から思いました。