『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』製作・ストーリーのフィリッパ・ボウエンさんインタビュー|神山健治監督はピーター・ジャクソン監督を思い起こさせる部分があるーー歴史的大作が日本のアニメになった理由
エオウィンやサルマンはファンと作品の橋渡し
──エオウィンがナレーションをしていたり、サルマンが登場したりと、イースターエッグのような演出も興味深いですね。それらの意図について教えてください。
ボウエン:ナレーションには非常に実用的な目的がありました。『ロード・オブ・ザ・リング』から時間の飛躍が必要なストーリーを効率的にファンに伝えるためです。
さらに、エオウィン役のミランダ・オットーさんのナレーションを通じて、彼女が自身の息子たちに故郷やその祖先の物語を語るという形で、個人的かつ感情的な深みを持たせることができました。彼女が語る内容には、自分が離れた故郷へのホームシックや、盾の乙女たちが生き抜いた困難な時代への敬意が込められています。それが彼女のナレーションをより個人的で感情的なものにしたと思います。
──サルマンを登場させた意図についてもお聞かせください。
ボウエン:この映画は独立して楽しめる作品でありたいと考えていました。そのため、新しいキャラクターを登場させ、中つ国の世界を新鮮な視点で描くことを目指しました。ただし、中つ国の世界観を完全に切り離すのではなく、物語の周辺にその存在を感じさせる形を取りたかったのです。その中で、サルマンを登場させることが自然な選択でした。この時期、サルマンがアイゼンガルドのオルサンクの塔に移り、ロヒアリムの新しい若い王に接触を図るという背景があり、それを物語に取り込むことで世界観に深みを与えることができたと感じています。
トールキン教授が目指したもの
──神山監督との制作についても詳しく教えてください。
ボウエン:神山監督はビジュアル面でのマスター(熟達者)であるだけでなく、素晴らしいストーリーテラーでもあります。彼自身がライターであり、ストーリーテリングのプロセスを深く尊重しているので、制作は非常にスムーズに進みました。彼の想像力はとても大きく、ピーター・ジャクソン監督を思い起こさせる部分があります。私が頭の中で思い描いているものを、彼らはさらに大きく、そして良いものにしてくれるのです。
また、彼は自身の才能に自信を持ちながらも、他の人の意見に対してもオープンで、とても協力的な姿勢を持っています。それが制作を円滑にし、素晴らしい結果に繋がったのだと思います。
どんなにプレッシャーがかかる状況でも、神山監督は常に冷静で集中しています。そして、作品のどの瞬間もより良いものにしようという努力を惜しみません。ただし、それを独断で進めるのではなく、最高の才能を持つスタッフと協力し、彼らの能力を最大限に引き出すことで、作品全体をより素晴らしいものにしています。その姿勢は、ピーター・ジャクソン監督と共通する点でもあり、私にとって非常に印象的でした。
──最後に、本作にはエルフもドワーフも、そしてホビットも登場しません。でも『ロード・オブ・ザ・リング』になっています。その理由について教えていただけますか?
ボウエン:『ロード・オブ・ザ・リング』の世界では、人間の国や人間の世界が物語の中心にあります。エルフやドワーフ、ホビットといったキャラクターたちは、実はそれぞれ人間性の一部を反映しています。トールキン教授は、彼らを通じて人間の姿を描き出し、最終的には人々の善良さや希望を信じていたのだと思います。
そのテーマは、ロヒアリムの物語にも深く共鳴しており、この作品を観る人々にとって普遍的なメッセージを伝えるものになっていると信じています。
それがまさにトールキン教授が目指したものだと思います。彼のキャラクターたちは、「こういう人間もいる」「こういう状況も人間にはあり得る」ということを示しているのです。それがホビットであろうとドワーフであろうと、根底にあるテーマは同じで、観る人々に深く響きます。
今回の物語ではロヒアリムが中心となりますが、「人間性」や「人間とは何か」という問いを通じて、究極的な善や希望について考えさせられる作品になっています。そういったテーマが、この物語をより深いものにしているのだと思います。
[インタビュー/石橋悠 写真/小川遼]
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