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『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』制作統括&アニメーションプロデューサーインタビュー

『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』制作統括・橋本トミサブロウさん&アニメーションプロデューサー・董哲さんインタビュー|『ローハンの戦い』はこのようにして生まれた……!

J・R・R・トールキンの『指輪物語』を原作として大ヒットを記録した映画『ロード・オブ・ザ・リング』。そこから23年後、2024年12月27日(金)に『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』として、中つ国の未だ描かれていなかった歴史が日本のアニメによって全世界に公開されます。

シリーズをご存じの方からするとこの発表は大変に驚いたニュースだったかと思います。そして同時に、「『ロード・オブ・ザ・リング』をアニメで描けるのか?」という疑問も抱いたはず。

あれだけの壮大な物語をどのようにアニメで描いていったのか。今回はStudio Sola Entertainmentの制作統括・橋本トミサブロウさんとアニメーションプロデューサー・董哲さんへのインタビューを通して、その答えを探っていこうかと思います。

さらに今回の取材では、Studio Sola Entertainmentのスタジオ取材も行われ、どのように『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』が作られていったのかの一旦を知ることができました。

『ロード・オブ・ザ・リング』のファンだけでなく、最新アニメの現場に興味がある方はぜひ本稿を通して、日本のアニメの最前線を感じていただければ幸いです。

 

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インタビューバックナンバー

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|連載:01
神山健治監督
神山健治監督
|連載:02
制作統括&アニメプロデューサー
制作統括&アニメプロデューサー


最新鋭の制作体制

インタビューの前にスタジオ取材に招待された取材陣。まずは3DCGを担当した部署に通されました。

『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』では、まず最初に3DCGで作品全体の骨組みとなる映像を作成した後に作画を行っていったそう。取材時は全ての作業が終わったあとだったため、『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』に関する作業は行われていませんでしたが、SOLA DIGITAL ARTSが最新技術を駆使してアニメを制作していたことはひしひしと伝わってきました。

 

 
続いて移動した先は、作画担当のSOLA ANIMATION。数名はまだ『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』の仕上げを行っていたようで、各所に資料や作画の参考にした様子の紙で作成した剣の模型などが残っている状態。さらに壁際には大量の段ボール箱の中に収納された原画が所狭しと並べられていました。ファンからするとその一枚一枚が宝のようなものでしたが、スタッフによるといつかは処分してしまう可能性があるとのこと。貴重な原画もいくつか拝見することができました。

 

 
このフロアには神山健治監督のデスクもあり、取材当日もまさに作業をしていたとのこと。監督のデスクにしては簡素だと思いましたが、監督は他のスタッフと同じ環境で仕事を行うことを大事にしているそうで、監督の人となりも感じられる環境になっていました。

 

 
最後に撮影ブースを訪問。出来上がった部分から確認を行っていき、動きに問題ないかを何度も何度も調整を行っていくそうです。途方もない作業の末に『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』が作られていることが垣間見える貴重な機会となりました。

 

インタビューをお届け

ここからは橋本トミサブロウさんと董哲さんへ行ったインタビューをお届け。新時代の映像表現はどのように生まれていったのでしょうか。


──ラルフ・バクシ監督版のアニメーション映画『指輪物語』がエポックメイキングな作品だったので、本作で神山健治監督がどのような作品を作るのか楽しみでした。

橋本:『指輪物語』は70年代の作品でロトスコープのアニメーション技術を使っていますよね。私も幼い頃に見た記憶があります。本作でもキャプチャー技術を使って作画作業に活かしており、結果的に共通なイメージを持たれると思いますが意識したわけではなく偶然です。

──ピーター・ジャクソン監督の実写の三部作が基盤にありますよね。

橋本:やはりそのイメージはお客さんの中でも強く残っているでしょう。だから、アニメ化する際も単純にアニメとして作るのではなく、カメラワークや演出も映画らしさを取り入れた方が、観客もスムーズに受け入れやすいのではないかと思います。

 

 
神山監督もそこを意識してレイアウト作業をしていたような気がします。最初からキャラクターのCGの動きがあり、CGで作った背景もあったので、結果的に非常に映画のような表現ができたのではないでしょうか。

CGの作業は特にレイアウトを探る作業を中心に進めていきました。徐々に作品が仕上がってくると、昔の『指輪物語』のアニメのオマージュのように見え、これはこれで新しいロトスコープ作品のような気がしてきました。ですが、最初からその目的があってやったわけではなく、ある種、偶然なんですよね。「そう言われれば確かにそうかも」、という感じです。

──そういうチャレンジングな工程も含めて、SOLAさんだからこそできたことがたくさんあったんだと思います。この作品に関して、具体的にいくつか教えていただけると。

橋本:そうですね。SOLA DIGITAL ARTSでは『攻殻機動隊 SAC_2045』や、『ULTRAMAN』を手掛けてきました。その中で、神山監督はモーションキャプチャーの技術を使っています。その過程で得たノウハウ、良い面も悪い面も含めて蓄積されたものが今回の『ロード・オブ・ザ・リング』のCG制作に活かされているんです。何が効果的で、何がそうでないかをしっかり見極めた上で進めました。それがSOLAならではと言っても過言ではないかなと。

──これまでの蓄積が今作に活かされているということですね。

橋本:そうですね。やはり得意不得意がありますから、CG制作においても、その経験が活きています。

 

 

──今回、特に我々が楽しめる得意分野の見所はどこでしょうか?

橋本:そうですね、話が重複してしまいますが、CGを使ったことで、かなり贅沢なカメラワークが実現しました。シネマライクというか、映画のような感じですね。アニメをよく見る方でないと、細かい違いはわからないかもしれませんが。

──炎の光の演出やライティングに関しても、監督がすごくこだわっていて、それもCGだからこそ可能な表現だったんですよね。

橋本:はい、先ほどもお話しした通り、一旦キャラクターも美術セットもすべてCGで作成してから作画に回します。その作業の際に神山監督の指示でライティングの効果を入れています。

真っ白な紙の上で構図を探るのは難しいですし、光の具合を確認するのも簡単ではないので、一旦疑似的な立体空間の中でライティングを行い「ここに影が落ちるといいよね」というポイントを見つけることができたんです。

さらに、セミリアルタイムでの調整もできるようになりました。Unreal Engineというゲームエンジンを使って、実際にその場でライティングの修正ができるんです。すぐに結果が出てくるので、とても効率的でした。

 

 

世界設定や時代感へも細心の注意を払う

──ここはぜひ注目してほしい部分や、最大のアピールポイントはどこでしょうか?

董:まず、ストーリーに関してお話ししますね。キャラクターがとても可愛らしく、そして精神強く描かれています。特に主人公のヘラは、とても勇気を持ったキャラクターで、絶対に危機から逃げない、その姿勢はぜひお客様に届けたいと思います。

また、キャラクターの服装や設定にもすごくこだわりました。今回はニュージーランドのWETAスタジオさんからたくさんの素材を提供して頂き、それを元に充実したデザインに仕上げました。あと、作画は本当に頑張りました。作画に関しては後悔はありますが、自信もあります(笑)。

──『ロード・オブ・ザ・リング』という作品は長い歴史がある大きな作品だと思うのですが、そこに加わることの大変さ、実際に制作に関わってみてどのような点が困難だと感じましたか?

橋本:やはりファンの方々が大勢いらっしゃるので、そこに対するプレッシャーは大きかったです。例えば、原作の書籍ファンもいれば、原作を読んでいないけれども映画が好きだという方もいます。ファン層が結構違うんですよ。

 

 
加えて、今回はアニメです。様々な視点のロード•オブ・ザ・リングのファンが存在する中で、神山監督はそのバランスを取ることに相当悩まれたと思います。どちらかに偏ることなく、うまくバランスを取りながら着地させたという印象です。そういった意味でプレッシャーはありましたが、先ほども話に出たように、映画の三部作を制作したWETAスタジオの協力が非常に大きかったです。ほぼ全ての設定資料を提供していただけました。

通常であれば、この世界を作り上げるためには膨大な設定資料を新たに作成し、それをファンの方々に納得してもらう必要がありますが、WETAスタジオからの協力で三部作の設定をそのまま引き継ぐことができたのは非常に助かりました。もしこれがなければ、皆さんの期待に応えることは難しかったかもしれません。

物語の舞台が200年前の世界という設定なので、200年前ということでいただいたものに少し新しい表現を加えました。やはり同じ設定を引き継いでいるので、世界観が一貫しているという点での安心感は非常に大きかったと思います。

──歴史が200年前に戻るという設定がある中で、文明の進化や退化をどう描くのかという点に興味があります。200年前に戻る際、どのような作業をされたのでしょうか?

橋本:現代の200年感と昔の200年間は違いますし、そこまでテクノロジーの退化を意識して描くということはしていません。建物や町並みには配慮していましたが、戦い方が全く変わるというようなことまではしていません。逆にやりすぎてしまうと、ファンの方々から「それは違う」という声が出るかもしれないと思い、その点には注意しました。

 

 
例えば、ローハンにあるエドラスの街並みですが、物語の前半は戦闘前ですので実写版の街並みよりも活気付いています。そこから戦いが始まり、少しずつ荒廃していきます。それが最終的にピーター・ジャクソン監督の『ロード・オブ・ザ・リング』三部作の世界へと繋がっていくんです。

映画のファンにとっては、モンスターやクリーチャーがCGで描かれると、どうしてもリアルさに欠ける部分が出てきますよね。だから今回は手描き作画で描いた方が良いと判断しました。それによって、アニメーションとCGの2つの異なる楽しみ方ができるんです。これは、原作ファンへの配慮の一環でもあります。

──今、お話でも出ましたが、ファンとしてすごく嬉しかったのが、クリストファー・リーの姿のサルマンが映画のまま登場していた点です。あれはどういう経緯でそうなったんですか?

橋本:そうですね、サルマン役のクリストファーさんはすでに亡くなられていましたが、ワーナーさんの協力もありご遺族の承認を得て声を使わせていただきました。ファンの皆さんに喜んでいただけると思います。

その結果、クリストファーさんのイメージをそのまま登場させることができました。
もし違う顔、違う声だったら、ファンの方から怒られてしまいますからね。だったら出さない方がいいという話にもなったかもしれません。

 

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